ギャルとおぢさんの話。
Love in Hey on. Love on Hey on.
屋上でタバコを吹かしている。
20時の夕闇――明滅するタバコと車の音。轟轟と鳴る風。思えば遠くまで来たものだと感慨にも深ける。
今年で三十後半ともう若いとも語れない。
仕事と家の往復で、何時の間にかこんなにも時が過ぎていた。
スマホが震えポケットから取り出す――もしかしたら出会いがあるのではと入れていたマッチングアプリの画面が光っていた。
学生の時分、あの頃の自分が恨めしい。告白してきた後輩に手を出しておけば良かったと、今更ながらにも思うのだ。
手を出さなくて良かったと安堵もして鼻で笑ってしまう――もし手を出していたとしても、うまくは行かなかっただろうなとそうも感じてしまうから。
『おぢさん。五万で童貞貰ってあげようか?』
表示した画面にはそんな文面が綴られていた。
もう色々と諦めている。それも良いのかもしれない。律儀に守っているわけではないし、相手がいないだけだ。
『いいよー。貰ってー?』
と文字を返す。こんなのにあまり期待はしていない。冗談半分面白半分だった。
『おっけー。これから時間る?』
すぐに返事が来た。
明日は休みだ――最近会社に労基が入り、労働環境が改善された。モラハラ上司は一掃され、規律が整い何時もは24時を越える就業時間も、今日は18時で終了した。
持て余している――休日に何をしていたのか理解できなくてぼんやりとしてしまう。余った時間の数だけ過去を振り返り後悔を繰り返す。それが良いのか悪いのか。
『あるよー?』
『駅前で待ち合わせでい? 家近いよー』
それはさすがに怖かった――美人局を警戒している。
『お金出すからホテルでいい?』
そう返すとすぐに。
『マヂでいいの?』
期待はしていないが駅へと足を運ぶことにした。
本当に来るとは考えていなかった――駅構内のうどん屋でうどんでも食べて帰ろうかと考えていた。
しかし今日のうどんは外れだ。美味しくない。店員さんさー。これ不味いよ。まぁ、文句も言わずに食べてはいるけれど。麺は伸びているし汁は水っぽい。終業時間ギリギリでイラつくのわかるよ。でもこれは無いよ。マジで辛いよ。全部食べるけどさ。
「やっほー? おぢさん? 意外とおぢさんっぽくないね」
マジで来るとは考えていなかった。
「おぢさん?」
「あっごめん。本当に来るとは考えてなかったから」
「えー? そうなん? 今日はよろしくね」
一言で語ればギャルだった。褐色の肌、淡い金髪、濃いメイク。メリハリのある凹凸とスラリとしたボディライン。比べて身長に遜色がない。
「あっ……うん。よろしく……」
「おぢさん緊張してんの? 可愛いじゃん」
「あー……うん。こういう経験がなくてさ」
「そうなの⁉ 可愛いじゃん。……じゃあ、今日はいっぱい気持ち良くしてあげるね」
手を繋がれて困る。女性の手に触れたのは何時ぶりだろうか。コンビニで買い物をする時のお釣りを受け取る時ぐらいだろうか。仕事で同僚女性に軽くボディタッチされた時以来だろうか。つい最近だったわ。
笑顔が絶えない女性だ。彼女を眺めそんな印象を浮かべていた。
「リクエストとかる?」
「初めてだから……恋人みたいな感じでお願いしてもいいかな?」
「おっけーおっけー」
腕を絡められ甘いニオイに酔う。
人々が行き交う中――頬に柔らかい感触がして惑う。耳に響くリップ音と視線の先の彼女の笑顔。恋人でもない男性にそのような行為をしても嫌悪感を抱かないのだろうかと、そんな真面目な事を考えてやめた。
「ほらっ。おぢさんも」
歩行する中、彼女の指や唇が始終柔らかく体を撫で這っていた。
その手に誘導されて彼女の体を指が流れてゆく。
「恋人ってこんな感じなの?」
「そだよー。ホテルまでの間ってめっちゃ楽しい時間じゃん。こうやって色々しながら高めあうんだよー」
「全然知らなかった」
そう告げると彼女は少し笑み、顔を耳元へと近づけてくる。
「可愛いなぁもう。あっ……でも、ちゃんと周りには悟られないようにね。見られても恥ずかしいし」
「うん……」
ホテルに入るのも初めてだ――彼女は慣れた様子で部屋の空きを確認していた。
「この部屋でいい?」
「いいよ」
「マヂありがとね」
部屋と到着したら財布からお金を差し出す――半分の二万五千円。
「え?」
「まず半分」
「……えー? おぢさんマジ変わってるねー。でも‼ こういうの最初に出すのは良くないよ? せっかくムード高めたんだからさー」
「そうなの?」
「本当に初めてなんだね……可愛い」
「……まず、何をすればいい?」
そう告げると彼女の顔が近づき唇が寄り添い始める――柔らかく啄むように何度も寄せられて、眺めてはいられなくて逸らしてしまう。
人の唇ってこんなに柔らかいんだなとそんな感想を浮かべると共に、熱に浮かされて何も考えられなくなりはじめていた。
視線を向けると彼女が微笑み、また唇を寄せられる。それはやがて湿り気を帯びて。
唇と共に寄せられる体――擦られるラインが心地良かった。
彼女が自らの服に指を這わせて一枚一枚と床へと零してゆく。
自分の服へと手を――一糸まとわぬ彼女の指がそれを制して零されてゆく。
「先にお風呂はいろっか」
「……うん」
お酒を飲んでもこんなにのぼせた事はない。熱に浮かされ朦朧とするのに目的だけははっきりとしている。それを成す、成したいと支配されている。
彼女の体温が傍から決して離れない。
「おぢさんてば緊張してるんだ。大丈夫大丈夫。優しくするからね」
健康診断の結果で肥満だとは表示されていない。彼女の視線が肌を流れるたびに誇張が膨らみもっと眺めても構わないと語らぬばかりに自分を持ち上げようとする。
視線に収まる彼女の肌、その曲線の先にごくりと唾を飲み込んでしまう。
余裕がない。慈しむように彼女の視線と表情は微笑んでいた。
シャワーの音と泡立つ石鹸。不意に触れた曲線の先に彼女は小さく悲鳴を上げ、その柔らかさと形の跡が肌に残り決して忘れぬようにと脳が反芻する。
「触ってみる?」
「いい?」
「いいよっこっちも……触ってみて……」
お風呂を抜けベッドへと――。
散らかる服に紛れた箱を手に取り封を切ろうと――彼女の手に制された。
「初めてだもんね……つけなくていいよ」
こんな初体験があっていいのだろうかと考えるほど、彼女は献身的で柔らかかった。
こんな経験は二度とできないと必要に求めていた。こんな機会は二度と訪れない――脳内を繰り返し必死になり、その様子を眺めて彼女は微笑んでいた。
満たされてももっとと、次は無いからもっとと、もう一度だけ触れたい。この感触を忘れぬようにもう一度と彼女に触れずにはいられなかった。
気が付いたら朝。痛みと震えで腰が跳ね目を覚まし、それは決して逃れたい痛みではなく、身を任せて――悪戯っぽい笑みを浮かべる彼女が布団の中からこちらへ出てくるのを眺めていた。
「おはよ。おぢさん」
「おはよ……」
「どうだった?」
「すごくよかった」
「そう? 嬉しいなぁ。おぢさんって優しいよね。ガシガシ動かなかったし」
「ガシガシ動かない方がいいの?」
「そーだよー。なんか間違った知識に影響受けてる人いるけどさー。ガシガシ動かれると痛い時あるからね。元彼とか。そうすれば自分も気持ちいいしあちしも感じているとか勘違いしてて何時も痛かったんだよねー」
「そうなんだ……」
「無理して合わせて一緒にって言うのもなかったしね。あちしが飛んでる間に飛んでくれたでしょ? ほんと良かったよー。帰る前にもう一度お風呂はいろ? おぢさん」
正直動きたくないし離れがたいがそうはいかなかった。チェックアウトの時間もある。
お風呂でも最後まで至れり尽くせりだった。
着替えて残りのお金を支払う。
「おぢさん。ありがとっ」
お礼と共に何度も唇を寄せられて熱に浮かされて何も言葉がでなかった。
「ね? おぢさん。連絡先交換しよ? ……ダメ?」
「……いいけど」
「ホテル代も大変だから次からは家でしよっ? 嫌? ……ダメ?」
「ダメじゃないけど……」
結局彼女と連絡先を交換してしまった。
家へと帰り椅子に座りぼんやりと――まだ彼女の温もりと香り、そして感覚が残っている。それが脳裏を反芻し悶え、また彼女に会いたいとスマホを眺めてしまう。またあの快感を味わいたい。快感に支配されるのを嫌悪しそれでもまたと突き動かされている。
自分から何か連絡したほうが良いのだろうかとスマホを眺め文字を綴り、読み返しては痛い文面を眺めては消し、結局送れはしなかった。
そうしてベッドで寝転がっている間に眠ってしまっていた。
目が覚めて真っ先に気になるのがスマホなのだから終わっている。
『おぢさん。昨日は楽しかったよ。明日の夜暇?』
『おぢさん?』
『おーい。おぢさん』
『おぢさん?』
そう文面が並んでおり喜んでいる自分と焦る自分がいる。
『ごめん。寝てたよ。暇だよ』
そう急いで文面を綴る自分がいる。また彼女に会いたいと望んでいる自分がいて困る。
『おぢさん‼ 連絡おそーい‼ マヂ不安になったから‼』
『ごめん』
それからボクと彼女の奇妙な関係が始まった。
彼女はネイルサロンで働いているようだった。将来は自分の店を持ちたいと頑張っているのだそうだ。その資金を稼ぐために頑張っている。彼女の部屋には自作ネイルアートのモデルが幾つも綴られ積み重なっていた。
「ほんと言うとまともに就職とか無理そうだからさ。ネイル弄るの好きだし、仕事に出来ればいいなって思ってて、いずれ独立できればいいなって思ってるんだよねー」
「そうなんだ」
二度目から彼女はお金を要求してこなかった。
「おぢさんマヂ優しいしさ。あちしも気持ちいいしさ。だからお金はいいよ。元彼なんか何時も財布から勝手にお金盗んでマヂ大変だったんだから。文句言うと殴んの。マヂ最低だよね」
「そだね」
「……ホンと言うと寂しいって言うのもあるんだよね。おぢさんだったら一緒にいてくれそうだし……ダメ?」
「……いいけど」
この関係をセフレとは呼びたくなかった。
彼女から連絡が来た日は優先した。彼女にとってボクはただの遊び相手なのかもしれない。けれども、それでも良かった。ご飯を作って待っていてくれたり、一緒にご飯を作って食べたりもした。
最初は余裕がなくただただ貪るだけだった快楽が、日々を過ぎるほどに余裕を伴い味わい始める。余裕が増えるほど彼女を眺めるようになった。こんな自分を慈しんでくれて心から感謝している。
例え彼女にとって遊びだったとしても感謝しかなかった。
気づけば一ヶ月。
「なんか元彼から連絡来た。やり直したいって。ほらっ。あっ‼ ちょっ‼ んっ‼ ちょっとおぢさんっ。どうしたん? えっ? もしかして……ん……嫉妬してるん? おぢさん……ぐりぐりしてる。可愛い」
元彼には嫉妬した。感謝しかないと綺麗な言葉を並べていたくせに、気が付いたら彼女を押し倒し奥まで押し込み、スマホを取り上げて元彼の連絡先をブロックしていた。
「もー……おぢさんてば。そんなに嫌だったの?」
「……ごめん」
「可愛い……おぢさん。いいよ。おぢさん」
気付けば半年。
「おぢさん。ごめんなんだけど……十万円貸してくれない? 独立するのにぴったりなテナントにやっと空きが出たんだけど……開業資金がちょっと足りなくて」
そう告げられて貯金から百万円を引き出して貢いだ。これで彼女がお金を持ち逃げしても怒ったり訴えたりはしない。あげるつもりで貢いだ。
「おぢさん……十万だけでいいんだけど」
「余裕があった方がいいでしょ?」
「でも……いいの?」
「あげる。何時もありがとう」
「えー? なんで感謝してくれたの?」
好きになっていた。騙されていても構わない。思えば最初から一目惚れだったのかもしれない。
こうして彼女のネイルサロンは開業した。
小ぢんまりとした小さなサロンだけれど、固定のお客さんはいて、評判も悪くはなかった。
「おぢさんマヂありがとね。おぢさんもアート書いてよ。記念にするからさー」
そう告げられて変な絵を描いて提出してしまった。絵心等ない。
「おぢさん。なんかお店をもっと大きくして共同経営しないかって人が来たんだけど、どしたらいいと思う?」
「チャンスかもしれないけれど、詐欺かもしれないし、それにまずは地に足つけて地道にやったほうがいいんじゃない? もし本当なら成功するかもしれないけど」
「そっかー。わかった。断る」
「チャンスだったらごめんね?」
「ううん。お店を大きくするのとか、考えてないからいーよ」
そうこうしている間に従業員も三人に増えた。
一年が経過して、彼女と肌を重ねるのが当たり前のようになっていた。まるで日常の一部のようで日課のようで――何時までもこうしていないだなんて、そんな我儘を考えては振り払う。浮かれては振り払う。
大晦日――彼女はボクの腕の中にいた。
新年を迎えるとテレビに映像が映っているのにも関わらず、炬燵に足を入れて身を寄せて視線と唇を絡ませていた。
「おぢさん……あのね。最近変なんだ……。ずっとね。おぢさんの事ばっかり考えてるの。ずっとおぢさんの事ばっかり考えてる。変かな? こうしてると……すごく安心するんだー」
「そう?」
「おぢさん……ちゅき。いっぱいちゅき。愛してゆ」
指を滑らせて彼女を愛でる。
「おぢさんは……? ちゅき?」
好きと告げても良いのだろうか。愛していると告げても良いのだろうか。迷ってしまう。ボク達は恋人ではないのだ。
「うん……」
辛うじて頷くしかなかった。
「へへへ……」
それからしばらく――彼女は神妙な顔をして話しかけて来た。
「あのね。おぢさん……大切な話があるんだけど」
「うん」
「あのね。おぢさん。子供が出来たの……」
「それは……」
「もちろんおぢさんの子だよ。あのね。あちしね。おぢさんの子を産みたくて。だから……アフターしなかった。ごめんなさい。迷惑はかけないから……認知してとも言わないし、それだけ言いたくて」
「あのね」
「うん……やっぱり嫌?」
「ボクは……オレは君が好きだよ」
「え? うっうん……ありがとう」
「こんなオレだけど……添い遂げさせて欲しい」
「えっ? それって……」
「ダメかな? おじさんだけど、君には不釣り合いかもしれないけれど」
「ううん‼ ううん……おぢさんがちゅき……。いっぱいちゅき。一緒にいたい」
「……一目惚れだったんだ」
「そうなの? 早く言ってくれればいいのに。不安だったんだ。おぢさん。あちしを好きじゃないんじゃないかなって。だから……あのね。最近ね。何時もね。最近。なんだかね。おぢさんの事ばっかり考えてるの」
「そう?」
「うん。一緒にいるだけでふわふわするんだ……」
抱きしめると出会った頃と同じ嗅ぎなれた彼女のニオイがした。
「おぢさん……。おぢさん。ふふふっ。でも……オレよりボクの方が似合ってるよ」
「ちょっと無理しすぎたかな?」
「うん。ボクの方がいいよ」
これを機に仕事をやめた。彼女のサロンへと再就職するためだ。所謂マネジメント面を引き受けた。彼女は社長なので秘書みたいなものだ。四六時中一緒にいるのだから困ったものだ。隙さえあれば口付けをかわしてしまう。
「今はお仕事中でしょ?」
「おぢさんが悪いんだよ。おぢさんが悪い」
「つわり、大丈夫?」
「おぢさんがキスしてくれたら大丈夫」
「今は仕事中」
「おぢさんが悪いんだよ。おぢさんが悪い。はやくちゅーしよ……」
「はいはい」
この会社では従業員の業務に関して自主性を重んじている。前の会社では新人社員がフォントを変えるだけで怒られていたものだ。
組織に自由は必要ないのかもしれない。言われた業務をただこなすのが正しいのかもしれない。しかし、彼女の会社では従業員が生き生きとしていた。自分の裁量で仕事をしていいので楽しんでいるようでもあった。
それは一長一短で良いとも悪いとも簡単には語れない事だけれど、少なくとも彼女達は楽しそうだった。
結婚式は小ぢんまりと――従業員と彼女の友達、ボクの両親だけの小さなものだったけれど、それで良かった。
「これで夫婦だね」
「そうだね」
「今日からずっと一緒だね……」
「もっと早くこうすれば良かったと思うよ」
「おぢさん……。ふふっ……おぢさん。ちゅー」
初期の従業員を初め退職する従業員が少なく、会社は徐々に大きくなっっていった。
それは簡単ではなく悩む事も多い。他会社からの外的要因も悩ませる一因となっていた。妨害されているわけではないけれど、もっと会社を大きくしないか、会社のシステムを改善しないか等の売り込みも多かったからだ。いくつかのサロンで生き残るために情報共有しないか等の提案もあった。
いくつかのサロンで共通のクーポンを作って割引を共有したり、ネイルデザインの幾つかを共有したりもした。
うちの従業員はお任せが多く、その日だけの一点物、オリジナルデザインが多かったので、その幾つかのデザインを記録として残し、お客さんがそのネイルをやめた後にシリーズ化して共有した。
ネイルデザイナーとしての彼女達の成長は目覚ましく、ネイルアートに関して何の知識も芸術センスのないボクでも尊敬するほどだった。
「おぢさん。ちゅーしよ」
「そこは口ではありません」
「いいぢゃん……。おぢさんもちゅーして? こっちに……」
「もー……」
指や舌を使い愛で合うだけで良かった。それだけで良かった。
生まれたのは女の子。エコーで性別はわかっていたけれど、いざ腕の中にいると不思議な感じ。ボクの子供なんだよな。と変な感想を浮かべてしまう。我ながら変な感想だ。
「体は大丈夫?」
「……うん。不思議と大丈夫。なんかね。すごく嬉しいんだー。出産する時も痛かったんだけどね。すごく痛かったんだけどね。おぢさんの子供なんだって思ったら、すごくふわふわしてね。なんかね。痛いけど……ふわふわしてた」
「あんまり無理しないでね」
「……うん。ちゅーしよ?」
「いいよ」
口付けをかわすと彼女は鼻を啜っていた。
「早く退院してお家に帰りたい……」
「一週間後ぐらいかな」
正確には五泊だけれど。
「おぢさん。もう一回ちゅーしよ?」
お見舞い中はカーテンをしめ、キスばかりしていたら看護師さんに怒られてしまった。誓ってキスしかしていない。
「へへへっ。おぢさんちゅーしよ」
触れるたびに好ましい。
「ダメ……もう一回。離れちゃダメ。もう一回」
何度でも良い。
「……やだ。ちゅーするの。ちゅーしよ?」
――テナントを移動し仕事と育児を両立するために、テナント内に託児所も開設した。
「あのね、おぢさん」
「んー?」
「あちしね。あのね……」
「うん」
「おぢさんの子供がね。あのね。いっぱい欲しい」
「そう?」
「うん……。だからね。おぢさん」
「うん」
「いっぱいしようね」
彼女の笑顔と微笑みに癒される。腕の中に収めて安堵する。余韻は一入で。行為を終えても唇を絡ませ止まらない。
彼女を眺めていると……なぜだろう。不思議と優しくなれる気がした。
指を咥えて舌を這わせる――。