オルゴールは眠らない
「やっぱり呪いのオルゴールになったと思うの」
侯爵令嬢ロジーナは困り顔で侍女のヴェラを見た。
「私も侍女のみんなも、ぜんまいを巻いていないでしょう?」
ヴェラも困ったようにロジーナを見た。
「その通りでございます」
ロジーナが母親から贈られたオルゴールが壊れた。蓋を閉めてもネジを弄っても、オルゴールは回り続け、音を奏でるのを止めなかった。
「オルゴールは大切だけれど、壊してしまおうかしら。煩くて眠れないの」
「屋根裏部屋にでも置きましょうか。離れた方がいいですよ。きっと」
「それがね。ヴェラがお休みの日があったでしょう? あの日にね」
「はい」
「屋根裏部屋に置いたの」
「えぇ!?」
「でもね、お部屋に帰って来たの」
「お一人で行かれたのですか?」
「うん。だからね、持って行ってもダメなの」
「そんな……」
「だからね、グルグル巻きにしてクローゼットの奥に入れようと思うの」
「消音ということでしょうか?」
「そう。効き目があるのかは分からないけれど」
「布を持ってきます」
ヴェラが持ってきた分厚い布でオルゴールを包み、紐で縛った。
「このくらいの音でしたら気にならないかもしれませんね」
「そうね。クローゼットの奥に置いてもらえるかしら」
「承知しました」
包まれたオルゴールを持ってヴェラがクローゼットに入ると、音は聞こえなくなった。
「良かった」
ロジーナは確かにそう言った。
翌朝ヴェラがロジーナの部屋に入ると、ロジーナが泣いていた。そして机の上にはオルゴールが。
「なん、で?」
ヴェラはクローゼットを開けた。紐が切られ、分厚い布が残されていた。
ヴェラは言葉を失って口を手で覆った。
「結局、こうなるのね」
ロジーナは悲しそうに微笑んだ。まだ十歳の女の子に突然訪れた深い悲しみ。母親の突然死。ロジーナは気丈に振る舞ってはいるが、あのオルゴールに救いを求めているのかもしれない。
「お母様からの贈り物のこのオルゴール、きっと私と離れたくないんだわ」
俯きがちにそう呟いたロジーナは、母親からの最期の贈り物になってしまったオルゴールを、そっと机に置いた。ヴェラはロジーナを思わず抱きしめた。
ヴェラは知っていた。オルゴールに魔石を組み込んだのはロジーナであることを。誰に教わったのかは分からないがぜんまいを回さなくとも動く永久機関と化した。オルゴールの中の魔石を見た時、ヴェラは全てを受け入れると決めた。同情? 庇護欲? 愛情? ヴェラには分からなかった。
完




