第二話 崩れ落ちる夢 1
すっかり日が落ち暗闇に包まれた夜。
ビジネスホテルの一室にて、エカテリーナ・エステスは小気味良くノートパソコンに論文を書いていた。
彼女は、使い魔などを飛ばしてロラン島全域の戦闘を監視していたのだが、それが非常に良かった。
既にローランと謎の騎士の死闘。
更にやはり謎の騎士と海賊風の男の死闘。
この二つを見れたのだ。
生で見たわけじゃないので、肌で感じるような臨場感は出ないが、論文に必要な具体的な数字でのデータはかなりの量が取れたといって良い。
研究には充分なほどだ。
「ふふふ。最高。やっぱりソルシエル・ゲールに参加した甲斐があったわね」
エカテリーナが調子良くキーを叩くが、背後ではギャルドがエカテリーナの前にそっと立っている。
エカテリーナの護衛。
それがこのギャルドに課せられた使命であるが、全くやる事がないと言うのが現状である。
また、今のこの島に起こっている現状にも、憤りを覚えている。
「コンダクターよ。頼みがあるんだが」
「何?」
「今この島では謎の連続誘拐殺人事件が起こっている。それはコンダクターも知っているだろう?」
「ええそうね。だけどそれが何?」
「弱き者を無為に殺し続け、人々の平和を乱す。そのような奴が俺は許せない。早急な対策が求められる。だから、俺にその人物の捜索と処刑を許可して欲しい」
ギャルドは真剣な、強い意志を込めた瞳でエカテリーナを見つめる。
するとエカテリーナは論文執筆の手を止めて、振り返ってギャルドを見つめる。
―いい瞳だわ。ジャスティスのアルカナで召還しただけあって、正義感はさすがね。それに、そろそろこのギャルドの戦闘能力も確信したいし……―
「良いわよ。ただしあなたの戦闘データを取りたいから、監視用の使い魔を一体貴方につけるわ。それと明日の朝には絶対に帰ってきなさい。この二点を守れるのであれば、行って良いわ」
「もちろんだ。今宵俺は正義の執行者となる。必ず、この街に平和を取り戻してみせる!」
「良い返事ね。じゃあ行ってきなさい。あなたの強さ、コンダクターである自分にしっかりと見せなさい」
「承知。必ず期待に添えてみせる」
ジャスティスは良い表情を見せながら、夜の街へと旅立っていく。
「うふふ。その力、……しっかりと見せてもらうわよ」
エカテリーナは、それを見届けると楽しそうな笑顔を見せていた。
夜となり、人の気配も完全に無くなった公園。
そしてその中央付近に位置する広い草原。
その真ん中で一人の騎士が、悠然と闘気を放ちながら敵を待ち構えていた。
背後にはコンダクターであるシャルロットも控えており、戦闘準備は万全といった様子である。
「遅いわね。まさか誰も来ないのかしら?」
「そんなことはないだろ。オレの闘気を感じ取ればまともな騎士であればまず戦いたくなるというものだ。まあ今朝のような海賊風情ではそのような気は無いだろうがな」
「へえ、じゃあこの場に来る相手ってのは、非常にまっすぐな闘志を持ったギャルドなわけね。なら大丈夫ね。あなたの切り札は、優れた英雄であるほど致命的な武器となる。さぞわたくしを満足させる結果をくれることでしょう」
「ああ。その期待には応えるつもりだ」
デビルのシャルロットはまだ見ぬ敵を待ち続ける。
だが暫らくすると、一人の女が暗闇より現れる。
黄金の槍を構えた金髪のとても美しい女性だった。
「あらあら。とても強い闘気で周囲を威嚇しているので、どのような人物と期待したら……へえ、あなた方があたくしの相手をするのかしら」
その女性は少しばかり小ばかにしたような感じでデビルを見つめる。
その態度にはデビルも、そしてシャルロットも不快に感じてしまう。
「態度が悪いですわね。それにコンダクターの姿も見えないとは……姿を消してギャルドにだけ戦いを任せる臆病なコンダクターに仕えるようなギャルドなど、たかが知れていますわ」
「黙りなさい、魔術師風情があたくしに気軽に言葉を掛けるのではありません。まず手を上げ、あたくしの許可を得てから発言しなさい。殺しますわよ」
「魔術師風情? その魔術師の助けがないと姿も保てないようなギャルド風情に言われたくありませんわ」
「……へえ、あたくしを怒らせるとは……ではすぐに殺して上げます。その不遜な態度、あの世で後悔しなさい」
「すぐに殺す? やってみなさいよ。デビル、すぐにあいつを殺しなさい!」
「ああ、オレもあの態度は気に食わない。オレがあいつを殺して見せる!」
「面白いですわね。デビル風情がワールドのアルカナによって召還されたあたくしを殺すなど……面白すぎるわよ!」
デビルとワールドは同時に飛び込み、武器を交差させた。
一瞬での出来事だ。
デビルの出したのは、今朝使用したものとは異なる華麗な装飾が施された宝剣。
それに対するは、黄金の眩い輝きを話す槍。
その二つが交差し、激しい音が鳴り響く。
それが二度三度と繰り返され、火花も散る激しい戦い。
だが、その均衡はすぐに破れた。
ワールドの持つ武器は槍。
当然デビルの持つ剣よりも間合いが長い。
それを利用し、僅かに距離を取っての突きを繰り出す。
「はあっ!」
「ぐっ!」
咄嗟に避けるデビル。
しかし、その後も間髪いれずに連続で突きを繰り出す。
一方的なまでの間合い外からの攻撃。
戦いの天秤は大きくワールドの方へと傾いてゆく。
「どうしたの? 殺すのではないの? 所詮口だけかしら」
挑発を交えてのワールドの連続の攻撃。
だがデビルは落ち着いてその攻撃の全てを弾き返す。
浮き足立つことなく、冷静に状況を見据えている。
―予想通りね。わたくしのデビルの勝ちよ。そんな槍捌きじゃ、わたくしのデビルは倒せませんわ―
シャルロットもその様子を慌てることなく見届けている。
むしろ、ワールドが攻撃を繰り返しているのを待っているかのようですらある。
そして、その時はすぐに訪れる。
「いい加減にしなさい。このぉっ!」
ワールドが更に速度上げて、鋭い突きを繰り出した。
だが、それは完全にデビルの作戦通りだ。
「抜かったなワールド。それが貴様の油断だっ!」
「なっ?」
ワールドの鋭い突き。
それは先程よりも更に早い、一撃必殺の刺突である。
当然踏み込みも深くなり、故に重心も前のめりとなる。
「っ!」
ワールドは気付くが遅すぎた。
デビルはその一撃を避けながらも深く踏み込み、必殺の一撃を繰り出す。
狙いはワールドの首である。
「その首、頂いたぁっ!」
デビルの剣がワールドの首へと走った。




