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刻まれなかった魔法  作者: たそたそめん
2/2

2話 レーベ戦

1話も2話もちょこちょこ補足とかするかもです。

したらその都度お知らせします

憂鬱な気持ちで目を覚まし、支度を始める。

しばらくはかえって来れそうにない自室に別れを告げ、月の塔へ向かう。


仰々しく金ピカに飾られた扉を開くと中には学長がいた。

「まってたよ。さあ、この床の陣に入りなさい。」

「早々に出発とは忙しないですね。」

「まあね、魔物は夜になると力がますから。はいこれレーベの報告書。」

魔物は明るいところよりも暗いところを好む。そのため夜になると凶暴性が増すのだ。

「おでこを出して、まじないをかけてあげよう。」

素直に前髪を上げるとくるりと額の前で円を描いた。

「なんのまじないですか。」

「身体強化と魔力の安定。まあ、生存率を上げるためのものかな。これをかけるだけでも随分違うんだよ。」

「へー。」

興味の無さそうな声で返事をすると学長の手が止まる。

「ねぇ、アルミス。君は死ぬのが怖いかい?」

「……。死はそこまで怖くないです。でも無駄死にをしてやるつもりもありません。そのために使えるものは何でも使ってやる。」

「そっか…。気をつけて行ってくるんだよ。帰りを待っているからね。」

「行ってきます」

学園長が小さく魔法を呟く。眩しい光に包まれたかと思えば、浮遊感ににつつまれた。

その瞬間最後に見たのは今まで見た事ない慈愛に満ちた学園長の顔だった。


次に目を開けたときにはなれないふわふわとした気持ち悪さと共に知らない街に立っていた。

(転移陣って酔うんだな……。学長も先に説明くらいしとけよ。)

レンガでできた街路には大きなヒビが入っていたり、瓦礫が落ちている。

建物も乱雑に崩れ人気のない街は不気味な静けさをまとい、眠っているようだ。

(住民は流石に避難しているのか。)

レーベについての薄い報告書を広げ目を通す。

魔物名:レーベ、種族:猛獣、得意魔法:炎、夜行性であり、月光を吸収し凶暴性を増す。

(月光で凶暴性を増すのは厄介だな。防御の魔導書くらいは持ってくるんだったな。)

太陽はまだ登りきっておらず、あたりはぼんやりと薄暗い。

今のところレーベが居そうな気配もない。

(朝になってきて森にでも隠れたのか?)

今のうちに街の状態や構造を知っておきたい。

(食料もどうしようかな。街にあるものはまだ腐って無さそうだし、食べちゃってもいいかな……。罠も仕掛けておいた方がいいかもな。)

街の中心辺りまできたとき、ふと足を止めた。

(ここら辺のレンガ、溶けたあとがある……。)

ヒヤリとした嫌な予感に背筋が冷える。

(レンガが溶ける程の火力。そんな記録、報告書にはあがっていない。いくら高位魔法の光炎魔法とはいえ、レンガを一瞬で溶かせるほどの威力はないはず……。

ということは高位魔法を連続して出してとでも言うのか……?)

高位魔法は使うのが難しいだけでなく大量の魔力を使用する。

これほどのレンガを溶かせる魔法を連発したということは……。

(もしかすると想像以上にヤバいやつかも……。)

1度その場から離れ、始めの地点に戻る。

想像以上の魔物らしい。きちんと計画を立てた方が良さそうだ。


(とりあえず、罠のあるところまで誘導して……。)

遠くでガラガラと不審な音が鳴る。

計画立てに集中しすぎていた。気が付けば日も傾き始めている。

日があるうちに眠っておこうと思っていたのに。

とりあえずあの音がレーベだったらまずいと近くの家に逃げ込む。

しかし、すぐに音は止んだ。気配もない。

瓦礫が崩れただけだろうか。肩の力が抜けるのを感じ、途端に空腹感に襲われ何も食べていないことを思い出した。

(少し食料を貰おう……。)

硬くなったパンをかじりながら計画を頭の中で練り直す。脳内再生は何となくできたため、夜の本戦に向けて体力を温存する。

ここは居間だろうか。棚の上には家族で笑う写真立てが3つほど置かれてある。

(家族……。)

なんとも仲が凄まじそうな家族である。

胸の奥でちりちりとくすぶるイラつきにもにた何かにそっと蓋をして写真立てを伏せた。

段々と日がくれてきて夜になったがその夜はレーベが現れることはなかった。

(人間が避難したから興味をなくしたのか?)

風が吹くたびミシミシと不穏な音を立てる家の中では安心して眠れなかったため、毛布を引きずり家の外に出る。

瓦礫が散らばる街の床でそっとホコリを払い、体を丸め、毛布の中にもぐり混んだ。




そこはいつもコバエが飛び回り、眠っているような死体と、必死に生き延びようとしている人が交わる世界。

固く冷たい床に、いつ崩れるかも分からないそこら辺の木に布をかけただけの小さな寝床。

「生きたいなら生きる術を学べ。使えるものはなんでも使え。それができるようになったら俺がお前を弟子にしてやる。」

その一言が僕の小さな世界を壊した。

タバコ臭い緑色の髪を高く結ったあの男が。



ガラガラと遠くで建物が崩れる音で目を覚ます。

(嫌な夢…。家族の写真に感化されたか…。)

額の汗を拭い、空を見上げる。空は茜色に変わり始めていた。眠りすぎていたようだ。

その時ギャオオオオオとなにかの鳴き声に肌が粟立つ。

(まだ夕方だぞ!)

なにかが歩く度に地面が揺れ、それが巨大なものであることを物語っている。

急いで体を起こし罠を仕掛けた場所を思い出す。崩れた建物の奥に巨大な影がのそりとこちらを向いた。炎のたてがみに二本の尾、黒く大きな身体。

(間違いない、あれがレーベだ。)

体中の毛が逆立つのを感じ、気がつけば数歩後ずさりしていた。

「また新たな魔法使か?わざわざ死にに来るとは阿呆なやつだ。」

濁った低い声がはっきりと言葉を紡いだ。

額に嫌な汗が伝う。

(想像よりも知能が高い。作戦が通用するか怪しいぞ…)

「まあいい。どれほど遊べるか見ものだな」

その瞬間ビュッと近くに炎が上がる。咄嗟に後ろに飛び退く。どろりとさっきまでたっていた地面が溶けているのがわかる。

(はじめから殺す気まんまんかよ!こりゃ隙見せたら死ぬな。)

ビュンビュンと炎の玉がこちらに飛んでくる。ギリギリのところで交わしながら、街の中心に向かって走った。

「逃げることしか脳がないか。哀れなガキだ」

一瞬の迷いが命取りになる。苛立ちのままピアスを握り、勢いに任せちぎり取る。

耳から流れる血が首元に伝い、じわりとした痛みが広がる。ポケットからペン程の大きさの杖を取り出し、ピアスとは反対の手に握る。

拡大(ラルジュ!」

手の中に魔力を集め、唱えた瞬間ピアスは手のひらほどの大きさに、杖は背丈よりも少し高い程に変化する。杖のくぼみにカチリと大きくなったピアスをはめ込むと魔法石が青く光る。一気に魔力が安定するのを感じ、杖を握る手に力が入る。

「なるほど、お前たちは魔法石をピアスにしているのか。お前の魔法石は純度が高くて美味そうだ。魔法石と共にお前も夕食にするとしよう。」

すぅと息を吸い込む音が聞こえると青い炎をこちらに向かって吐き出す。

獄炎鎖(チェイン・バーン)!」

クルクルと魔法石を狙うように杖の周りに鎖のような炎が巻き付く。

「その炎は対象を焼き尽くすまで消えない。せいぜい当たらないように気をつけるんだな。」

(ちっ!やっぱ魔法石狙いだよな。)

街の中央には朝仕掛けておいた罠があるはず。

ここは街の東の入口だ。

とりあえず罠がある場所までやつを誘導したい。でもその前に!

「霧の薄衣(ミストヴェール)!」

「ほう。霧か!火力減少と視界不明瞭にするためか!やるじゃないか!小僧。」

ボォボォと萌える建物を背景に魔物がニヤニヤと笑う。

(くそっ!完全に遊ばれてる。)

その時近くの瓦礫の下にまだ使われていない魔法陣が見えた。討伐に来た誰かが使う間もなくやられたのだろう。

(チャンスだ!)

なんの魔法かもわからないが戦場に描いたんだ。きっと役に立つ魔法なはず。

走って魔法陣のそばに近寄り、杖に魔力を貯め、かつんと魔法陣を叩く。

その瞬間魔法陣は眩い光を放った。

「よし!」

が、次の瞬間ドカンと自爆をかました。

「がはははは!自爆などして、こちらを揶揄っているのか?」

ゲホゲホとむせ込み、煙たい空気を手ではらう。

(学長のまじないがなかったら肉塊になってた……。)

休む暇もなくレーベがこちらに青い炎を吐く。

ぼっと制服の白い上着に火がついたのが見え、焦ってそれを脱ぎ捨てる。

「逃げるだけでは勝てないぞ。」

やつが悠長にこちらに歩いてきている。

神に縋る思いで、空を見上げるも空は真っ黒な雲に覆われている。

(都合が悪いな……)

やつの気配を身近に感じ、咄嗟に近くにあった燃えカスをレーベの顔に向かってかける。

「貴様!小賢しい真似をしよって。」

どうやら目に灰が入ってしまったらしく、前足で一生懸命に顔を擦る。

「小僧!どこだ!」

その隙を見て罠のある場所まで一気に走る。

レーベは再び、ギャオオオオオと咆哮を上げ、こちらに走ってくる。

足元には昨日仕掛けた罠がある。学長のまじないで魔力も安定してる。

(いける!)

水陣ヒュドール・ミーナ!」

奴が陣を踏んだ瞬間、水がツタのように体に巻き付く。

(やった!)

レーベは苦しそうな声をあげた瞬間勝利を確信してぐっと拳を握る。しかしレーベはニヤリと怪しげな笑みを浮かべた。

「こんな安物の陣で俺に勝てると思っているとは、どこまでも頭の悪いやつだ。まぁ炎に水とは相性は良かったがな。」

高笑いをするレーベに頭が真っ白になる。これで確実に勝てるとか甘い考えではなかった。でも水魔法の中でも威力は強い陣だ。致命傷の一つくらいは与えられるものだろうとは思っていたのだ。

そこら中に同じ罠を張っていたがこれほどの防御力を持ったレーベに通用するかも危うい。

カタカタと震える指で杖を握りしめる。

(噴水の水を使えば、少ない魔力でも水が操れる!)

しかしその希望も簡単に打ち砕かれる。

「水がない…。」

水が流れておらず、ただの石のオブジェと化した噴水。自分の運の無さに絶望を通り過ぎて怒りまで覚える。

暑い熱風を感じる。やつがすぐ後ろまで来ている証拠だ。

「何だ突然走り出して、もう策が尽きたのか?」

愉快そうに笑うレーベにとりあえず逃げることしか策が浮かばない。

ぜぇぜぇとうるさい呼吸のせいであたりの音が聞こえづらい。薄い靴の裏には瓦礫の破片が刺さり、足からは血が流れていた。足の痛みと絶望感で目の前が少しずつ歪んでいく。

「阿呆なやつは可哀想だなぁ。自分の力を過信して俺に挑みに来るからそうなるんだ。」

やつが大きく息を吸うのが聞こえる。

「これで終いだ。獄炎鎖(チェイン・バーン)!」

僕の周りに青色の炎が渦巻く。段々と円は狭まり熱が迫ってくる。

(あぁ、無理だ。ここで終わりだ。)

カラン。杖が手のひらから離れる。長い夜空と同じ色の髪をぎゅっと抱きしめ、息を吐く。その時、手放して魔力が通っていないはずの魔法石が青く光った。ふと空を見上げると、厚い雲に覆われていた空には真ん丸なお月様が登っている。

(つきだ……。)

その瞬間さっき手放した杖を急いで拾い、握り直す。その時の僕の顔はきっと高揚していたと思う。口からあはあはと笑い声が出る。熱い顔とは別に体は芯から冷たかった。

「何がおかしい。」

「月だ。レーベ、月が出たんだ。これで僕も負けない。」

「何を言っている?走り回りすぎておかしくなったか?月が出たならこっちのもんだ!地獄火(ヘルファイア)!」

やつが口から炎の玉を吐き出すのが酷くスローモーションに見える。

「氷の(グラース・ラーミナ)

パキリ。途端に宙に氷の破片たちが現れる。

「お前……その魔力量はなんだ……?しかも氷結魔法は水魔法の上位魔法だぞ!お前ごときが操れるわけがない!!」

「上位魔法を操れるのが何もお前だけとは限らないよ。僕も月の光とは相性がいいんだよ。まぁ、上位魔法が使えることは学園長にも秘密なんだけどね。」

レーベはさっきの余裕が嘘のようにガルガルと姿勢を低くして唸っている。すい、と杖を動かすと宙に浮いていた氷はレーベに向かって飛んでいく。グザグサと身体中に刺さり、血が溢れている。

「へぇ。レーベの血ってオレンジなんだぁ。いいね。綺麗!」

興奮で熱いはずの身体が氷で冷やされる。あぁ、なんて楽しい戦闘なのだろう。

「調子に乗るなよ!獄炎鎖(チェーン・バーン!」

「あはは!まだやるの?」

再び炎に囲まれる。しかし僕がふぅと息を吹きながらくるりと回るとその炎は一瞬にして消え去る。やつの顔が絶望に包まれるのが見えた。まるでさっきとは立場が逆だ。

「散々僕のこと逃げることしか脳がない阿呆だって言ってくれたけど、君も炎を吐くことしか脳がないんだね。」

「貴様ァァァ!!」

やつのたてがみが青い炎に代わる。こちらにまで伝わる熱に頬に紅がさす。

「いいね、その威勢の良さ。でもさもう飽きてきちゃったからそろそろ終わりにしましょうね。」

「いい度胸だ!喰らえ!大魔法!恒星砲(ソーラーキャノン)!」

チカチカと眩い光がそこらに爆ぜる。こちらも杖を構え、大魔法を撃つ体制に入る。

「氷柱の牢獄(アイシクル・プリズン)

途端にレーベの足元が凍り、柱が現れる。柱は檻のように広がり、レーベを閉じ込めた。

「レーベ、楽しかったよ。じゃあまたねぇ。」

「待て!!」

ヒラヒラと手を振ると、檻の中には大量の氷塊が現れグサグサとレーベを串刺しにした。

「ぐぁぁぁぁ!!!」

苦しむ声を他所にアハアハと血しぶきを浴びながら笑い声をこぼす。傍からきっと見れば僕の方が悪役だ。やがて魔法が消え、横たわったレーベに近寄る。

「レーベ、お前は魔王の手先なのか?」

「お前……どこか…嗅いだことの…ある匂いだ……。」

(あぁ、それはきっと……。)

「俺に……勝ったからと言って…いい気になるなよ……。魔王様は…もっとお強いのだ…。この世界を変えてくださる……。」

そういうとレーベは事切れた。レーベのたてがみの裏を見ると赤い魔法陣が見えた。

(やはり魔王と契約したか。道理で上位魔法を使えるわけだ。)

ふぅと身体から力が抜けた瞬間だった。パキりと指先や足が凍りつく。

(長い時間上位魔法を使いすぎた……。魔力と体力の消費が激しい。)

ふうふうと息を抑えつつ目を閉じる。


『いいか、ガキ。お前の使う上位魔法にも欠点はある。氷は特にな。強力だが使いすぎるとお前、感情が無くなるぞ。』

いつもとは違う心配そうな顔に調子を狂わされたのを思い出す。


「師範……。魔王の配下をひとりで倒せましたよ……。」

口から出た言葉は誰に届くわけでも無く、霧散した。床に寝転がるとそのまま起き上がれず、落ちる瞼に従い、眠りに落ちた。

そうして僕の2日間に渡るレーベ討伐は無事に解決した。



「へぇ、アルミスはまだ私に隠し事があったとは。彼はまだ使い所がありそうだ。」


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