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おきあがり  作者: 鳶鷹
三章
94/136

23



 咲良と典子が窓から見守る中、美容院の前に着いた車からルイスが飛び出して来て、周囲にいた数人の死者を殴り倒す。

 その隙に遼が車から降り、二人は美容院の階段を駆け上がった。

 桐野がタイミングよくドアを開け、二人が駆けこんでくる。遼の方は浩史が蹴躓いたのと同じところで足を引っかけ、勢いよく美容院の中に飛び込んだ。


「何やってるのぉ、もう」


 しっかり、と典子が遼の腕を引っ張るが、全力疾走が堪えたのか、遼はそのままごろんと転がって、ゼーゼーとあえいだ。


「や、まじ、無理……ちょっと、タイム……」


 仰向けになってひーひー言う遼に手を貸すべきか、迷いつつ顔を覗き込んだ咲良に、遼があれ、という顔になった。


「咲ちゃん、顔どした?」

「え?」

 

 それ、と示された頬に手をやる。と、じん、と頬が痛んだ。指先には仄かに温かさが伝わってくる。


「あの男に殴られたな」


 ドアに椅子を噛ませて補強していた桐野が戻ってきて、苦々しそうに言った。

 その言葉に、ああ、と気づく。

 そういえば薬局で男に殴られていたのだった。逃げる事に意識がいっていて、痛みを忘れていたのだろう。

 気づいた途端に、男を打った右手の側面も痛みを訴えてくる。

 心配そうに「あの男?」と聞く遼に、安西の手当てを終えた浩史がやってきて、やおら頭を下げた。


「すまん。典子ちゃんと咲良を危険な目に合わせてしまった」

「え。浩おじさん?え?」


 驚いて起き上がった遼に、浩史が薬局での事を説明する。

 どんどん顔が険しくなる遼に話し終えると、浩史は典子と咲良の方に向き直り、頭を下げた。 


「怖い目に合わせて悪かった」


 浩史は家でも結構こうやって娘に謝るタイプだが、典子は友達の父親に頭を下げられるという状況に慣れてないから、慌てたらしい。

 顔上げてくださいぃ、と半泣きに訴える。


「で、でもちゃんと助けてくれたしぃ」

「うん、間に合ったし大丈夫だよ、お父さん」

「だが」

「だだだ大丈夫ですよぅ!そ、それに咲ちゃんは怪我したけど、私なんか全然だしぃ……」


 ガムテープくらい、とぺた、と典子が触れた口周りはもう赤みも無い。咲良もそれは同じだ。


「わ、私も大した怪我じゃないよ。ていうか、私、多分、相手の鼻折っちゃった、かも……」

「わ、私も椅子で思い切り殴っちゃったぁ……」

「え。典子お前、殴ったの?椅子で?」


 浩史と二人のやり取りに渋い顔を和らげかけていた遼が、ぎょっとした顔になった。


「う、うん。咲ちゃんに飛びかかろうとしたから、椅子でこう」


 典子が両手で椅子を掴んで振る動作をする。


「で、でも、そんなすっごい硬い椅子じゃなくて、パイプ椅子でぇ……」

「ガツンとやったわけだ……まぁ、良いんじゃね?女の子に乱暴するやつは殴られて当然だし。有罪有罪」


 ふふん、と鼻で笑ってから、遼は真面目な顔になって浩史と桐野に頭を下げた。


「助けてくれてありがとうございました」

「遼くん」

「典子も言ったけど、嬲り殺しにされないで済んだのは、二人が助けてくれたからだと思うんで」


 だからありがとうございます、ともう一度頭を下げた遼に、典子が目を潤ませてくっついた。

 その妹の頭を撫でてから、真面目な雰囲気に照れたのか、ふへ、と笑う。


「あ、小町も。あんがとな」


 照れ隠しに小町を呼び、寄ってきた小町の頭をわしわしと撫でる。

 小町の方も嬉しそうに尻尾を振って遼にすり寄り、頭を胸にこつんとぶつけてから、あれ?というように身を引いて胸元をすんすん嗅いだ。


「どした?あ、スマホにごっつんこしたか。ん?」


 遼が胸ポケットからスマホを取り出し、首を傾げる。


「やべ、卓ちゃんから電話着てた。もしもし?」

『遼!』

「どわっ!」


 離れていても聞こえた卓己の声に、咲良たちも窓の外を見ていたルイスも、安西と彼に痛み止めの薬と水を渡してた桐野も振り返った。

 

『典子と連絡がとれない!』

「は?典子?典子ここにいるけど……」

『本当か?』

「うん。典子、ほら」


 スマホをスピーカーに切り替え、典子に差し出す。


「卓ちゃん?」

『典子!無事だったか……』


 はぁー、と大きなため息が聞こえ、咲良たちは顔を見合わせた。


「卓ちゃん、無事かって言うけど、むしろそっちのが心配なんだけど。そっちなんか爆発してなかった?」


 遼の言葉に、さっきの爆発は彼らにも聞こえていたのだと知る。


『ああ。したな。それより今どこだ?薬局か?』

「うんにゃ。そっちとはちょっと離れたな。薬局から特養行くのと逆方向に走って―」


 遼が簡単に道順を説明し、今いる美容院の場所を告げ、自分たちも合流した直後だと伝える。


『……そうか。無事なら良かった。典子にも浩さんにも電話したんだが、どっちも出なくてな』

「あ。すみません、社長。気づかなかった」

「私もぉ」

『いや、無事なら良いんだ。薬局の方、どうもまずいのがいるらしい、という話を聞いてな』


 卓己の言葉に顔を見合わせ、浩史が代表して経緯を話し、謝る。

 遼と同じような反応をしてから、卓己はため息をついた。


『……そっちに二人を割り振っていて良かった。浩さん、ありがとう』

「いえ、力が足りず怖い思いをさせてしまったので……」

『いやこっちよりは断然マシだ。せっかくあの時電話をくれたのに生かせなかった』

「電話?」

『ああ。遼は知らんのか。浩さんたちが薬局で会った人から、スーパーの方に銃を持った若者がいる、と聞いていたんだ』


 卓己の言葉に浩史が夫婦の話をし、遼が頷く。


「……オッケー了解。てか、なんで薬局のやつらその夫婦は襲わなかったんだ?おばちゃんだったからか?」

『犯罪者の考える事は分からん。が、若い娘に目が無かったのは確かだ』

「どゆこと?」

『薬局の奴ら、元はスーパーにいたらしい。それがスーパーに残ってた連中の妹や彼女に手を出して追い出されたんだ。仲間割れしたんだと』

「へぇー、ってなんで卓ちゃん詳しいの?」

『スーパーの方にいた青年から聞いた』

「あ、スーパーにいる奴らって話せる相手だったんだ?」


 なんだ、と零した遼に、卓己はしばらく沈黙し、重いため息をついた。


『いや、交戦した』



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