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アルカナ ゲール~英雄の戦い~  作者: カルラ


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第二話 崩れ落ちる夢 2

 デビルは勝利を確信した。

 完全なる不可避の一撃。

 しかし勝負はまだ終わってはいない。

 何故ならだ。ワールドは咄嗟に盾を出して、デビルの斬首確定であったであろう一撃を防いだのだ。

「まさか、このあたくしにアイギスを使わせるなんて……褒めてあげますわよ。人間」

「そいつは光栄だな。女神さんよ」

 デビルはワールドから一度大きく距離を取る。

 そしてその盾を見て確信する。

「黄金の槍の時点で気付くべきだったな。その槍に綺麗な金髪と灰色の瞳。その時点で思えば該当する女なんて一人しかいない。だが……どうしてあんたが聖なる石を求める? なあ、アテナさんよ」

「アテナ? じゃあやっぱり……」

 後ろに控えていたシャルロットもその言葉に、やはりと気付く。

 薄々感づいてはいたが、確信が持てなかったのだ。

 しかし自身のギャルドもそう感じているのであれば、それは間違いないだろう。

―でも、アテナって……神を召還したの。このアテナのコンダクターは……―

 とても信じられない事実だ。

 確かにソルシエル・ゲールのシステムであれば、神であろうと召還することは可能である。

 けれど、神ほどの者をギャルドに使うのであれば、コンダクターに必要とされる技量も並大抵ではない。

「ええそうよ。でもまさかあたくしに切り札まで出させるなんて……それはとても栄誉あることよ。誇りなさい」

「そいつはいいな。だがそのアイギス……オレに見せたのは失敗だったな」

「まだ続けるつもり? 言っておくけど、アイギスの防御を破る事など不可能ですわよ」

「ああ知っている。だからこそ、オレなら破れる」

「強がりね」

 アテナは槍を両手でもって、攻撃の構えを取る。

 切り札であるアイギスは、既に実体を消し去り一つの思念として存在しているために目に見える形で装備をする必要は無い。

 ただあらゆる攻撃を防ぐ人々の思念によって作られた完全なる絶対防御を誇る特殊防具。それがアテナの切り札である。

「行くぜ」

 デビルはその絶対防御の鎧を持つアテナへと向かって駆ける。

 既に剣は、両手で持つ大剣へと代えている。

 しかし、例え剣が大きくなり攻撃力が増していようが結果は変わらない。

「あたくしの槍で串刺しにしてあげます!」

 アテナはデビルの心臓をめがけて槍を放つ。

 だが既に何度も見た同じ筋での攻撃である。

 デビルは容易にかわし、その大剣を振り下ろす。

 けれどその攻撃はアテナのアイギスによって防がれる――はずだった。

「無駄よっ! む、なっ!」

 咄嗟に後ろへと跳躍する。

 身体も捻り、致命傷を避ける。

 しかし、デビルの一撃は早く、アテナの右肩を深く抉りように切り裂く。

 激しい出血を伴い、片膝を付きながらデビルをアテナは睨む。

「なっ? どうして?」

 深手を負ってしまい、右腕が完全に動かなくなってしまった。

 優劣は既に決しているといっても良いだろう。

 だがそれでも、アテナには納得の出来ないことがある。

「あたくしのアイギスを……破壊した?」

 アテナのアイギスは、思念によって作られた最強の特殊防具である。

それは、攻撃を防ぐと言う結果を生み出す、因果律すらをも逆転させる最強の防具である。

決して易々と突破出来るような代物ではないはずである。

「オレの切り札。ダモクレスの効果だな。この剣の前ではまっすぐな伝説によって支えられた相手の切り札は全て破壊される」

「……そう。ならあなたはモルドレットね。どうりでアイギスを破壊するわけだわ」

 モルドレット。かつてのアーサー王の嫡子にありながら、反逆の末に父であるアーサー王を殺した円卓の騎士の一人。

 そしてアーサー王の頭を割り、死に追いやった魔剣がダモクレス。

 伝説の終焉を飾った魔剣である。

「さて。もう良いな。トドメを刺させてもらう」

「まさか? あたくしはヴァルキリーとまで言われた神よ。神が人間に殺されるなんて、そんなことがありえると思う」

「御託はもういい。潔く散れ」

「冗談」

 モルドレットはダモクレスを構え、アテナは左手のみで槍を構える。

 アテナの出血はまだ続いており、既に勝負は決しているとしか思えない。

―なに? アテナのあの余裕は……まさかまだ何か切り札を隠し持っている? ……でもそれならそれを出す前に勝負をつければ済む話よ。あの重傷なら切り札を出すにしても満足には使えないはず。だからすぐにトドメを刺せば……―

 シャルロットは直感で、嫌な気配を察するがこの勝負を止める気はない。

 神であるアテナが反逆の騎士モルドレットに対して相性が非常に悪いのは確かなのだ。

 この勝機を逃す気などはシャルロットにも存在しない。

「モルドレット! 今すぐにトドメを刺しなさい」

「言われなくとも承知だ」

 モルドレットはダモクレスを構える、アテナへと駆ける。

 それに対しアテナは立ち止まり迎え撃つ恰好となる。

「神の怖さ、はっきりと目に焼き付けなさい!」

「強がりをっ、この勝負貰ったぁっ!」

 アテナに対し、モルドレットが剣を振り下ろそうと力にタメを作る。

 その時だ。第三者からの介入が起こったのは。


「んなっ!?」

「くっ」

 モルドレットとアテナは互いに相手の命を絶つ一撃を狙っていた。

 だがそれは両者の目の前を横切る一つの銃弾によって遮られた。

「止めろっ! お前たちその戦闘ただちに中止するんだ!」

 銃弾を発射したであろう男が叫ぶ。

 しかしその言葉は両者からすれば怒りの対象でしかない。

「中止? ふざけるなよ。騎士の勝負に横槍を入れるなど、万死に値する行為だぞ」

「そうね。神の威信を知らしめるというときに、無粋な銃で邪魔するなんて……貴方には恐ろしい呪いを掛けてあげるわ」

 モルドレットとアテナは互いの戦闘を中止し、邪魔をした男に対して武器を向ける。

 だが男は両手それぞれに握った拳銃の銃口で二人の頭へと狙いをつける。

「良いのかい。僕の名はワイアット・アープ。この度のソルシエル・ゲールではジャスティスのアルカナで呼ばれたギャルドだ。そして僕の銃弾はギャルドに対しても致命傷となる傷を与える事が出来る。銃の威力を知らない時代に生きた君達には脅威だと思うが」

 ワイアットの不敵な笑みに対し、アテナは起源を直し面白い者を見る目で返す。

「ふん! 人間ごときの作り出した何の神格も無いようなただの玩具があたくしに通じると思っているの? いいでしょう。試しなさい。ただし……その後で貴方は地獄の苦しみを味わって殺します。神を試すとはそういうことです。その覚悟があるのでしたらどうぞ撃ちなさい」

「……いや、止めておくよ。僕が君達の戦闘行為を止めたのはそういうことじゃない。ただ……今の状況で殺し合うなど、そのような事は止めるべきだ」

「今の状況? オレ達は殺し合うために召還されたギャルドだ。それが殺し合いを中断するなど、どのような状況でも存在しないと思うがな」

「確かに普通であればそうだ。だが……今は事情が違う」

 ワイアットは真剣な目で語り出す。

 それに対し、モルドレットもアテナも一度武器を収め、言葉に耳を傾ける。

「このソルシエル・ゲールは英雄達の殺し合いだ。しかし、今この島には何の罪もない少女を誘拐し続ける英雄とは程遠い外道が存在している。なら僕達は英雄として、真っ先にそいつを倒すべきじゃないのか。僕達が戦うのはその後でいい。まずは休戦協定を結んで、互いに情報を交換し合って、誘拐を続ける外道を打ち倒す。本当の戦いはその後だ」

 ワイアットは真剣に訴えた。

 けれどその訴えに対し、アテナの答えは意外だった。

「きゃっ……きゃはははははははっ! ちょっと何? マジで言ってるの? 少女を誘拐している奴がいるからそいつを真っ先に倒すべき。今は休戦すべき! ってさ。そんなの放っといたらいいじゃない。大体誘拐してるギャルドなんて、どうせ有象無象の平凡な悪党でしょ。そんなのどうせ誰かがすぐに倒すわよ。そんなことで休戦なんて馬鹿らしいにも程があるわよ」

 嘲笑だった。

 ワイアットの訴えはアテナには到底理解出来ないことだった。

 しかし、モルドレットの答えもやはり同じような物だ。

「下らないな。そもそもそれで休戦する必要などどこにある。許せないのならお前一人で追え。他者にまで同意を求めるな」

「だが僕達は英雄だ。英雄であるのなら悪しき者を打ち倒すべきだろ」

 ワイアットは更に食い下がる。しかしそれに対しモルドレットは強い言葉を返す。

「ふざけるなっ! 確かにオレは英雄であり、一人の騎士だ。だが、オレは弱者の味方などではない」

「だが、英雄であるのならお前達を崇拝した人間も大勢いただろう。そういった者のためにも、お前はその剣を正義の為に使うべきだ」

「違うな。騎士であるオレに対し崇拝した者が望むのは、騎士として戦うことだけだ。断じて弱者の味方となって、悪党を討つことではない! 保安官として、人々の平和のために生きたお前には分からないだろうがな」

「そうね。それに崇拝などあたくしは望んでもいないわ。ただ人間が勝手にあたくしを崇拝しただけ。人間が神を崇拝し、神に好かれようと媚びようとも、神が人間に媚びるなどありえないわ。第一誘拐をしているのも、神とは何の縁もない子悪党でしょう。つまり所詮は人間同士の些事に過ぎない。そのような些事に神が出張るなどありえないことだわ」

「……」

 ワイアットは言葉が続かなかった。

 いや、言葉を掛ける意味すらないと言うのが正しい。

 この二人の価値観。それはワイアットには到底理解出来ないものだったからだ。

 保安官として人々の平和を守り続けたワイアットにとって、反逆者の汚名を背負ってなお、円卓の騎士として後世まで語り継がれた騎士モルドレット。

そしてオリンポス十二神の一人にして戦女神とまで讃えられた偉大なる女神であるアテナ。

 この両者とワイアットではあまりにも、価値観が違いすぎた。

 話し合う必要など最初から皆無だと言わんばかりにだ。

 その様子にモルドレットとアテナはほぼ同時に視線をワイアットから外して互いを見詰め合う。

「さて。では続き……と行きたいが……どうする?」

「そうね……正直に言って興が削がれたわ。この傷のお返しと行きたいけど、もうそんな気分じゃないわね」

「同意だ。さて……コンダクターよ。オレもあいつももう今日はお開きというところ意見は合致しているが、コンダクターの意見はどうだ?」

「そうね。まあわたくしとしても構いませんわ。じゃあ今日は引き上げましょう」

「ああ。そういうことだアテナ。次に出会う時。それがお前の末期となる。覚悟しておけ」

 その言葉を残し、モルドレットはシャルロットと共に姿を消してしまう。

 それを確認してからアテナも溜息を一つ残して、姿を消してしまう。

「……何故だ。あいつらは理解していない。ルールを侵す危険分子を放置していたら、世界は狂ってしまうというのに……あいつらは……くそっ!」

 ワイアットは一人、近くの壁を叩きながら悔しさを叫んだ。


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