第1話 とある夜に ~第一部プロローグ~
カクヨムで書いていたものをこちらでも投稿しました。
改稿が出来次第、随時改稿も行っています。
2018/01/09 PV15000突破 ユニーク3000突破 沢山の閲覧誠にありがとうございます。
その日は、いつもと変わらない静かな春夜であった。部屋には一人の少女がいた。
その少女は何度読んだかわからないほどに、結末のわかりきった冒険譚を読むのを止め、ランタンを消し、鎧戸を閉める。そして、少女は徐々に色が失われていくような日常に対し、半ば諦観に似た気持ちでベッドに横たわった。
このまま眠りにつけば、明日もまた今日と変わらない一日がやってくる。
「……明日も一日退屈なんだろうな」
少女は、誰が聞いてるでもない代り映えのしない閉塞的な世の中への小言を言い、天井を見上げ溜息をつく。少女が天井をぼおっと眺めていると、不意に外が閃光に包まれた。
少女がいる部屋の鎧戸の隙間から、強烈な光が差し込む。
十数年の人生の中で、このような不可思議な光を少女は見た事がなかった。
「……今の光、なに?」
少女は、慌てて飛び起き鎧戸を開け外を覗く。近所を見渡すが誰も鎧戸を開けていない様子だった。
どうやら近所の皆は、一瞬だけ差し込んだ光に気が付いていないようだ。
「光った場所は――」
少女は、光源を特定しようと、窓枠から身を乗り出して辺りを見回す。
月光に反射した紫髪の長髪を暖かな夜風が撫でていった。
だが、少女が見回して探せども光源らしきものは無く、月の出ていない真っ暗な闇には夜鳥の声だけが響いている。
――突如、猛烈な爆発音が街を覆い空気を震わせる。
突然の轟音に、少女は慄然とし、立ちすくむ。時間が止まった錯覚さえ覚えた。
だが不思議と恐怖は無かった。逆に好奇心が沸き上がってくる。
街の皆も一斉に鎧戸や扉を開け、何事かと一驚している。
街の男達が、妻や子を家の中に非難するようにと、呼び掛ける声も聞こえてきた。
つい先ほどまでは夜の静寂に包まれていた街が、今では蜂の巣をつついたような喧騒である。
程なくして焦った顔をした父が、立ちすくんだ少女のいる部屋のドアを乱暴に開け、飛び込んで来た。
「ラナリ! 無事か!?」
ラナリと呼ばれた少女は、父親であるアルバの声で我に返った。
「父さん、今のは……」
ラナリは、アルバが靴も履いておらず裸足で服だけは辛うじて着てはいるが、酷くよれている事に気が付く。
「何が起きたのかは判らん。判らんが、今から男達を連れて街の外を見回ってくる」
ラナリは、この爆発音が非日常の前触れであると直感的に理解した。
そして、これから起こるであろう非日常を期待した。
私も、確かめに行きたい――そのような感情が萌芽の如く芽生えた。
「父さん、私も一緒に行きたい。行って何が起きたのか確かめたい」
ラナリの顔は、先ほどと変わって嬉々としている。彼女の目は爛々と輝いていた。
「……ラナリ、それはダメだ。大人しく部屋で待つんだ」
しかし、ラナリの願いはアルバにやさしく諭すような声で一蹴される。彼女は、なぜついて行ってはダメなのか疑問を呈そうとするも、その声はアルバを呼ぶ男達の大声にかき消されてしまう。
――退屈な日常が変わる気がしたのに……
玄関前の男達に呼ばれ、急ぎ降りて行く父の後ろ姿を後目に、ラナリはむっとしながら心の中でぼやくのだった。
ブックマークしていただけると幸いです。