プロローグ 戦う理由 1
その戦いは絶望しか無かった。
舞台は複数の魔女と魔術師による戦い、ソルシエル・ゲール。
参加するのは未来を嘱望された優れし才を持つ魔女、魔術師。
それぞれの願いの為に命と名誉を掛けた様々な年の女達による死闘。
共に戦うのは、契約を行った伝説の英雄達。
しかし戦いの果てにあるのは、絶望のみ。
これはその一部始終を語る、どうしようもない悲劇と惨劇で彩られた物語。
プロローグ 戦う理由。
ソルシエル・ゲール 一ヶ月前。デンマーク コペンハーゲン。
アーニー・アンデルセンは理事長室へと繋がる長い廊下を一人で歩いていた。
彼女はデンマークの首都、コペンハーゲンにある名門魔法学校に通う生徒である。
アーニーは普段の弛まぬ努力によってあらゆる魔法を習得した、いわゆる秀才タイプの魔女であった。
また若干19歳にして生徒会長を務めるほどの人望もある。
そんな彼女は、理事長室へと呼ばれる理由がイマイチ分からなかった。
「なんなのかな? 特に呼ばれる理由が分からないけど」
独り言を呟きながら、理事長室の前に辿り着き扉を二回ノックする。返事はすぐに返ってきて、アーニーはすぐにドアを開く。
「呼ばれてまいりました。アーニー・アンデルセンです」
「ほっほっほ。君がアンデルセンくんか」
「はい」
「まあ席につきたまえ。座ってゆっくり話がしたい」
「わかりました」
アーニーは言われるままに、勧められたソファーへと座る。理事長と正面を向き合う形となる。
「それでご用件はなんでしょうか?」
「用件か。そのことなんじゃが……君はソルシエル・ゲールというものを知っているか」
「はい。一年に一度、聖なる石によって選定された魔法、魔術を伝える学校から選ばれた魔女、魔術師による戦い。それぞれが伝説となっている英雄を召喚し、パートナーの契約を結び戦い抜く。そうですよね」
「うむ。その通りじゃ。それでは、今回の開催地はどこか知っておるか?」
「はい。確か私たちの国で開催されることになっています。具体的な場所は確かロラン島でしたよね」
「そうじゃ。そこが今回の開催地となっておる」
「ですが、そのロラン島で行われるソルシエル・ゲールと私に一体何の関係があるのでしょうか?」
アーニーはイマイチ要領を得ずに首を傾げる。しかし次の理事長の言葉をアーニーを驚愕させるには充分なものだった。
「アンデルセンくん。君が我が校の代表に選ばれたからじゃ」
「えっ!?」
理事長の言葉にアーニーの身体が硬直する。
―代表? 私がこの学校の代表? そんな……でも―
頭を急速に回転させるが、思考がまとまらない。
アーニーは混乱状態に陥っていた。
「落ち着きたまえ。それに何を驚く事がある。ソルシエル・ゲールは開催地の国から誰かは必ず選出されるルールじゃ。それなら、生徒会長も勤めるアーニー・アンデルセン。君が選ばれるのは至極全うなことだろう」
「ですが、私よりも戦闘技術に長ける生徒はいます! ソルシエル・ゲールが戦いである以上、私よりも純粋に戦闘技術のある者を選ぶべきではないでしょうか」
「うむ。確かに君の言う事は一理ある。しかしじゃ。君は戦闘技術で自分より上の者がいるというが、それはどうじゃろう。成績や模擬戦の結果を見る限り、君よりも強い者がいるとは思えないが」
「それこそ買いかぶりです。私はそんな……」
「知らぬは本人のみか……まあよい。それでは仮にその通りだとしよう。それでもじゃ。ワシは君を代表にしたじゃろうな」
「どうしてですか」
「今回はロラン島。つまりワシ達が大会を開催する運営側だからじゃよ」
「開催する側。それと選出に何の理由が?」
「それはな。ソルシエル・ゲールが一種の戦争だからじゃよ」
「戦争?」
「ああ。そして、参加する魔女達は全員が強力な英雄を従わせておる。じゃが……参加者の中には、必ずルールを侵す者が現れる。魔法や魔術に関することは一般人には秘密であるのじゃが、それを無視して派手に暴れまわる者。また中には一般人を大勢巻き込んで犠牲を出す事も厭わないような外道。そういった輩は必ず現れる」
「そんなの、運営側で処罰をしたり、学校側にペナルティを与えるのは駄目なんですか?」
「強力な英雄を従わせているのじゃ。おいそれと処罰を行おうにも返り討ちにあうだけじゃ。それに、大会期間中の事はあくまでも、その中のみのこと。大会後は一切の禍根を残さないというのが、取り決めじゃ。よって、ルールを侵してもそれで学校や個人に対してペナルティを科す事は出来んのじゃ。つまりルールと言っても強制力は無いのじゃよ」
「そんな……酷いですよ」
「うむ。確かに許せる事ではない。だが、実際過去四十八回にわたるソルシエル・ゲールにおいても、ルールを遵守して勝ち抜いた者など片手の指の数にも満たないのが現状じゃ」
「じゃあつまり……」
「ああ。ソルシエル・ゲールを行うロラン島は確実に何らかの被害に見舞われることになるじゃろうな…………だからじゃよ。アンデルセンくん。君を代表に推すのは」
「えっ?」
「ルール違反を許せない真面目な性格の君であれば、そのような輩を処分出来るじゃろう。君と君が召喚する英雄であれば、必ずそのような惨劇による被害を最小限を抑えることが出来る」
「理事長。つまり私にルールを侵す者の処分を行う正義の使者であれと、そういうことですか?」
「その通りじゃ。そしてそれができるのは、アーニー・アンデルセン。君だけじゃ」
「そのようなお考えで私を……分かりました。このアーニー・アンデルセン。我が身に代えても、ソルシエル・ゲールを守り抜きます。ルールに乗っ取り正義の使者として!」
「期待しているぞ」
「はい!」