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第105話 逆襲 中編その4


 ラナリとマイヤーは鐘楼に向かって走った。


 鐘楼から飛来する弾丸をラナリが弾きつつ、着実に目的地の鐘楼へ接近していたが二人の予想とは反する事態が起きた。


 敵は鐘楼の敵だけでは無かったのである。


 鐘楼から五〇メートルほど手前に到着した直後に、ラナリ達は三方から銃撃を受けた。飽和攻撃から自分とマイヤーを守ることで、前進する余裕が無くなったラナリの足が止まった。


 マイヤーが周りを見ると帝国の短機関銃で武装したボル族の数は二、三、八、九、いや二〇名はいる。


 更に物陰から帝国の短機関銃で武装したボル族が増えた。全部で三〇名ほど、鐘楼にいる二名の敵を合わせれば三二名の部隊だった。


 この数からマイヤーが理解したことは、ボル族が体感できるほど明らかに、確実に目的を達成させるために本気でラナリ達を制圧しに掛かっているということであった。


 飽和攻撃によって、ラナリの能力の限界が来つつある状況を打破せねばならない。


「……ラナリ、後八秒……いや六秒は持ちこたえられる?」


 歯を食いしばって耐えるラナリが「十秒ぐらいなら」と横目でマイヤーを見た。


 マイヤーが周りのボル族を見つつ、手提げバッグからもう一丁の短機関銃を取り出した。

 

 そして、両手に持った短機関銃の銃身に磁場を纏わせる。


 マイヤーの電磁気を操作する能力によって生み出される携行銃火器の電磁加速砲化は、火薬と電磁加速を用いたハイブリッド式と言えるだろう。


「……背中合わせになって……ぐるっと一回り。……いい?」


 マイヤーがラナリと背中合わせて立って、両手を広げ短機関銃を構えた。


 ラナリもマイヤーが今から行うことを理解したようで、静かに頷いて答える。


 ラナリと背中合わせになったマイヤーが、電磁加速砲化した短機関銃をぐるっと回りながら発砲した。


 マイヤーは、チェーンソーで木々を薙ぎ倒すが如く敵を薙ぎ払っていく。


 周囲の敵が全て一掃され、五十発の弾丸が全て撃ちだされた時には短機関銃の銃身が摩擦やプラズマにより赤く溶けていた。


 周りの銃撃が止み、マイヤーが鐘楼を見る。


 残るは鐘楼にいる二名だけである。


「……残るは鐘楼内の敵……だけど短機関銃は壊れたから……ラナリ、何か持ってる?」


 ラナリが首を横に振る。


 マテバをトオルに返して以来、ナカジマから新たに護身用の自動拳銃を貰ってはいたが観光と聞いてエイトフラッグ号内の自室に置いといたままになっていた。


 純粋に観光を楽しもうとラナリなりに考えた行動なのだが、マイヤーはしばし考え込んでしまった。


「……敵のを使うのも良い……けど、また鐘楼から撃たれるのも……面倒」


「まあ、何とかなるんじゃないかな? 例えば、私の力で床を抜いちゃうとか」


 ラナリの力場を作りだして操作する能力は、物体を宙に浮かせることも出来た。


 過去に何回かやったことのある芸当だが、ラナリにとって床を抜くというのは初めての試みだ。


 ラナリとマイヤーが鐘楼内に入る。


 そして、ラナリが敵がいる床を抜くために天井を能力によって崩していく。


 まるでジェンガをゆっくり崩していくように、石煉瓦を一つずつ抜き取っていく様子は二人で遊んでいるようにも見える。


 少しずつ、鐘楼の床が崩れて行くのが敵にも分かるのだろう。


 二人の若い男の声が慌てたように騒いでいた。


 ラナリがこれを崩せば連鎖的に後は自重で崩れるだろうと、鐘架の床を兼ねた天井の石煉瓦を抜こうとする。


 だが、向こうからもラナリと同じような力で引っ張っているような抵抗を感じた。


「……ラナリ……どうしたの?」


「うーん? 向こう側から引っ張られてる感じがする」


 二人はしばらく考えてあることに思いついた。


「……押して駄目なら……引いてみる?」


 マイヤーがラナリより先に最善策を述べる。


 ラナリもまた同じことを考えていたので、二人は鐘楼から出てラナリが能力を解除した。


 すると石煉瓦が勢いよく外れて、男の間抜けな声が聞こえた直後に何とも可哀想な悲鳴が鐘楼内に木霊した。


 戦闘が終わり、ラナリはトオルの安否を心配した。


 ラナリの能力のような絶対防御も、マイヤーの能力のような超高火力の攻撃もないトオルである。


 覚醒したと思われる瞬時に致命傷の傷を再生した能力も、本当に有るのか疑わしくなるほどに再現したこともない。


 トオルに唯一あるのは何の変哲もない、極々限られた状況にしか発揮できない近接格闘術ぐらいなのだ。


 それと機転で難局を突破したことがあるのをマイヤーは知っているが、ラナリは知らない。


 マイヤーがふと横を見た時には既に、都市部へ向かってラナリは走り出していた。


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