ハルの双子の妹
すると、女の子はレンに近寄ってきた。
「レン・フリューゲルさんですね?初めまして。ボクは、アレクシア・アルターレと言います。お兄様からは色々話を聞いてます」
「お兄様ね〜……。のわりには全然似てないけど?」
「オレは父さんに似て、アレクシアは母さんに似たんだよ。双子に見えないって、実はよく言われる方なんだぞ?」
「へぇ〜。アレクシアって言ったっけ?一つ聞いていい?」
「はい。なんです?」
すると、レイが後ろからレンに向かって、
「いつもみたいに、デリカシーのない質問すんなよー!」と言った。
レンはレイの方を向いた。
「僕がそんな質問するわけないでしょ!」
(マジで、本人気づいてねぇな……。無垢って恐ろしいな……)
レンは再び、アレクシアの方を向き、アレクシアが抱え持っている両手剣を指差した。
「その両手剣何?」
「これですか?ボクのです!」
レンの頭の中には、珍しく一瞬ハテナがよぎった。
「……へ?」
「こう見えて、意外と使いこなせているんですよ!」
アレクシアはレンから離れ、両手剣に巻いてある布を取り、柄を両手で持ち、剣を持ち上げた。
「見ててくださいね!」
アレクシアは、両手剣を軽々と振り回した。
レンは開いた口が塞がらなかった。
それも無理はない。今、彼の目の前には
『戦いとは無縁そうな女の子が、武器の中でも重い部類に入る両手剣を軽々と振り回している』という光景が流れているからだ。
それをレンの後ろから見ていたレイも、目を見開いていた。
「ウッソだろおい……」
もはやレイはそれしか言葉が出なかった。
アレクシアは両手剣を地面に突き、右手だけを柄にかけた。
「どうですか?」
「ハル。なんでこんなに強そうなのに連れて行こうとしないんだ?」
「魔物に真っ先に狙われるかもしれないだろ?」
「ぱっと見、パワー型に見えなくもないから?」
「まあ……、それもあるかな」
「おい待て。それならなんで完全パワー型の俺は狙われねぇんだ?」
レイは思わず、口を挟んだ。
「でも、それを踏まえても心配しすぎじゃない?」
(おい、無視かよ……)
レイは苛つきながらため息をついた。
「そうです!お兄様は、ボクのことを子供の頃と変わらない、か弱い女の子って思ってるんですよ!」
「へぇ〜。ちなみに回復魔法使えるって聞いたけど、 どんくらい使えるの?」
「えーと……、怪我を治すだけの魔法なら完全回復までなら覚えてます。状態異常に関する回復魔法も、『侵食』以外なら全部覚えてますよ!」
「結構覚えてるな……。 どうする、レイ?」
レンはレイの方向を向いた。
「俺はどっちでもいいぜ」
(どっちでもいいって……。地味に困るんだよなそれ……)
「オッケ!連れてってあげるよ!」
それを聞いたハルは、レンに詰め寄った。
「お、おい!本気かよ!さっきの話聞いてなかったのか!?」
「聞いたよ。そうなったら僕たちでなんとかするしかないだろ。それに、お前の妹なんだから、ちゃんと守ってやらなきゃダメだろ?」
「それは……、そうかもしれないけどさ……」
「ま、アレクシアにとってもいい経験になるでしょ?強くなれるし、『侵食』の回復魔法もこの旅で覚えるかもしれないし、何より回復魔法が使える時点で充分役に立つでしょ!」
「え?ボクなんて……、お兄様の役に立つにはまだまだで……」
「そう言わない!このパーティー、僕が魔法戦士で、レイが重騎士、そんでもってハルが魔術師だから回復要員がいないんだよね!だから、回復役がいるといないで結構安定するんだよね!」
「お前、意外とこういうの考えてんだな」
「まあ、あの時はハルに任せっきりだったからね。僕はこういうのむちゃくちゃ考えるタイプなんだよ」
「そうだったのか。どうりでオレのプランが崩された時にセカンドプランを考えられるわけだ」
「まあね。というわけで、アレクシア・アルターレ!君を僕たちの旅について行くことを許そう!」
「すっげぇ上から目線じゃねぇか」
レイはレンの発言に思わず呟いた。
「え?まあいいや」
レンはレイの方向を向き、直ぐ様正面を向いた。
「だけど、基本は後衛で回復を頼むよ!さっきの剣技を見た感じ、まだ実戦経験がないみたいだったし!」
「え?どうして僕が実戦で戦ったことがないって分かるんですか?」
「まあ、昔の経験からかな!大体は分かるんだ」
レンはかつて、トルネシア騎士団の将軍だった時、トルネシアの騎士を鍛え上げる訓練長も兼任していた。
「あ〜……。あの時のか……」
レイは当時のレンをよく知っていた為、苦笑いをした。
「まずはこの王都周辺の魔物と戦うことから始めようか。そうすりゃ実戦にも慣れるって!」
(ホント、昔と比べて優しくなったよな……)
ハルはそう思いながら、レンに近づいた。
「でも、ホントに大丈夫なのか?」
「ここらの魔物は、王都から旅立つ旅人の練習役みたいなもんだし、大丈夫でしょ。万が一のことがあったら、その時は僕らでなんとかしよ」
「そうは言っても……、心配だな……」
すると、レイがハルの元に走ってきて、頭を軽く叩いた。
「いつにも増して心配性だな〜!お前は!」
「痛って!何すんだよ!」
「俺も『トルネシアで傭兵になる』って、親父に言った時、兄貴からは心配されたぞ?でも、その心配がいらねぇほどにまでなんのが、妹や弟ってもんだから、アレクシアだってお前の心配が取り越し苦労になるほどにまで強くなんだろ」
「そうなるのかな……」
ハルはまだ、迷いがあった。彼の中には、『レンやレイも強くなるって言ってるからアレクシアを連れて行こう』という考えと、『アレクシアに万が一のことがあったら心配だから兄としてアレクシアに残るよう説得しよう』という考えがあったからだ。
「珍しいね……。お前が悩むなんてさ……」
レンはハルの隣に行って話しかけた。
「なんで悩んでるって分かるんだよ」
「顔に出てるから、言わなくても分かるさ。心配なのも分かるけど、少しはアレクシアの意見も尊重してあげたら?」
「そっか……。そうだよな」
ハルはレンの所から離れ、アレクシアの元に向かった。
「アレクシア……。ホントに大丈夫なんだよな?」
「もう、心配しすぎですよお兄様!ボクはもう、子供じゃないんですから!」
アレクシアは真剣な眼差しでハルの目を見た。
「ハァ……、分かったよ。だけど無理はするなよ」
それを聞いたアレクシアは嬉しそうな顔になって、
「はい!」
と元気に返事をした。
「よし!さて、行きますか!」
「それもそうだな!おい!そのままいるんなら置いてくぜ!」
レイは後ろにいるハルとアレクシアに言った。
「お、おい!待てよ!もう……。また一日が長くなりそうだな!」
アレクシアは直ぐ様、レン達の方に走った。
「お兄様!早く出発しましょうよ!」
「ハァ……。乗り気だな、あいつ」
ハルはアレクシアの後を追うかのように、レン達の元へと駆けていった。
〜〜勇者の旅は、再び始まった。〜〜
【ちょっぴり用語解説】
〈完全回復[フルヒール]〉
かけた対象1人の体力と怪我を完全に回復する魔法。
ちなみに、複数の対象の体力と怪我を完全に回復する大完全回復[ハイ・フルヒール]という魔法もあるが、習得難易度は極めて高い。
最後まで読んでくれてありがとうございます。
よければアドバイス(読みやすくなる工夫だったり)とかをくれると嬉しいです。