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おきあがり  作者: 鳶鷹
三章
71/136

三章の序章です。



 なんで『さくら』なんてつけたの。


 そう咲良が母親に抗議したのは、小学生の頃だ。

 学校で同じクラスの男の子たちにからかわれたからだった。

 秋生まれなのに、さくら、なんて変なの。さくらは春だろ。

 字が違うもん、と言い返したが、男の子たちは笑って囃し立てるばかりで謝ってくれなかった。それで悔しい気持ちでいっぱいになりながら家に帰り、母親に訴えたのだ。

 母親は咲良の抗議にきょとんとし、それから笑った。


 お母さんね、昔から女の子が生まれたら、咲良って名前にしようって決めてたのよ。

 なんで?お母さんが桃花だから?


 母が桃の花の咲く頃に生まれたから、桃花、だという名前なのを咲良は知っていた。桃と桜の花の時期が被るから、二つの花がよくセットみたいに扱われる花なのも。 

 母親の名前に由来しているのは嫌では無かったけど、なんとなく良い気持がしなくて不貞腐れて聞いた咲良に、母は首を振った。


 お母さんの名前は単純に花の時期だからってつけられたけど、咲良はちゃんと意味があるのよ。花が咲くたび良い事がありますようにって。

 そうなの?でも、冬はお花咲かないよ。

 日本で咲いてなくても世界のどこかで咲いてるわ。日本がどんな季節でもね。だからいつも良い事があるのよ。


 初めて名前の由来を聞いて驚いた咲良は、しかめっ面を忘れて母親を見上げた。


 良い名前でしょ?


 ぽかんとした我が子の顔が面白かったのか、母はにっこり笑って言った。

 だが、ふ、と笑顔を消して咲良の頭を撫でた。


 でも……そうね、知らない人には秘密よ。

 なんで?

 ほら、揶揄う子もいたでしょ?それに知らない大人には詳しく言う必要も無いの。だから知らない相手には、春生まれです、て言いなさい。春生まれだから、さくらですって。

 ……嘘つくの? 

 

 嘘をつくのは悪い事だ、と学校でも言われるのに、と母に聞き返すと、母は少し困った顔をしながら、それでもしっかり頷いた。


 良いのよ。何か言われたらお母さんにそう言いなさいって言われた、って言えば良いんだから。


 だから、知らない人には、咲良の誕生日は秘密、と囁き、咲良を抱きしめた。

 抱きしめた母の腕の力はすごく強くて、そしてなぜか少し震えていた。



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