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あの遺影は気にくわない

ぽん、ぽん、ぽん、と規則正しい木魚の音と坊さんのお経が会場には響いていた。


「うう、ジロー……。」


今、俺は声を殺してすすり泣く母さんの隣に座っている。母さんとは些細なことで喧嘩ばかりしてたけど泣かれると弱いんだ。ほら、俺は紳士だからね。紳士だから俺は母さんに普段は絶対に出さない優しい声で、泣くなよ、と言ってみるが母さんは何の反応もしない。


いつも俺と一緒にくだらない事で爆笑したり、それが原因で先生に怒られたりしていた仲間達も今は悲しそうに顔を歪めていたり情けなく泣いていたりする。

おいおい、男がそう簡単に泣くんじゃねぇよ。男が泣いていいのは嬉しい時と、誰かが死んだ時だけだ。


そこで俺は改めて思うのだ、



(あぁ、こいつら、俺が死んだから泣いてるのか。)



俺、ジローこと佐藤雪慈朗は享年18と、早くも短い生涯を終えてしまったのだと。


昨日は何が何だか分からなかった、こう物思いにふけってる今でさえこの厭にふわふわ軽い「霊体」に違和感を覚えている。こんなにハッキリ意識があるのに死んでるなんてな。今は死んじまったもんはしょうがねぇとこの現実を受け入れてるけど、…本当は受け入れたくなんてねぇよ。


「どこの葬式も同じようなもんだなー。辛気くさくてかなわねぇ。」

「ツナ、来たんだ。」

「ジローの門出だからな~」

「…ツナはさ、葬式ん時どうしてた?」

「俺もジローと似た様なもんだよ。」

「……ふーん。」






………昨日は本当に色々あった。それこそ人生の中で一番めぐるましい1日だったんじゃなかっただろうか。

(めぐるましかったのは人生終わった後か。)
















2011年10月19日水曜日


この日は久しぶりに秋らしく、ブレザーとセーターを着こんで家を出た。


「ジロー!鍵忘れてるわよ!」

「あ、あぶねー!」


前日に怖い話を読んでいたら気付けば深夜一時。怖くて風呂に入れなかった。だからあの日は朝早く起きる予定だったのにうっかり寝坊してしまい、でも風呂に入らない訳には行かないから急いで風呂に入った。それでも時間ってやつは無情だから家を出たのは本当に遅刻寸前。反省文なんて冗談じゃない、めんどくせぇ。俺は必死に自転車を飛ばした。


急いで急いで、着こんだブレザーが暑くてたまらない。普段俺はわりかし信号は守る方だがこの日ばかりは信号を無視した。


「うわビミョー、いっそ潔く諦めるか…?」


だが反省文は嫌だ。信号は赤だったが左右に車の気配はない。俺は信号を無視してわたった。事故が起きたのは信号じゃない。


「あっちー…」


近道をしようと階段を自転車で下ってるとき汗が目に入って、


「いっ…、やべ!!」


ガシャン!!


俺はこけて自転車と一緒に階段を転がった。その時すでに打ち所が悪かったのか頭がガンガンして意識は朦朧だったが、不幸中の幸いなのかすぐに意識を飛ばした。

人間ってやつは不思議なもんで、自分が死ぬ瞬間が分かるんだよな。死んでしまう事が本当に怖かったしすげぇ痛かったけど、誰も巻き込まなくてよかった、とか、これで反省文書かなくて済むかな、とか思ったのを覚えている。


自分の最後の言葉だって言うのに俺は大層な事なんて思いつかず、


「まだ今週のニャンプ読みきってねーのに。」


なんて、至極どうでもいいことを口走った。


今更ながら、もっと気のきいた事を言えばよかったと少し後悔。






次に目を覚ました時には、隣に血を流した俺がいたんだ。






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