不穏な幕間
【前回のあらすじ】
《セト》
ノエルは相変わらず容赦がない。まだ武器を構えていないハルを思いっきり蹴飛ばした。
俺はと言うと、何とか2回戦を突破した。かなり苦戦したけど、次はレンが相手だ。弱音なんて吐いてらんねぇや!
一方その頃、闘技場の外では3人の荒くれ者が歩いていた。
「……それでよぉ、そいつ自分の使ってたへんちくりんな槍折られたら、俺のナタがぁ〜とかほざいてすっげぇ弱気になって、ウワサの英雄サマにあっさりやられちまったんだぜ!」
「ハハハハ!!なんだそりゃ!ダッセェの!!」
「それに、そいつその英雄サマの事クッソ煽り散らかしてたんだろ?そりゃボコられるに決まってんだろうがよ!!」
そんな会話をしながら歩いていると、目の前に寝転がっている男性の姿を見かけた。
「お?おい、あれ見ろよ!誰かにボコられてやがるぜ!?みっともねぇ!」
「おねんねしてるな。ちょっとちょっかいかけてやろうぜ?」
「「賛成」」
そう言った後、荒くれ者たちはその男性に近づいた。
「おいオッサン?ひっでぇやられようだなぁ?誰にボコされたんだ?」
と、荒くれ者の1人がバカにするように男性に話しかけたが、反応がない。
「おい、こいつダンマリしてるぜ。ボコされたクセにテメエの話聞いてねぇぞ?」
「ヘッ、どうせ恥ずかしくて面ぁ合わせたくねぇんだろ!?」
そう言いながら荒くれ者の1人は、男性の首を掴んで仰向けにした。すると、その男性は胸を貫かれ、死んでいた。
荒くれ者たちが絡もうとした者は、闘技場を出た時に魔王アイリスに殺されたトロイ・フロイスだった。
「げっ……!?こいつ死んでやがる……」
「お、おいおい……、嘘だろ!?」
「このままじゃ俺等、牢屋にぶち込まれちまうぞ……!?」
「とにかく……、逃げろーー!!」
「たっ、助けてくれーー!!死体だーー!!」
「兵隊さーーん!!怖えよぉーー!!」
荒くれ者たちはそれぞれ大声で言いながらその場を逃げていった。
ーーーーーーーーーー
闘技場では、準決勝の準備が進められていた。ネルケディラ武闘大全の運営は、今大会はかなり周囲に被害が及ぶと考え、リングに物体保護をかけ、クリシスに頼んで観客席を守るために『ダイヤモンドランパート』を張った。
レンとセトはお互いに準備運動をしていた。次の試合はレンとセトが戦うからだ。
「レン!まさかこんなに早く再戦するなんてな!」
「そうだね!まあセトが出るってなった時から分かってはいたけどさ!」
「何だそりゃ。お前いつの間に未来が見えるようになったんだよ」
そんな会話をしていると、闘技場の外がだんだん騒がしくなっているような音が聞こえてきた。
「なんか外がうるさいな。俺が見てこようか?」
「いや、この騒ぎは只事じゃなさそう。2人で見に行こう」
そしてレンとセトが闘技場の外に出ると、いつもはあり得ない人混みが通路を塞いでいた。
「何だよこれ……」
「まいったな……。これだと何が起こってるか分からないじゃん……」
すると、レンとセトの後ろから、
「そこの2人!ちょっとどいてくれ!」
と言う声がした。2人が言われた通りにどいたら、2人の兵士が担架を持って走っていった。
「怪我人かな?」
「ハルじゃね?派手に吹っ飛ばされたじゃん」
「でも、いくらハルでも吹っ飛ばされた程度で担架は必要ないと思うけど……」
2人が話していると、
「レン君!セト君!こっち!」
何処からかエイリークの声がした。エイリークは2人にこっちに来るように手招きしていた。
レンとセトが気付いてエイリークの所に駆け足で近づきながら、
「モザンビーク……じゃなかった。エイリーク!何があったの?」
と、レンはエイリークに状況を聞いた。
「どうやら、ここで死んだみたいだね」
「誰が?」
「トロイ・フロイスだ」
そう聞かれて、レンはノエルが戦っていた相手の事を思い出した。
(そう言えば、ノエルの対戦相手にそんな名前の奴がいたな……)
「トロイって、ノエルのケツに敷かれてた奴か?」
レンが思い出している途中に、セトが口を挟むのでレンとエイリークは目を丸くしてセトを見た。
「あっ……、悪い。それで、そいつに何があったんだ?」
「殺されたみたいだよ。胸を刺し貫かれてね」
「胸を刺し貫かれた……?」
レンは唐突に呟いた。それと同時に、レンの悪い記憶がフラッシュバックした。
(貫かれた胸……。唐突な死……。これって、あの『時』と似てる……)
レンはその『時』をよく知っている。何しろ、かつてその『時』を目の当たりにしたからだ。そしてレンがその記憶の核心に触れようとした時……。
「レン?レン!どうしたんだよ!急に黙り込んでよ!」
セトの声がレンの頭の中に響いた。
「えっ……?あ、ごめん……。ちょっと悪い記憶が蘇っちゃって……」
レンは軽く頭を下げた。エイリークはふぅ、と安堵の息をつき、
「それなら良かったよ。まさか心当たりがあるのかと思っちゃった。話を戻すけど、その時は、まだレン君とレイ君が戦ってた時だったらしいよ」
「その時か……。それなら気づかれないのも分かるな……」
「派手にやり合ってたもんな。お前ら」
セトは、目を細めてレンを見た。
「それだけなら、まだその辺のごろつきに襲われた可能性もあるけど、聞いた話じゃ、この大会の参加者がみんな狙われているんだって」
それを聞いてレンとセトはお互いを見合わせた。もしかしたら自分も襲われる可能性があると思ったからだ。
「それって、俺らやレイ達も『獲物』って事だよな……」
「そうっぽいね……。待てよ?まさかエイリークも……!」
レンはハッとした様子でエイリークを見た。続けてセトもエイリークを見た。
「かもね。ハオラン・リーという参加者も、自分の故郷に帰る途中で襲われたらしいし」
「そいつは生きてたのか?」
セトは気になって聞いてみた。
「致命傷ではあるけど、何とか一命を取り留めて、今は宿で治療してるってさ。それに、身元は分からないけど、魔防の盾を持った重騎士も襲われたらしいよ。まあ、あれだけ重い鎧を着ていたんだ。軽傷で済んだってさ」
「そりゃ、そうだろうな。あれだけガッチガチなら襲われても平気か。でも、なんでアンタはまだ襲われてないんだ?ハオラン・リーも、トロイ・フロイスも、その重騎士だって、負けて帰る途中だったんだろ?決勝トーナメントの1試合目でレンに負けたアンタが襲われてないのは、ちょっと変だぜ」
セトに聞かれると、エイリークは少し俯いた。
「問題はそれなんだよ……。何で真っ先に襲えるであろう私を襲わないのか……。女の子だと思ってるのかな?」
「エイリークも冗談言うんだね」
レンがそう言うと、エイリークは少し顔を赤くしながら、
「言うさ!人間だもん!冗談の1つくらい言えるとも!」
と言った。
「まあそれはそれとして、2人も気をつけて。もしかしたら戦ってる途中に襲ってくるかもしれないし」
「それはないだろ?襲ってきても俺らで返り討ちにしてやら。な?レン」
「そうだね、それもありか。ありがとう、エイリーク。教えてくれて」
「ついでに警戒も促してくれて!」
「別に構わないよ。準決勝、楽しみにしてるね」
そう言って、エイリークはレンとセトと別れた。
その様子を、闘技場の柱の上から見ている者がいた。魔王アイリスだ。
「そうそう、せいぜい気をつけて。僕はそんな不意討ちなんて、『今は』しないから」
そう言いながら、アイリスは不敵な笑みを浮かべた。
【ちょっぴり用語解説】
〈物体保護〉
その名の通り、物体の破損を防ぐための魔法。ただし、強すぎる衝撃が加わると、保護しきれなくなる。
〈『ダイヤモンドランパート』〉
グラヴィエッタ家に代々伝わる奥義にして、国と民、そして部下や仲間を守るためのクリシスの『盾』。どんな攻撃や魔法も通さない破格の防御力を誇り、ベスティア戦争の際もレグルスの猛攻からレン達を守るために活躍した。
最後まで読んでくれてありがとうございます。




