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おきあがり  作者: 鳶鷹
一章
14/136

13

またしても長いです。うーん、うまく切れない…。

<13>


 桐野にランタンを渡した後、二人の先輩たちはただ座って待ってはいなかった。

 それぞれ情報を集めていたらしく、戻ってきた咲良たちに渡瀬が予想外の報告をする。


「本館に生徒会長が残ってるって」

「え?」

「友達からメールで教えてもらったの。生徒会長と科学部部長、あと何人かで生徒会室にいるって」

「さっき変な放送あったでしょう?あれで他にも生徒がいるのに気づいて、メールを送りまくったんですって。そのうちの一人が教えてくれたの。生徒会長たちは体育館には行けなかったみたい」

「林先輩の……」


 またいつもの悪ふざけか、と思っていたが、あの時すでに本館はひどい状況になっていたのだろう。

 確か、体育館に集まれ、と言っていたのを思い出し、咲良がそう言うと白鳥が頷く。


「私たちも聞いたわ。でも自習室から下の階に行けなくて、断念したの。林の連絡先もしらないし」

「生徒会長の連絡先はさっきゲットしたよ。携帯だからメールでこっちの人数と居場所連絡しといた」

「すごいですぅ」


 他にも無事でいる人がいると知って、典子は感嘆し、咲良は安堵の息を漏らした。


「生徒会室って自習室の下だったのよね。非常梯子で降りれば良かったわ」


 白鳥が肩をすくめると、渡瀬が「きた」と小さく声をあげる。

 全員の視線が渡瀬の手の中に集中する。


「えーと『こちらに移動しますか?するなら援護します』だって」

「え、でも生徒会室って二階ですよね?本館の二階は……」


 思い出して桐野を見れば、桐野も難しい顔をしている。


「男子テニス部がいる。俺たちは二人ほど、うろついてるのを見た」

「分かった。聞いてみるね『男子テニス部が危なくないですか?』と」 


 渡瀬が送信し、待つこと数十秒。

 返ってきた返事は『視聴覚室前の廊下は封鎖しました』。


「どういう事……?」


 渡瀬が首を傾げ、白鳥は眉をしかめる。


「二階の特別教室前の廊下にバリケードでも作ったのかしら?でも、そうすると非常階段の二階のドアは使えない、てことよね」

「だとしたら、使えるのは非常階段で三階まで上って降りるか、校長室前を通って脇階段を上がるルートでしょうか」


 戸惑いながら咲良が発言すると、彼女の躊躇いの理由を察し、桐野が言う。


「校長室前は校長と教頭がいるはずだ。どちらもおかしくなっていた。昇降口から溢れた奴らがいる可能性も高い」

「そんな……」


 三階を使うルートでは、また二年一組にいる生徒を警戒しなければならない。出来たら一階から行きたかったのだろう渡瀬が絶句した。


「あの、だったら、ここにいた方がいいじゃないでしょうかぁ」


 典子の提案に、お互いに顔を見合わせる。


「……そうよね。メリットとデメリットを考えたら、ここにいるのもありじゃないかしら」


 白鳥の言葉に咲良も同意しようとしたが、ルイスがさえぎった。


「いや。移動した方が良いと思うよ」

「でも先生、」

「ちょっと気になる音がするんだよね」


 一番ドアに近い位置にいたルイスがドアを指差す。

 その仕草に皆が息すら潜め、ドアの方を見た。

 無音になった中、微かにズッ、ズル、と何かを引きずるような音がする。声ではなく足を引きずるような音だ。


「ネイト……」


 言うのが遅い、と桐野が苦々しげに睨みつける。


「いや、僕も今気がついたんだ。どんどん近づいてる感じだよ。音の感じだと二人かな。もっと増えたらドアを破られるかもしれない」

「で、でも、出入り口はそこだけですよね?目の前にいたら、どうやって避けたら……」


 渡瀬の疑問に、ルイスがドアを見ながら答える。


「アレはどうやら視覚より聴覚に頼ってるみたいだから、何かで音をたてて階段と反対側のトイレ前におびき寄せ、その隙に階段に向かう、ていうのが僕の案かな」

「問題は下の階にあいつらがいた場合だ」


 即座に桐野が返す。

 

「挟み撃ちにされるのは避けたい」

「だね。うーん。じゃあいっそ封じ込める?」


 軽く言われて、咲良たちは顔を見合わせた。

 別館の二階にある教室は図書室だけだ。閉じ込めるも何も、と互いに目くばせし合うが、ふと気づいて呟く。


「トイレ……?」

「正解」


 ふふ、とルイスが笑い、典子たちも「あ!」と納得した表情になった。

 階段に通じる廊下の奥、図書室の正面に位置する場所にトイレがある。ルイスはそこに彼らを閉じ込めるつもりなのだ。


「でも、どうやって……」


 渡瀬がルイスを見れば、それ、とカウンターの上にある鉛筆立てを指さした。


「鉛筆でも投げ落としておびき寄せたら、僕と眞がモップで彼らをトイレに押しやるよ。あとは椅子でも机でも本棚でも良いから、それで出入り口を封鎖する」


 簡単そうに言われて、咲良は思わず頷いてしまった。

 図書室は椅子も机も本棚も豊富にある。


「じゃあそれで良いかな?鉛筆を投げるのは白鳥さんお願いできる?」

「私ですか?」

「うん。女の子の中では君が一番背が高いからね。ドアの上に換気用かな?小窓があるでしょ?カウンターに椅子乗せるから、あそこから廊下に投げてくれるかな。僕たちはドアを警戒するから」

「はい」

 

 突然の指名に白鳥は驚いた顔をするが、確かに四人いる女子の中では彼女が一番背が高い。カウンターに椅子を乗せたとして、小窓から楽に廊下がのぞけるのは自分だ、と咲良たちを見回して納得したのだろう。

 頷いて鉛筆立てを持ち上げた。


「滑ると危ないから、渡瀬さん支えてあげて。中原さんと上野さんはガムテープ探してくれる?」

「ガムテープ、ですか?」

「うん。封鎖したら、最後に固定するから」


 てきぱきと指示されて、典子の「こっちだよぉ」という声に従い、急いでカウンターの後ろに回る。

 手渡されたのは梱包に使う普通のガムテープだ。これにどれだけの強度があるか分からないが、引っ越し用の段ボールにも使うから、結構丈夫なのは知っている。何枚も重ねれば大丈夫かな、と不安に思いつつ、予備も含めて抱えて戻った。


「ああ、見えました。良かったわ。二人です」


 いつの間にか椅子の上に立っていた白鳥が、ほっとしたように囁き、片手に持っていた文房具入れから鉛筆を投げる。

 からぁーん、と乾いた木の音が廊下に響いた。鉛筆一本だからか、意外に音は小さい。


「どう?」

「寄って来たわ」


 小声で尋ねる渡瀬に、白鳥が振り向いて頷く。


「でももうちょっと……もう一本投げるからもう少し待ってください。あ、ドアの前、空きました」


 ルイスが静かにドアを開いて確認し、桐野と二人で滑るように出て行く。

 躊躇なく廊下の暗闇に消えていく姿に不安を覚え、咲良はぎゅっと両手を握りしめようとし、手の中のガムテープにはっとした。

 このガムテープは封鎖した後に使うものだ。ガムテープより先に、まず封鎖用の椅子や机を運ばないといけない。

 

「典ちゃん、椅子運ぼう」


 傍らで一緒にはらはらとドアを見ていた典子に声をかけ、出入り口近くの机から椅子を持ち上げる。一つでは封鎖には足りないだろうから、ひとまずそこに降ろし、また机まで取って返して椅子を運ぶ。

 何度か往復して椅子を積み上げると、カウンターに乗せた椅子の上から様子を見ていた白鳥に名前を呼ばれた。


「先生が呼んでるから、椅子を運んであげて。大丈夫、階段からは誰も来てないから」

「あ、はい」

 

 咄嗟に返事をしたが、外に出るのは怖い。

 咲良の脳裏には、勅使河原の姿があった。飯尾がドアを開けた時、そこに立っていた勅使河原の異様な様子が頭から離れない。

 だがここで立ち竦むわけにはいかない。外では桐野とルイスが待っているんだから、と自分に言い聞かせ、深呼吸した。


「出ます」


 言葉に出して自分を後押しする。

 手を伸ばし、そっとドアに手をかけて開いた。

 誰もいない。

 目の前には暗い廊下が広がるだけだ。ほっと息を漏らし、椅子を持ち上げて廊下に足を踏み出す。


「咲良」


 不意に呼ばれた名前に、びくっと肩を震わせたが、この声は桐野だ。

 椅子を抱えたままトイレの方を見れば、モップを持った桐野が呼んでいた。


「椅子を積み上げるから、どんどん運んでくれ。なるべく早く」

「分かった」


 早く、という言葉と共に桐野の視線が階段に向けられる。確かにいつあちらから新しく何かが来ないとも限らないのだ。 

 焦る気持ちで、それでもなるべく音をたてないよう、咲良は典子と一緒になって椅子を運び続けた。

 ドア付近に用意しておいた椅子を全部運び終えると、今度はガムテープを、と言われて図書室に駆け戻る。

 

「はい」

「ありがとうね」


 にっこりと受け取ったルイスの背後には、椅子がうず高く積まれている。時折それがカタカタ揺れるが、どういう重ね方をしたのか崩れもしない。

 だとしたらあの中にきちんと閉じ込められたのだろう。

 咲良はほっとして図書室に駆け戻る。

 ちょうどカウンターに置かれた椅子から、白鳥が下りるところだった。


「大丈夫そうね」

「はい。あとは急いで移動ですね」


 机に置いておいた鞄を背負うと、同じように準備し終えた渡瀬がコピー用紙を引っ張り出し、カウンターにあった油性マジックで何かを書いていた。

 

「先輩?」

「これ図書室のドアに貼ろうと思って。はい、二人も」


 差し出された紙には、

『本館の生徒会室に移動します。生徒会長や無事な人がいるそうです』

 と書いてあった。

 八坂たちが戻ってきた時の事を考えてくれたのだろう。その下に渡瀬と白鳥の名前にスマホの番号とアドレスがあった。

 渡瀬の気遣いにほっとすると同時に、不安で胸が痛くなる。

 八坂たちも咲良と同じようにスマホを持っていない。公衆電話は昇降口だから、誰かに連絡して助けを呼ぶ事もできないだろう。

 どうか無事にこれを見てくれますように。

 祈るように願いながら、渡されたマジックで咲良も電話番号とアドレスを書いて典子に回した。


「そろそろ行こうか」


 準備は良いかな、と戻ってきたルイスが自分も記名し、尋ねる。

 全員がそれに頷いた。


「僕が先頭で眞が最後。指示は僕が出すから、きちんと聞いてね。君たちを無事に連れて行くから」



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