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満月の夜に、祈ること

作者: 矢口まゆか

初の恋愛小説です。大切な人を想って、書きました。

 「君は新月みたいだね。」

ぽつり、と瑞樹が言う。屋根裏の窓から、二人して見上げる空には、半月が白く浮かんでいる。

「そこにちゃんと居るのに、何だかいつも掴めない。」

それは私の、散歩好きな意識のことを言っているのかしら。

「ならあなたは三日月だわ。」

私は言う。

「そんなに細くて頼りないかな、僕は。」

瑞樹はマイッタナ、という風に、ははっと力無く笑う。

 そういう意味で言ったんじゃない。三日月の、あのカーブのくぼみで眠ったら、それは心地がいいと思うのよ。瑞樹の脇の下に、頭をぴったりはめ込んで眠るみたいに。きっと、寝心地がいいと思うのよ。

 でも、困ったように笑う瑞樹の顔が愛おしくて、私は何にも言えなくなってしまった。この笑顔が、たまらなく好き。力無く漏れる息が、とてもセクシーだと思うの。


 「もう、寝ようか。」

ぽん、と私の頭に手を軽く乗せて、瑞樹が言う。細くてごつごつした、大きな手。私の猫っ毛をさらにふにゃっとさせて、胸の奥まで熱くする。だけど瑞樹の手が、ふっと頭を離れると、どうしてかしら。急に、淋しい。一瞬で熱は冷やされて、荒野に一人、置いてけぼりになった気分。

 新月は瑞樹のほうだ。そこに居るはずなのに、たまに見えなくなる。消えてしまいそうに、遠くなる。不安で、怖い。いつかあなたは私に呆れて、居なくなってしまうんじゃないかしら。私は不安に押し潰される。呼吸も出来ない程、苦しくなる。


 寂しさを払うように、私は瑞樹の脇の下に滑り込む。私の右頬、体に、瑞樹の体温がじんわり宿って、たちまち私は幸福になる。やっぱり瑞樹の寝心地は、三日月だって敵わない。戸棚の中の安定剤だって、敵わない。温かい安心感で、満たされていく心。大丈夫、瑞樹は隣に、ちゃんと居る。


 私の頭を撫でる瑞樹の手の、規則正しいリズムが、ゆるやかに眠りを誘う。ゆっくりと、優しい。そうして訪れたまどろみの中に、いつかの瑞樹がぼんやり浮かぶ。

「満月の夜には、何かが起こる。」

瑞樹は珍しく興奮気味に、そう言っていた。意味がわからない私を余所に、難しそうな外国の文献を、食い入るように見つめながら。

 満月には、ひとの心に作用する、不思議な力があるらしい。瑞樹はそれを、かたく信じている。あまりにも真剣なのが可笑しくて、私は笑ってしまったけれど。

 だけどもし、それが本当なら。もし本当に、満月にそんな力があるのなら。私のココロも、治せるかしら?不思議な力で、治してはくれないかしら?叶うなら、いくらだって祈るわ。月に届くまで、声が枯れるまで、何度でも。

 私の為に、瑞樹の為に。


 天窓から細く伸びる月明りが、空気中の細かい埃を照らしてキラキラさせている。星も、月も、埃も、瑞樹も。全部、キレイ。ああ、どうかいつまでも、瑞樹の傍で笑えるように。二人のこの幸せが、壊れることのないように。


 「次の満月は、いつかしら?」

私は瑞樹を見上げて聞く。瑞樹は一度目を見開いた後、また、例の困ったような顔で、優しく笑った。

拙い作品を読んで頂き、ありがとうございます☆評価、感想頂けると幸いです(´・ω・`)

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― 新着の感想 ―
[一言] はじめまして。 心の病をテーマにするのは なかなか難しかったと思います。 心の病をかかえる人たちが こんな風に 自分を包み込んでくれる人と出逢えたら 回復も早いんだろうなぁ…と思いました。…
2007/08/09 13:13 宮薗 きりと
[一言] 私もパニック障害についての小説を執筆中の為、興味深い作品でした。 薬よりも安らげる相手に出会えたことはとても幸せですね。 景色が想像できるような、とても詩的な作品だと思います。
[一言] 相手のことを思っているがための自分の気持ち。それが文の端々で美しく表現されていて、とても好感がもてました。 これからも執筆頑張って下さい。
2006/07/18 09:32 チェルシー
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