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おきあがり  作者: 鳶鷹
三章
95/136

24



「はぁ?!ちょっと待った!どういう事?」

『かなり入り組んだ話になるんだが……』



 ―咲良ちゃんの電話を貰った後、俺たちは食料品の確保に、とカゴ置き場に向かった。

 お前たちが来た事があるか知らないが、ここは入ってすぐのスペースが吹き抜けのエントランスになってる。二階から見下ろせる形で、真ん中に階段とエスカレーターがあるんだ。

 エントランスにパン屋と花屋があってな。どっちも閉まっていたし、静かだったから油断した。メモを持って誰がどこに、と話しながら広がっていたら、突然狙撃されたんだ。


 電話で聞いた男の子たちだ。二階に隠れていたらしい。

 手にそれぞれ武器らしいものを持って、今すぐ出て行け、と言われた。

 銃の腕はそれほど良くなかったと思う。はじめの銃弾は威嚇射撃だろうが、花屋のシャッターにぶつかったくらいだ。動いている人間の足元を狙って撃つだけの腕は無かったんだろう。

 相手も自分の腕を分かっていてあえて外したようだったから、すぐに撃たれる事は無いだろうと郷田さんも割と冷静に話をつけようとしたんだが……望月さんがな。

 銃を持ちだしたんだ。

 山下さんが言うには、典子たちの高校に残ってた自衛隊の備品をこっそり持ちだしたらしい。


 それを男の子たちに向けたから、彼らの方も殺気立ってな。

 出て行け、ふざけるなガキども、で応酬になってしまった。

 郷田さんと町内会長は望月さんを落ち着かせようとしたんだが……桐野くんだったか。特養への移動中に死者を一発で倒しただろう?

 あの光景が頭にあったんだろう。あんな子供に出来るなら、自分も出来る、って怒鳴ってな。

 気が大きくなったんだな、武器を手にして。身の丈に合わない物を持つと人はそうなりやすい。お前も気をつけろよ。

 望月さんはもうこちらの言う事が頭に入らないみたいになって、宥めようとした郷田さんと町内会長を撃ちかねない感じになってしまった。

 当然、相手の男の子たちも動揺したし、中には恐慌状態に陥ってしまった子もいた。

 望月さんが銃を持ちだしてから、しばらくは膠着状態だったんだが、その恐怖に耐えきれなくなった子が睨み合いに耐え切れなくなって、爆弾を投げたんだ。

 それがお前たちの聞いた爆発音だな。


 後で聞いた話だが、薬局に行った奴らがこっちに戻ってきた時に備えて、ネットで調べて作った、お手製の爆弾だったらしい。

 元のレシピが問題だったのか、作り方が悪かったのか。作った人間も驚くくらい爆発力があった。

 スーパーの自動ドアは壊れたし、俺も五十嵐くんも、みんな爆風で飛ばされてな。俺は数秒だと思うが意識が飛んだ。


 意識が戻って見渡したら、ひどい有様だった。

 望月さんは血塗れで事切れていて、望月さんの前にいた町内会長は望月さんがどこかの拍子で銃を握りしめてしまったんだろう、胸に弾痕があって亡くなっていた。

 郷田さんは何かの破片で腕が切れて出血がひどかったんだが、上から落ちてきた男の子を抱き留めたせいで、更に足首を捻って痛めてしまっていた。


 俺が話を聞いたのは、この男の子だ。

 名前は六川くん。五十嵐くんと同じ大学の子で、授業で一緒になった時にどっちも名前に数字があるのが縁で、話をするようになったんだとか。

 彼は俺たちの方に五十嵐くんがいるのに気付いて、仲間を止めようとしてくれたらしいんだが、間に合わなかった。

 爆弾が投げられた時に、五十嵐くんに注意を促そうとして二階の柵に身を乗り出していたせいで、二発目の爆発―薬局にいた男たちに暴行された女の子が死んで起き上がったらしいんだが、その子が隔離していた二階のどこかからか出てきて、爆弾を持っている子に襲い掛かって、持っていた爆弾が暴発してな。

 それが二度目の爆発の原因だ。その時の衝撃で、六川くんは下に落ちてきた。


 悪い事は重なるな。

 二階で隔離されてた女の子は一人じゃなかった。三人はいたかな。中に走るタイプがいたんだ。

 彼女は二階にいた男の子たちを襲っていたんだが、俺たちの存在に気づいたのか、下に降りてきた。

 その上、壊れた自動ドアからも死者が入ってきて。

 郷田さんと六川くん、山下さんと五十嵐くんと田原くんと一緒に、店の奥に逃げるしかなかった―



『今はスーパーのバックヤードにある、貯蔵庫の中だ』

「イガちゃんは?」

『多少擦りむいたりしてるが、無事でいる。五十嵐くん』

『遼っち?俺らは今んとこは無事だよ』

 

 友人の声に、遼ははぁー、と深いため息をつく。


「ビビったわ。んで、いつ頃こっちに合流する?それとも特養で会う感じ?」

『それなんだけど………』

 

 うぅん、と気まずそうに口ごもった五十嵐に代わり、卓己の声が答えた。


『助けて欲しいんだ』

「へ?」

『貯蔵庫と言ったが、巨大な冷蔵庫だな。金属製の丈夫なやつで広さは五、六畳か。中に食品が入っているから、空きスペースは三畳か四畳程度かもしれない。俺を含めた六人、五十嵐くん、六川くん、田原くん、郷田さん、山下さんがいるんだが……出られない』

「へ?出られないって……」

『古い冷蔵庫なんだ。外から開ける時にもコツがいるくらいで、お陰で外にいる死者たちにドアを開けられる事は無いんだが、中からも開けられない』


 はぁ、とため息をついて卓己は続ける。


『今の冷蔵庫なら閉じ込め防止機能があるんだが……これはぱっと見無い』

「マジか……冷蔵庫だと気密性が高いから……」

『酸素がもたない』


 いずれ窒息死する。

 告げられた言葉に、咲良たちは息をのんだ。


「持たないって……え、ちょっと待った!閉じ込められからどれくらい……や、あとどれくらい………」

『六川くんがざっと計算したんだが、この人数でこのスペースだと、せいぜい、残り一時間半程度だ』


 一時間半。

 切られたタイムリミットと、淡々とした卓己の口調に絶句する。まるで荷物の配達時間か何かの様に言うが、それは彼らが死ぬかもしれない、命のタイムリミットだ。


「今から一時間半だと、午後一時くらいまでかな」


 落ち着いた声に振り返ると、ルイスが美容院の壁にかけられた時計を見ていた。

 咲良もつられて時計を見る。

 現在時刻は十一時半過ぎ。ずっと動き回っていたから気がつかなかったが、いつの間にかこんな時間になっていたらしい。


『一時間半で即死ぬ、という事にはならないが、タイムリミットを過ぎれば二酸化炭素中毒で意識を失ったりする事もある。長引けば脳に影響が出るだろう』


 淡々という卓己の口調に怯えたらしい典子の手を、咲良はぎゅっと握った。

 それに勇気づけられたのか、典子が恐々とした問い返す。


「卓ちゃん、今は大丈夫なのぉ?」

『うん?今のところは一番まずいのは郷田さんの出血だな。止血はしたが、縫った方が良いかもしれない』

「マジか……。て、これ、父さんたちには?」

『言ってない。あちらに応援を頼むのは無理があるからな。心配をかけるだけだ』

「だよねー……」


 呻くように遼が呟くと、腕時計をいじっていたルイスが苦笑した。


「残り時間は一時間半でも、スーパーに行くのにも時間がかかるよ。急いだ方が良い」

「先生」

「動くなら全員でかな。ここで二手に別れると、いつ再会出来るか分からないからね。ネットで調べただけで爆弾が作れる人間がいるんだ。同じように出来る人間が他にもいるだろうし」


 ルイスの言葉に咲良たちも頷く。

 混乱が起きた直後は慌てるばかりだったが、少し状況が分かってきて落ち着きだせば、武器を自作したり、反撃の手段を求める人間も出てくるだろう。

 中には人間を襲う人間、がいても不思議は無い。

 実際、薬局の男たちの様に積極的に犯罪行為に走る人間もいるのだ。

 警察が機能していないからタガが外れたのか、元からそういう人間だったのかは分からないが、警察も自衛隊も頼れない以上、自分たちの身は自分たちで守るしかない。

 

「安西さんは、大丈夫ですか?」

「はい。痛み止めが効いてきたのか、ちょっと頭がぼぅっとしますけど、行けます。五十嵐くんもいますから」


 安西にとって五十嵐は、この数日を一緒に乗り越えてきた仲間なのだろう。少し硬いが笑顔で頷いた。

 咲良たちも遼に頷き返す。


「……分かった。卓ちゃん、待ってて。皆で迎えに行く」

「ああ。なるべく呼吸を減らして待ってる」

 

 それじゃあ、と呆気ないほどあっさり通話は切れ、遼は大きく息をついてから顔をあげた。


「うし、じゃあ作戦会議だ」



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