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おきあがり  作者: 鳶鷹
一章
20/136

19

八坂先生の独白。短めです。

<19>


 俺たちが体育館に着いたのは、四時少し前だった。

 体育館は結構人がいて。

 多かったのはバスケ部で、二十人ちょっとくらいだったかな。他には調理部とか卓球部とか、あと顧問の先生が何人かいた。帰宅部なのかな、て子も何人か。


 調理部と卓球部の子たちは何人か怪我をしてた。保健室にはもう行けなかったみたいで、バスケ部の遠征用品から救急箱を出して応急処置をしたようだった。

 ひどい子は本当にひどくてな……体育館の端っこにマットを敷いて、その上で二、三人が横になってた。


 林はバスケ部じゃないらしいが、友人がいたみたいで、先頭に立って行動してた。あの放送も、自分から立候補して放送室に駆け込んで流したらしい。

 太井先生は生徒思いの先生だから、危険だと反対したらしいんだが、あれで体育館に集まった子もいるから感謝しないと、て苦笑してた。


 異変が起きたのは、四時半前だったと思う。

 体育館も停電をしてたんだが、あそこは停電時用の非常灯があるんだ。だから真っ暗じゃなかったが、やっぱり視界は悪かった。

 お互いの表情を見るのにはすぐ横じゃないと無理、てくらいの明るさだから、薄暗闇かな。

 その中で調理部の先生は具合の悪い子を時々見てまわってたんだが……そのうちの一人が亡くなったんだ。


 俺たちが体育館に着く前にきてた子の一人で、本当は病院に連れて行きたかったんだが、外にはあいつらがうろついてるし、連れていくにも車の鍵は俺のも太井先生のも職員室だから取りに行けなくって。

 ただ怪我をしてるっていっても、今すぐに出血多量でどうこう、てほどじゃなかったらしい。多分縫う事になるだろうけど応急処置で傷口も大分ふさげてて、出血もそんなにひどくなかった。

 俺たちが着く前には調理部の先生とも、ぽつぽつ話をしてて、しんどいから少し眠ります、て言うんで、毛布をかけて寝かせてたらしい。


 調理部の先生が様子を見に行くまで誰も気づかなくて、先生が気づいた時にはもう意識が無かったんだと。

 まわりを動揺させないように小声で呼びかけたんだが、一、二分で息が止まった、と先生は言ってた。

 それから調理部の先生がこっそり太井先生に話したんだが、その場に偶々林がいてな。

 林は亡くなった生徒を外に出す、と提案した。


 俺も調理部の先生もびっくりたよ。何でそんな事を、て。太井先生は激怒した。

 そんな事をしてあいつらに何かされたらどうするんだ、可哀相だろう、て。

 林は色々理由を言ってたが、太井先生は絶対に駄目だって反対して、言い争いになった。どんどん声も大きくなっていって、十分くらいは口論してたと思う。他の生徒たちもそれに気づいて二人に注目してた。

 俺も調理部の先生も、何とか落ち着かせようと間に入ろうとしたんだが全然駄目で、むしろヒートアップさせてしまった。


 体育館中の視線が集まってたと思う。

 それが間違いだったんだ。

 みんなの注目がそれたマットの上で、あの亡くなった生徒が、横になって、動かなかったはずの生徒が、知らない間に起き上がってた。誰も気づかなかった。

 起き上がった生徒は、言い争ってる林と太井先生を見ていた生徒を、後ろから襲った。

 当然その生徒は悲鳴をあげた。それで騒ぎに注目していた俺たちは気づいたんだ。亡くなった生徒があいつらの仲間になってしまったと。


 そばにいた生徒はパニックだったよ。特に噛まれた生徒は半狂乱で、助けようと駆けつけたが、力が強いだろ?

 中々引き剥がせずにいたら、他の、具合が悪くて寝てたはずの生徒が、起き上がった。

 彼らがいつ亡くなったのかは分からないが、でも俺たちが知らない間に亡くなっていたんだろうな。


 多くの生徒がパニックになってしまって、体育館から逃げ出していった。

 体育館を仕切っていた林と太井先生は、初めに起き上がった生徒から手を離せないし、俺も二番目に起き上がった生徒に噛まれた子に張り付いていてな。止められなかった。


 でもひどかったのはここからだ。

 生徒たちが逃げ出したドアから、あのおかしくなった生徒や教師が逆に流れ込んできたんだ。

 体育館は混乱した。薄暗い中、逃げ惑う生徒の悲鳴と怒号が飛び交って……。


 俺も突き飛ばされたり転んだりして、気がついたら体育館の隅に立ちすくんでたよ。

 呆然としてたら杉山に腕をひかれて、一緒になって逃げ出した。

 もう外は暗かったし、どこに逃げたら、と思っていたら、林が駆けてきて非常階段を使おう、と言ったんだ。教師ならマスターキーを持ってるって知ってたらしい。


 それで校舎の裏に回って、作法室の方の非常階段から屋上に避難したんだ。



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