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おきあがり  作者: 鳶鷹
一章
12/136

11

<11>

 

 一組以外はドアが閉まっている、とルイスは言ったが、それでも緊張しながら進む。

 ルイスが言うには、例の二人の男子生徒は、一組から出たり入ったりしているらしい。どちらか片方か両方が中に入っている間に非常口に向かう、という手も考えたらしいのだが、その場合、彼らが出てこないかをルイスが警戒し、非常口の安全確認は渡瀬と白鳥がしなければならない。

 非常扉の外にもあのおかしくなっている生徒がいたら、最悪挟みうちにされる可能性があったので、自習室に引きこもっていたのだそうだ。


「そろそろだ」


 二組の前のドアにさしかかり、桐野とルイスがそれぞれモップと箒を構え、事前の取り決め通り、咲良たち女子三人は彼らの後ろに陣取る。

 じりじりと進むが、幸い一組の前の廊下に人影は無い。


「このまま行くよ」


 ルイスが先頭に立ち、間に女子三人を挟んで、桐野が後ろのドアを警戒する。

 咲良は桐野の、白鳥はルイスのすぐそばに立って何かあったら二人に知らせる役を、渡瀬は真ん中で光量を絞ったライトを持って明かり役だ。


 ルイスたちが前のドアが開いていないか、そこから誰か出てこないか、を確認し、もし空いているようなら白鳥が咲良たちに知らせる役なのだが、そのまま非常階段に向かったので、開いていなかったのだろう。

 これで挟みうちになる可能性が一つ減った。

 後は非常階段の外だ。

 この雨だから非常階段や屋上にいた生徒もいないだろうから、多分大丈夫だろうとは思うが、油断は出来ない。


 カチャカチャ、と金属の鍵が触れ合う音がする。ルイスが持っていたマスターキーだ。八坂が持っていたものと同じで、教員は出勤すると出退勤表への記入と一緒に預かるのだという。

 それを聞いて、桐野はルイスと合流できて良かった、と心底ほっとしていた。

 非常階段に鍵がかかっている可能性を、咲良も桐野もまるで忘れていたからだ。危うく袋の鼠になるところだった。

 カチャ、キィ、という音が聞こえ、ついで白鳥が小走りにやってきた。


「大丈夫。何もいなかったわ」

「良かった」


 告げられた言葉に足の力が抜けそうになる。

 桐野のジャケットの裾を軽く引き、行こうと伝えるが、桐野はドアの方を向いたまま動かない。


「来た……」

「桐野くん?」

「出てきたぞ」


 言われてドアを見ると、のそりと大きなものが出てくるところだった。


「っ」

「ゆっくり下がれ。大丈夫だ」


 両手を握り締め、言われたとおりゆっくり非常口に向かう。明かりも同じようなスローペースで遠ざかっているから、渡瀬も非常口へと動いているのだろう。

 遠くなる明かりの端に、ぎりぎり桐野が入るくらいだ。一組から出てきたものは、彼らに気づいているのかいないのか、明かりの外にいるので分からない。薄墨の廊下に黒いシルエットがゆらゆらしている。

 少しスピードを上げて非常口へと向かうと、明かりを持って待っていた渡瀬が「ひっ」と声を漏らした。


 振り返り、渡瀬の視線の先を追う。

 一組から出てきた人影は、咲良たちに気づいていたらしい。明かりの中に上履きの先が進入してきていた。

 妙に白い上履きの先に続いて、ズボンを穿いた足。指定のカーディガンが視界に入る。顔を見て知り合いだったらと思うと怖くて、咲良は足先しか見えないように俯いた。


「先輩、進んでください」


 立ちすくんでしまった咲良と渡瀬に、警戒したままの桐野が呼びかける。

 はっとした渡瀬が非常階段を潜ろうとし段差に躓きかけて、慌てて咲良が後ろから抱きとめた。そのまま二人で塊のまま、非常階段の踊り場に出る。

 外開きの非常階段の踊り場は広く、待っていた白鳥が二人を引き寄せた。


「桐野くん」


 呼びかけに、じっと相手を見据えていた桐野が身を翻し、非常階段に飛び出してくる。桐野がドアを潜り抜けるのに間をおかず、白鳥が叩きつけるようにドアを閉めた。

 バタン!と意外に大きい音にひやりとするが、すぐさま白鳥が持っていた鍵で施錠をする。鍵がしまってしまえば、もう大丈夫だろう。

 ほっと肩から力が抜けた。


「大丈夫かしら」

「はい。ありがとうございます」


 白鳥に声をかけられ、少し落ち着いてまわりを見る余裕が出来る。

 非常階段は校舎の外につけられた、鉄筋の階段だ。

 上には一応屋根があるが、横は鉄筋の間から外に手が出せる。雨が吹き込んで足元はびちゃびちゃだが、吹き込んでくる雨はあまり感じない。いつの間にか小振りの霧雨になっていたようだ。


「滑るから気をつけて」


 下から声をかけられてそちらを見ると、ルイスが次の踊り場まで降りていた。先行して下を警戒していてくれたのだろう。


「咲良」


 桐野に促され、咲良も一歩づつ慎重に降りはじめる。上履きは下がゴムだから雨が染みはしないが、滑る可能性がある。

 ひやひやしながら白鳥の背を追いかけ、二階、一階、へと降りた。

 途中、二階や一階のドアが開いていたら、と不安になったが、誰かが使った形跡もなく、無事に地上に降り立つ。


 降りた場所は渡り廊下のすぐそばだ。

 学校の裏にも当たる場所で植木が多い。また勅使河原がいるかもしれない可能性もあるが、ここで立ちすくんでいても仕方が無い。

 ルイスを先頭に、殿を桐野が務め、警戒しながら校舎の陰を抜けて渡り廊下へと飛び込んだ。


 渡り廊下はやっぱり暗かった。ブレーカーなのか、このあたり一体の停電なのか、校長室に入る事が出来ないので分からないが、旧館はまだ明かりが点いているから、本館のブレーカーが落ちているのだろう。


 明るい旧館にほっとしながら、五人は逃げるように旧館の入口へと走った。



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