ep.7 side咲人
てかやばい、リアルが忙しすぎて最新話の取り溜め消化されそう。
厳しいって
時を遡ること数時間前
時刻深夜2時
トイレに行くためにベットから降り廊下を歩いていると、父さんの執務室に明かりがついていた。
『例の計画はどうかね。』
「滞りなく」
『そうか』
ぼんやりと、それでいてはっきり、そんな会話が聞こえてきた。こんな時間に電話なんて誰とだろうか。電話云々より、普段はこんな時間まで働いてない父さんが一体何を話してるんだ
『...はじめようか。我々のゲームを』
ゲーム? IJCのことだろうか。すでにリリースはされているから、別の作品の可能性もある。うーん、考えても仕方ないな。それより
「トイレトイレっと」
このとき、まさかあんなことになるとは思いもしなかった。
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俺と健斗。鏡健斗の出会いは、中学1年の最後の授業日だ。あの時の俺は灰色そのものだった。何に対しても心が動かず、淡々と時間だけがすぎていく日々。興味が湧かず、全てがどうでも良かった。誰も俺を“咲人”として見てくれない、皆“鬼嶋”の人間として俺に近づいてくる。
小学校低学年までは何も知らないただのバカだった。純粋で何も知らないから、友達や親友と思っていた奴らもいた。だが、掃除の時間に聞いてしまった
『なあ鬼嶋のことどう思うよ。俺さ親が仲良くしとけって言うから仲良く? してあげてる訳よ。正直、鬼嶋ノリ悪くない?』
『分かる。なんて言うか、『世界は俺中心に回ってますよ』って感じ。』
『そうそう。それに、あいつに転ぶフリして、腹に一発ヤッてみたらさ、あいつ『友達だもんね、大丈夫だよ』だってさ。あのときは笑うの我慢して死ぬかと思った。まじ、慰謝料? 請求すべきだったか?』
『ははっ、それ傑作だな。てか、もう我慢できん。俺あいつと縁切っていじめよっかな〜。お、面白いこと思いついた! あいつの好きな女子知ってるからよ、奪っちゃおうぜ』
『ハハ、そりゃいいわ。その時のあいつの顔が早く見たい』
そんな会話を聞いてしまった。悲しかった今まで友達だと思っていたのに、世界の中心? 俺そんなこと一言も言ってない。それに、そんな行動もしてないのに…
そ、そうだ。まかちゃん、まかちゃんはそんなこと思ってないはず。
…だってまかちゃんは俺の事、好きって言ってくれたもん
『ちょっと男子、サボってないでこっち来て手伝ってよ。さーくんを少しは見習いなよ』
『良いだろ少しくらい。それより聞いてくれよ、俺等鬼嶋のこと気に入らねーって話してたんだよ。』
『そうそう浅田さんは、鬼嶋のこと実際どう思ってんだよ』
『さーくんのこと悪く言わないで。さーくんはかっこいいって思ってるもん!』
まかちゃん
『そんな見え見えの演技もう良いから。てか鬼嶋以外全員気がついてるぞ』
な、なに、を………
『なーんだそうなの? なんか最近媚びって言うの 疲れてきてたからかな。まあ良いや知ってるからどうしたの、あなた達が幾らさーくんに真実を言ったところで、私を信じるわよ。それに、わたし鬼島に媚び売るのやめない。媚び売っとけば、ぱぱとままが褒めてご褒美にお小遣いくれるの。』
「え、…ま」
……まかちゃん
思わず声が出てしまった
俺は慌てて周囲を確認し、だれも俺に気がついていないと分かり一安心。それと同時に段々と様々な感情が、俺の身体を支配していく。
怒り、苦しみ、そして悲しくなる。何より、気づけなかった、俺自身を恨んでしまった
まかちゃんが演技? 何かと構ったり、庇ってくれたのも。それに好きって言ってくれたのも全部嘘……そん、な
『だ、誰かいるの!』
ま、不味い気づかれる。か、かかか隠れないと
カツ
『やっぱり誰かいる』
『わざわざ隠れて盗み聞きとは……クズだな。もしかして鬼島か?』
『あはは、鬼島だったらタイミングが良いのか悪いのか』
『鬼島が好きで好きで大好きな浅田は、ただ利用させられていただけだったことを知るとか。』
『何も知らずに絶望を味わうか、知ってしまった絶望を味わうか。言うまでもなく、後者の方が面白いな。結果オーライ。』
ち、違う。こ、これはなにかの夢……そう悪い夢だ。そうに違いない。だってこんな、こんな事って
コツコツコツ
「なんだ。やっぱり鬼島だ」
目の前には妖艶に微笑むまかちゃんがいた……
(え、なんで。なんで覚めないの)
「盗み聞きなんてサイテーだよ。さーくん。まあ聞いてたと思うけど、さーくんと仲良くすれば、ぱぱとままがご褒美くれるの。だからこれからも仲のいいクラスメイトでいてね」
「うわー浅田こっわー」
「おいおい見ろよ。鬼島のやつ、傑作だな〜ほんっと嫌いだったから、この顔見てスッキリしたわー」
「もっともっと、絶望しろー」
(いやいやいや。やめて早く覚めてこんな悪い夢覚めてよ。ううっ、何でこんな事に)
「「「あはは」」」
「さーくんこれからは私の……私達のクラスメイトだよ。嬉しいよね? だってさーくんは、私のことだーい好きだもん。あはははは、あ、掃除面倒だからさーくん一人で出来るよね? ばいばい、鬼島。」
これが小学生の思い出。この時を境に俺は人を信じなくなった。そして成長に連れ心の傷は深く、より鮮明に刻まれた。次第に誰にも期待をしなくなった。そうして、人との距離感を学んだ。
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中学1年の最後の授業日
灰色だった俺にある誘拐事件にあった。その時に一緒だったのが健斗だった。このとき俺は健斗の事を“運のないやつ”としか認知していなかった
「グフ、グフフ。鬼島家のご子息様の誘拐に成功したぞ!! これ、これで。か、かか、金、金さえ手に入ればまたいける、グフ」
この誘拐犯も俺ではなく鬼島を見ていた。俺を見ているようでその背後の鬼島家を見ている
(結局は鬼島家なんだよ。俺はいらない、鬼島家だけ。だから俺から“鬼嶋家”を取れば何が残るのだろうか。皆が俺として見てくれるか。そんなわけ無いか……なんで俺は生きてるんだ。)
「ふざけるな!」
「あ"あ"」
そんなときだ俺の近くに居たばっかりに彼もつかまってしまった。
「ふざけるな、と言っている。さっきから聞いていれば、ごちゃごちゃごちゃごちゃ煩いな。どうでもいい事を二度と喋るな。」
「ど、ど、どうでもいいだと。ガキは黙ってろ。俺はな、寛大深い。だがな、言っていいことと、悪いことがある。今お前の命の主導権を握っているのは、お前ではなく俺だ。黙ってないと殺すぞ。」
「黙るのはお前だよカス。こんなことして何になる。金、金うるせー」
「もういい」
何をやっているこいつは馬鹿なのか
たった、数語の会話により、誘拐犯の目標が健斗に向いた。そう、あろうことか誘拐犯は、刃物をもって今にもケンに斬りかかろうとしていた。俺は恐怖し、思わず目を瞑ってしまった。だが、いくら時間が経っても、健斗の悲鳴や血を浴びることは無かった。
恐る恐る目を開けると、腕を縄で縛られていたのにも関わらず、いつの間にか解けていた。そして、解けた縄を使って、誘拐犯のナイフを受け止めていた。
「ッな」
俺も誘拐犯も、絶句だった
まさか両手両足を縛って尚。健斗という男はそれすらも武器にして見せたのだ。
こんなこと出来るのかだろうか。少なくとも俺の知っているなかでは無理だろう。その年で一体どれだけの死線を繰り広げたのだろうか。もはや、技ではなく経験に近い部分にあるだろう。
「き、キサマアアアアッ」
怒り狂った誘拐犯はナイフを持っていない左手を宙にあげ、健斗に殴り掛かろうとした。
今度こそ終わった。現実的に考えてそうだろう。中学生が成人男性に純粋な力で勝てるはずがない。いま受け止めているナイフだってなんらかの技をもって受け止めていると思うはずだ。
現に誘拐犯は利き腕であろう、右手だけを使っているのに対し。健斗は全身を使ってなんとか受け止めている状態だ。だからこそ、1で無理なら2で応戦すればいい。誘拐犯による左ストレートが、今にも健斗に当たりそうだ。
その刹那
信じられるだろうか。ナイフを持っていた誘拐犯の右腕に入れていた力を緩め、行き場を失った力を利用し、ナイフを左に合わせて上にあげる。そこで、気がつくと誘拐犯の左手に深々とナイフが刺さり、そのあまりの痛さに絶叫をあげる。
「ぎ、ぎゃああああああああ。お、俺のて、ててて、手があああああああああああ」
ひとつでもタイミングを間違えると、健斗の脳天にナイフが刺さっていただろう。
そして、誘拐犯が、左手に刺さったナイフに注目した一瞬を付き、縄で縛られている両足で、ナイフを蹴り、誘拐犯の左を切り裂いてしまった。
「ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛、あ。#&"%$………」
声にもならない声で叫び、実際に誘拐された俺ですら同情する程の重症だ。そして、もし健斗がこの場にいなかったらと思うと安としてしまった。
挑発されたとはいえ、子供の言葉にあそこまで激怒するようなやつだ。当然、金が目当てで俺を誘拐しようと、父さんはその要求を飲むはずがない。それを知った瞬間、この誘拐犯は俺に攻撃をしていたかもしれない。そして、最悪の場合死んでいた。
だが、健斗の反撃は、終わってはいなかった。
拘束された両足で、誘拐犯の顎を容赦なく蹴り、続いて2撃3撃4撃と上から下に、右から左へと、過剰とも言えるほど蹴っていた。
それから、数分。満足そうな顔で健斗は、顎を蹴るのをやめた。
しかし、少しだけなごろしいのか、誘拐犯の腹に数発ゆっくりと殴っていた。
「グエッ」
それにより誘拐犯は、蛙のような声を出しながら、声にならない声を出しながら、血吐し何かを言おうとしたところで気絶してしまった。
「ふー」
お、おわった、のか?
誘拐犯から解放されたことで安息と共に体全体が急激に重くなるのを感じる。
そんなことを感じている矢先、晴れてスッキリした顔をしたケンはというと。の場でもう一度ジャンプをし、腹に一撃を加えた。
まだ、蹴り足りていないのか...
「ふー挑発に乗ってくれて良かった。あ、そうだった。大丈夫? えーと、誰。」
「き……いや咲人だ。」
なぜだかわからないが、こいつの前で鬼嶋の名を名乗る気になれなかった。
なんとなく。そう、なんとなく鏡 健斗なら、鬼嶋家の人間としてでなく、俺個人を見てくれる気がした。
そして他人に対して、鬼嶋の姓を名乗らなかったことが初めてで、名前だけを伝えたことがない。だからだろうか、俺の名前を伝えた瞬間ドンと体が重く感じた。
こいつは、俺のことを認めてくれるだろうか。そんなことを考えて考えて、そうして数刻の時すぎる。
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『いつか、いつか。きっと咲人にも本当に信頼できる人ができる。その人を絶対に手放すなよ。そいつは、お前にとって何よりもかけがいのない親友になってくれるはずだ。』
『そんな人できっこないよ。どうせ、この家の人間だから寄ってきてるだけだもん。』
『はは、今はそれでいいさ。その時が来たら直感に従えばいい。』
『〜〜〜』
『〜〜〜』
『〜〜〜』
『〜〜〜』
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ふと、兄に言われたことを思い出した。
いま、この瞬間こそがその時なのだと直感でわかってしまった。なぜなら、こいつにならもう一度信じてみようと思えるから。
そんなに仲がよかったわけでもなく、今日の出来事がなければ一生関わることのなかった人間なのに、なぜだかな。兄の言葉が頭の中で反芻する。
彼が先ほど見せた行動が非日常的で、俺の日常を覆すほどの衝撃を与えた。
一つだけこの感情に心当りがある。それは……憧れ
それはまるで、物語に出てくるような英雄に憧れた少年のように胸が熱くなる
「き? まあいいか、咲人行くぞ。」
「え。」
「あれ咲人であってるよな名前。もしかして聞き間違えてた。」
「間違ってはない。ただ」
「じゃあいいじゃん。これも何かの縁って事だ、ほら行くぞ咲人」
「あ、ああ」
いきなり声を掛けられ先ほどまでの緊張はなんだったのか。彼の言葉で心が軽くなるのは感じた。そして俺は自然と鏡 ケンを追った
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そうして少し歩いていると、だんだんと心に余裕が生まれ、考えるための思考が戻ってくる。そして気がついた。
「お、おい。拘束はどうした」
そう、俺たちは間違えなく拘束されていた。鏡 健斗は誘拐犯に反撃をする際に自分自身で高速を解いていたが、俺は拘束されたままだった。いつの間に俺とお前の拘束を切ったんだろうか。
「お前寝ぼけてるのか。さっき切るぞって声かけただろ。それに返事をしてたはずだぞ『あ、ああ』って」
「そうだったか、そう、だったんだろうな。」
そうか、おれは気づいていなかっただけか、緊張のあまり頭に入っていなかったのだろう。
「おい、ぼっとするなって」
そう言うと、鏡 ケンは右手を、俺に差し出してきた
「あ」
この時ようやく俺はは、灰色の世界が色に満ちた、色彩をしっかり感じとり、本当の意味で色がついた様なきがした
これが俺と健斗の出会いであり。始まり
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って少し長かったな、話は戻すが。つまり俺の本当の意味での友は健斗だけってことだ。だから【IJC】は健斗を誘おう。
父さんもやるときはやるな。それにしても特別版か、ゲーマーとしてそそるぜ。しかも、それを健斗と一緒にできるなんて
これが全ての元凶であり。後悔の始まりになるとは思いもしなかった。
あのとき、電話をしていた父さんの話をもっとしっかり聞いていればこんなことにはならなかったのだろうか
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ここにきて新キャラの兄
旧版では、兄はいませんからな。どうやって書いていこうかな〜