ep.6 少年の名前とチュートリアルの真実
「ひどいです勇者様。僕はなにもしてないのに」
「いまさら無理があるだろう。もうすでに化けの皮が剥がれている、普段通りでいいからもっと楽に話せよ」
「な、なんのことですか。私は普段からこんな感じです。」
「はあ、わかった今はそれでいい。それよりも、先ほどのあれはなんだ。魔法陣のようなものを発動したと思ったら、少年の後ろにいたわけだが。そもそも少年、君は何者だ。あんな魔法を使える時点でただものではないだろう。なのに、俺に対する接し方がやけに丁寧で、大切な客かのように接し方その全てが謎だ。」
そう、本当に謎なんだ。今思うとこれも謎の一つだ。このゲームをすることに必死になるあまり、少年の異常性に気づくのが遅れてしまった。
俺は物語にでてくる勇者でもなければ英雄でもない。ゲームを始める時に聞こえたセリフには、俺のことを勇者と表現していたが、あれはどう考えても固定文の類だろう。だからこそ、少年が自分の本性の一部を晒してしまった手前わざわざ俺を大切な客のように接する必要性を感じない。そして、あれだけの強さを持っていながら、なぜ俺に反撃しようと思わなかったのか。
俺が反射で殴った時の表情や仕草、声音などから嘘をついているような感じはしなかった。それはつまり、痛みは感じるものの、痛いと小言を漏らす程度のものにすぎないということだ。
「...少年。いや、君は一体なにものなんだ。」
少年は俺の言葉を聞き、少し悩んだそぶりをしたあとこちらに向き直りこう告げるのだった。
「はあ、まさかこんな事態になるとは思いませんでした。というか、はじめにあったとき僕の名前言いましたよ。なんで覚えていないんですか。短い間でしたが少しあなたという人間がわかってきたような気がします。ひょっとしなくてもあちらの世界で友達少ないのではないですか? 」
「名前なんて聞いてないし、友達はいる。」
そう、誤解しないでほしい。俺にもちゃんと友達はいるのだ。他人よりも少ない自覚はあるがそれはあえて作らないだけであっていないわけではないのだ。あ、でも咲人は親友だから... いや、いるに違いない。よくよく考えれば一人くらいいるはずだ。今は考える暇がないから思いつかないだけだ。
「ジー はあ、もういいですよ。そんな嘘をついても虚しくなるだけです。それよりもあらためて自己紹介でもしましょう。僕の名前はクルル・リバーツといいます。次は忘れないでくださいね。」
「おいちょっとまて、決して嘘じゃないからな。」
「その話はもう終わっているので、さっさと自己紹介してください。」
「また、そんなk「さっさとする」」
くっそ、ばけの皮が剥がれた途端これか。でも、こっちの方が話やすいってのは少年あらため、クルルには言わないでおこう。こんなことを本人に言ってしまった日には、絶対揶揄われてしまう予感がする。
なんだか懐かしいなこんな感じの会話。咲人と出会ってすぐの時もこんな感じの会話をした気がする。
「俺の名前はケインだ。それと、その悪かったな色々と」
「え、あ。あははは、いいですよ。でも次はないですからね。」
「ああ。それで話は変わるが、俺のレベルは2ではないからさっきの魔法が失敗したんだ。なぜ俺のレベルが2になったと判断したんだ。」
「えっと、これは話せない制約が、あれ話せる。なんでそもそも、勇者様の前では制約のせいで言葉の制限もあった気がする」ボソボソ
俺の質問に対してクルルが何かを呟いている。そんなに言いにくいことなのか? 多分、他の人はスライム1体倒せばレベル2にあがるとかだと思っていたが。そうしてしばらく待っていると、決心したかのようにポツリポツリと話始めた。
「もしかすると制約が反応しているかもしれません」
「えっと、どゆこと」
いや、うん。ほんとになにそれ。また、新しい単語が出てきた。それもおそらくゲームを普段からしている人でも聞きなれない単語だと思う言葉だ。つまり、ゲームのことをあまり知らない俺からすれば何がなんだかほとんど理解できない。
「いえ、今のはあまり重要ではないので、スルーします。本当に重要なのは僕はいまこうしてケインと話ができているということです。」
「それのどこが重要なんだ。人と人なんだから会話ができてしかるべきじゃないのか。」
「えぇ。普通ならそうでしょう。しかし、この世界ではケインのような勇者様がきた際に世界の常識を教えることだけ許された世界なんです。なんらかのerrorが生じて会話ができているのでしょう。」
「errorだって。」
「はい。もしかして心当たりがあったりしますか。」
「あるような、ないような。これってもしかして俺のせいかもしれない。俺の職業がerrorなんだ。何言ってんだって思うかもしれないが、このerrorっていうのが原因だったりしないか。」
「十中八九それが原因でしょう。しかし、そうですか。これなら...」
それから、クルルが色々なことを教えてくれた。その中でも、ここが俺のようにゲームを始めた勇者もとい、プレイヤーにチュートリアルを教えるために作られた世界だってことだ。
そして、この世界は他の世界と違うらしく、つまるところ強すぎる人たちを隔離して世界の平和を保つために創られた世界なのだとか。
そんな彼、彼女たちは、大賢者や大聖女、大勇者などさまざまの人がいる村だとわかった。さらに、その村の住人には、人以外にも龍や大魔王といった人ならざるもの。また、ここに隔離されたものたちの間に生まれた住人などがが暮らしている村だそうだ。ちなみに、クルルは後者だった。たしかにクルルは強いとは思うが世界を滅ぼせるレベルの強さを感じるほど恐ろしくはなかったからな。今思うとステータス選びの時にいたあのおっさんのほうがよっぽどそれらしかったしな。
っと、話が逸れたが。それ等の話が霞んでしまうほどに次の言葉が衝撃的であった。
「ここでの1日は外の世界では1万年ということです。肉体的はあちらの世界に依存するため、この世界では一万年でようやく1日が経過する計算になります。そして、ここからが重要で、僕のようにこの世界で生まれた住人も、外の世界には出られないらしく、さらに肉体的に全盛期になるまではこちらの世界で年をとっていくのです。」
「色々と情報量が多いが、簡単にまとめると。ここはものすごく危険な人たちが住む世界ってことでいいのか」
「ちゃんと話きいてましたか。まあ、今はその解釈でいいでしょう。っと、こんなケース初めてだったので色々話ましたが一旦僕の村にきてください。村長にケインのことを聞いてみないことには今なにが起こっているのかいるか正確にわかりませんし」
「解せんが、ついていくか。どうせ否定権もないんだろうし」
そうして村に案内されることになった。その村は俺が思っていたような村ではなく、なんというか
「村だな」
「そりゃ、村ですから。」
そう、村なのだ。いや、当たり前だろと言われればそれ以上言い返せないが、もう一度言わせてほしい。これは村なのだ。世界を滅ぼすような力を持っている者を隔離するために創られた世界なのに、どこにでもあるような村なんだ。なんかこう、もっとこう魔界のように混沌とした雰囲気を醸し出すような場所を想像してただけに、普通としか言いようがない。
魔界なんて見たことがないから、あまり強く言えないがな。
「お、クルル遅かったじゃないか。勇者様を送ってからかなり経ってるじゃないか。一体なにがあったんだ?」
村の前まできたところでそんな声が聞こえた。すこし聞いたことがある声だなと思い声の主がいるであろう場所に顔を向ければそこには
ステータス選びで出てきたおっさんがいた。
次回は咲人のエピソードです。
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今回はだいぶ変更しちゃいました。そもそも前のやつは村のことを書きはしたけど実際に訪れはしていませんからね