立って立たせるのが勝者
【前回のあらすじ】
《レン》
ついにセトが覚醒した。やっぱり僕が感じたあのエーテルはこの力の物だったんだ。
なら僕も、神竜覚醒で対抗だ!精一杯戦って、勝者はどちらになるかな……?
レンとセトの拳のぶつかり合いで生じた光の柱はしばらく残っていたが、レンとセトが落ちてきたと同時にだんだんと消えていった。そして、レンとセトがリングに叩きつけられたと同時に、その光の柱は完全に消え去った。
その後間もなく、避難していた観客も戻ってきた。
クリシスは[ダイヤモンドランパート]を破壊された反動で飛ばされ、観客席スレスレの場所で倒れていたが、すぐに立ち上がって兵士を呼び集めた。避難した観客を全て連れ戻したかどうかの確認をするためだ。
ハルは魔力を殆ど使い果たし、クタクタになってその場に座り込んでいた。
「ハァ……、ハァ……。俺、防壁を何度[ダイヤモンドランパート]に重ねがけしたんだ……?まるで効果がないみたいだった……。いや、それか防壁が追いついていなかったか……。どちらにしても、[ダイヤモンドランパート]が割れる程のぶつかり合いか……。まさか無敵の防御を誇ると言われてた[ダイヤモンドランパート]が割れるなんて、予想外だ。いや、俺の予想だけは当たってたか」
くたびれながら、ハルはそう呟いた。
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レンとセトは、倒れ込んだまましばらく動かない。審判が近づいて確認するも、どちらもちゃんと脈はあり、特に一段とこれといった事はなかった。どちらもただ気絶しているらしい。すると、
「う、うぅ……」
レンとセトは同時に目が覚め、お互いの方を向いた。
「ハァ……、お前相変わらず強えよ……。あと一歩でお前にいいのが入ったんだけどな……。俺が先にいいのを貰っちまった」
「いや、僕も手堅い一撃をお前に貰ったよ……。お互い様だね」
「そうかよ……」
セトはそう言った後、空を見ながら失笑した。つられてレンも空を見て、目を瞑りながら失笑した。
そして、一通り笑い終わったのか、レンは思いっきりため息をついた。そしてレンは満足げに降参をしようとした。
「降さ……」「参った!!」
「……え?」
セトの突然の言動にレンは驚いた。
「セト・ヴァールクス選手、降参!よって勝者、レン・フリューゲル選手!」
と言う審判の声が響き、その後すぐに観客席から無数の歓声が聞こえた。
「なっ、なんと……。なんと!降参だーー!レン・フリューゲル選手とセト・ヴァールクス選手の己の限界を超えた戦いは、なんとセト・ヴァールクス選手の降参宣言で幕を閉じたぞーー!?」
と実況役の兵士は言ったが、そのすぐ後にセトが、
「確かにぶっ倒れるまでやり合おうとは言ったさ!けど、本気のレンと戦えただけで俺はもう満足だ!」
と大声で観客に言った。リングに倒れたまま。
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ハルは、レイの元に戻り、また自分の席に座った。
「お疲れさん」
「それはレンとセトに言う言葉じゃないか?」
「お前にも言えんだろ。オレだって[ダイヤモンドランパート]がぶっ壊れるなんて思わなかったぜ」
「確かにな。俺も予想外だよ。ところでアレクシアは?」
「下に言ったぜ。また回復だろ?」
そう言って、レイはハルに視線誘導した。
闘技場では、ネルケディラ軍医と共にレンとセトの元にやって来たアレクシアがいた。
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「立てそうかい?」
ネルケディラ軍医の問いに対してレンは、
「無理、だって目一杯やったもん。神竜覚醒だって実戦はこれが初だし。過剰強化程じゃないけど結構持ってかれるや……」
と答えた。そう言ったレンに対して、
「あ、そうだ」
セトは疲れて動かすのがやっとの右手でレンの腕をつつき、レンがセトの方を向いた時にこう言った。
「俺がお前に渡したスティムがあるだろ?あれ使ってみなよ」
「え?でも、あれ使うくらいなら回復使ったほうがいいって言ってなかったっけ?」
「後から本見て分かったんだけど、俺がお前に渡したやつ、[急速回復型]ってやつらしいぞ。刺して中の液体を注入するだけで超回復並みの回復が一瞬でできるってよ」
「ふーん」
そう言って、レンは控室に置いていた自分のバッグを自分の右手に引き寄せた。
「えーと、どこだっけ?」
余りにも自然にバッグを引き寄せるものなので、ネルケディラ軍医は驚いてレンに聞いた。
「え?君、今それどうやったの?」
「割と簡単だよ」
そう答えて、レンはバッグを漁り続けた。
「あ、これだな?」
そう言って、レンはバッグから小さい筒を取り出した。
「で、これどう使うの?」
「側面にボタンみたいなのがあるだろ?それを押して針を出して、上のボタンで注入だってよ」
「針か……。僕、針はなんでか知らないけど苦手なんだよね……」
そう言いながら、レンはスティムの針を出し、自分に刺して中の液体を自分に注入した。
すると、レンの身体は瞬く間に回復し、なんと3秒足らずでもう立てるようになった。
「おぉ!すごいなこれ!」
「だろ?けど、そいつどうやって中身を補充するのか分からないから、しばらくはバッグに突っ込んでろよ」
そう言われて、レンは空になったスティムをバッグの中に突っ込んだ。すると、ネルケディラ軍医がレンに聞いた。
「待って。今、君が使った物はスティムかい?」
「うん、そうだけど……。何か問題が?」
「いや、何も。ただ、実物や実践例を生で見るのが初めてなんだ。それに、そのスティム…というかスティム全部が珍しいものでね。極零帝国でしか扱われないんだ」
それを聞いて、レンはセトの方を向いてこう言った。
「結構レアものなんだね」
「俺に聞かれても分からねぇよ……。けど、回復だったらレンに渡して正解だったろ?」
「どういう事?」
「負けた方の俺が回復してお前がボロボロでどうすんだよって事だ」
「ふーん。まあ、いっか。セト、立てそう?」
そう言って、レンはセトに手を伸ばした。セトはその手を掴もうとしたが、身体に限界が来ているらしく、痛みを我慢して腕を伸ばすのがやっとの状態だった。
「待ってろ。今、お前の手を掴んで立ち上がって……。痛ってえ……身体中が痛え……」
「あ、じゃあ無理して立たせない方がいっか。ホントはセトも立たせて一緒に腕を上げようかと思ったけど」
「そりゃありがてえや……。けど、このザマだ」
そう言われて、レンは失笑した後、ネルケディラ軍医の方を向き、
「じゃ、そっちは頼んだ」
「任せて。ネルケディラの医療はトルネシアの医療には劣らないから」
「ちょっと!ボクも忘れないでください!」
「分かってるよ、お嬢さん」
そう言って、セトはネルケディラ軍医とアレクシアに連れられてリングを後にした。
レンもリングから戻ろうと入場口に入ると、ノエルが最初にレン達と会った時のような目でレンを見ていた。
「何?試合展開が不満だった?」
「そうじゃない」
そう言うと、ノエルはレンに近づいた。
「貴様、アレを黙っていたのか?」
「アレって、神竜覚醒の事?いや、ホントはお前と戦う時にお披露目しようと思ってたんだけど……」
「フン、そうか。なら残念だったな。わざわざ俺に手の内を明かすような真似をした事をな」
そう言って、ノエルはレンを通り過ぎようとした。しかし、レンは前を向いたままノエルに、
「そう言って、そっちも何か隠してるんでしょ?ノエちゃん」
と言った。
「貴様程度に使う事はないだろうと思っていただけだ。後、ふざけた呼び方をするな。どうなっても知らんぞ?」
と言いながら、ノエルは自分の刀に手をかけた。
「はいはい」
そう言いながら、レンは控室に戻っていった。
【ちょっぴり用語解説】
〈スティム〉
極零帝国でのみ、製作される回復アイテム。種類は時間経過回復型、一定量回復型と様々。ちなみに極零帝国では、[灸復針]と呼ばれている。
最後まで読んでくれてありがとうございます。
次はいよいよノエルの試合です。




