勇者『対』復讐者
「黙れ」
その威圧感にアレクシアは圧倒するしかなかった。
「お前っ……!」
ハルはアレクシアに刀を向ける剣士に攻撃をしかけた。
しかし、そんな攻撃が当たると思うかと言わんばかりに、その剣士は刀でハルの槍を払い、思い切り蹴り飛ばした。
「慌てるな。貴様は後で殺してやる。今すぐ死にたいのなら、話は別だ」
レイは、剣士をただじっと見ていた。
(あの戦い方……、どっかで聞いたような……)
レイは思い切って、その剣士に突っ込んだ。そして、纏っているマントを剥いだ。
「っ……!貴様……!」
「へッ、どうりで見たことあると思ったら、お前剣聖か!」
ハルはそれを聞き、さっき蹴られた痛みを忘れるくらいに驚いた。
「剣聖だって!?本当にいたのか!」
「俺も親父から聞いたくらいだけど、リュドミーラ王国領よりもずっと北に行った島に、独自の文化と戦術を持つ里があるんだよ。そこには、剣を極めた一握りの者にしか与えられない二つ名があるんだと」
「それが剣聖って事か……」
「んで、その剣聖は今はもうたった一人。あの戦い方を見て確信に変わったぜ。おい、お前レイカ・ケンザキだろ?」
それを聞いて、その剣士はレイの方に歩き、そのまま胸ぐらを掴み押し倒した。
「貴様…!なぜその名を知っている!?」
すると、レンがハルの近くに寄り、大回復[ハイ・ヒール]の魔法をかけた。
「ケンザキって……、変わった姓名だな……」
「そこでは当たり前なんだろうな」
すると、押し倒されているレイは、剣士に向かって言った。
「やっぱ、知ってやがったか……。じゃあ、お前の名前も当ててやろうか?ノエル・ケンザキ・フリューグント」
それを聞いて、ノエルと呼ばれた剣士は刀を手にとりレイの頭のすぐ横の地面に突き刺した。
「なぜ……、貴様が俺の名を知っている?俺の故郷を奪ったのは貴様なのか!?」
「お前の故郷なんて、俺の故郷からどうやって行きゃあいいんだよ」
しかし、ノエルはレイの言葉を聞こうともしなかった。
「黙れ!そうか……。貴様か……!貴様が俺の故郷を奪ったのか!!」
ノエルは怒りに任せて、レイを突き殺そうとした。
「こ、こりゃマズい!」
レンはノエルとレイの間に入り、ノエルの刀を剣でそらした。
ノエルの刀は、レイの胸部を逸れ、レイの腕の横に刺さった。
「ふー!あっぶねー!ギリギリセーフー!」
すると、ノエルはレンに対し、鋭い眼差しを向けた。
「なぜ邪魔をした?」
「僕は僕の仲間を守っただけだ。レイがアンタに何をしたかは分かんないけど、一旦その刀しまって話し合いしたほうが……」
「邪魔をするな……」
「ごめん、なんて?」
「邪魔を…、するなぁぁ!!」
ノエルはレンを斬り殺そうと刀を振った。レンは間一髪のところで避けた。
「やっべ、余計怒らせちゃった。レイ!下がってろ!」
「わ、分かった!」
レイはハルとアレクシアを連れ、遠くに離れた。
「どうやら、話し合いには応じてくれなさそうだ」
レンは剣を構えた。
「俺の復讐の邪魔をすると言うなら、生きて帰れると思うな!!」
ノエルはレンに向かって、刀を携え突撃した。それに対し、レンは剣で身を守った。
ノエルはレンに近づくと、レンの守りを崩すかのように、無数の剣撃を浴びせた。
それでも、レンは守りの姿勢を崩さなかった。
(こいつ…!今まで戦ったどんな奴よりも強い……!下手すりゃレグルスより上なんじゃないの?)
ノエルは一向に反撃の隙を見せなかった。
すると、レンは痺れを切らしたのか、無理やり攻撃しようと剣をノエルに振った。
(こうなりゃ、やけくそで一発!)
しかし、ノエルはレンの剣を払い除けた。
「こんな程度で……!」
ノエルはレンの腹部を蹴ろうとしたが、レンは上に飛び上がった。
(な……!俺の動きをこの一瞬で!)
そして直ぐ様、レンはノエルの頭上から肘打ちを浴びせた。
「なっ……!?」
ノエルが、思わずよろけた所をレンは一気に畳み掛けた。剣をしまい、ノエルに向かって無数の殴りを放った。
(隙が生まれたこの一瞬!大事に決めないと!)
しかし、ノエルはすぐに立て直し、レンの殴りを全て足で受け止めた。
(何発かは喰らったが……、こんな程度、俺の敵ではない!)
ノエルは真っ直ぐ殴りかかるレンの腕を払い、レンの腹部に横蹴りを浴びせた。
「うっ……!」
(蹴りが……、重い……!こんな攻撃、初めてだ……)
レンはあまりの蹴りの重さに、大きく後ろによろけた。
それを遠くから見ていたレイとハルは、不安に思っていた。
「ただもんじゃないとは分かってたけど、ここまで強えのかよ!あいつ」
「ああ、オレも驚いてる。レンがいるからどんな強い敵でも大丈夫って思ってたのが間違いだったな。レイ」
「にしても、これであいつがやられたら、俺らおしまいだぞ?」
レンは、ダメージが大きいのか、腹部の右横を擦っていた。
(肉弾戦は不利そうだな……。まだ蹴られた場所が痛む……。魔法でも使うか?)
そんな事を考えてる間に、ノエルは再び刀を構え、レンに突撃した。
「休む暇は与えないぞ!!」
ノエルはレンの首に目掛け、刀を横に振った。
(もう、やるしかねぇ!)
レンは、横から振られる刀を躱し、ノエルの腹部に手をかざし、電撃の魔法を放った。
(……!?無詠唱だと!?)
ノエルは、レンの無詠唱魔法に反応しきれず、まともにくらってしまった。
(よし!今だ!)
レンはその隙に、ノエルを力を込めて殴り飛ばした。
「ぐはっ……!」
ノエルは刀を地面に突き刺し、倒れないように体勢を整えた。
(よし……、だんだんと見えてきた!じゃあ一気に攻めるか!)
「ようやく隙を見せてくれたな。さて、ここからは僕のターンだ!」
レンの目には、反撃の兆しが見えてきていた。
【ちょっぴり用語解説】
〈電撃[ボルト]〉
手のひらから雷を放つ地味に難しい攻撃魔法。
強化すると、大電撃[ハイボルト]、超電撃[メガボルト]になる。しかし、レンだけ、さらに上の極電撃[ギガボルト]が使える。
〈無詠唱魔法〉
熟練の魔術師でも難しい魔導の到達点。
最後まで読んでくれてありがとうございます。
よければアドバイス(読みやすくなる工夫だったり)とかをくれると嬉しいです。