冒険再開
翌日、レンは宿を出ようとすると、宿の主人から声をかけられた。
「あ、そうだ。英雄さん、あんたにも一応注意しとくけど、最近魔王レグルスの軍の残党の1人がトルネシア王国領にいて、道行く旅人たちに襲いかかってるらしいから、もし街道を歩くんだったら気をつけな」
レンはそれを聞いて、少し不思議に思った。
(レグルスの残党か……。普通の魔物だったら旅慣れた奴4人くらいでなんとかなりそうだけどな……)
そんな事を思いながらレンは宿の主人に言った。
「大丈夫だって。もし襲ってきても返り討ちにするから」
それを聞いて宿の主人はホッとした。
「良かった。それなら取り越し苦労だな。またいつでも来ておくれ」
「うん。じゃあまた来るよ」レンは宿を出た。
レンが、トルネシア王都を出ようとすると、後ろから声と足音がした。
「おーい!1人でどこ行こうってんだ?」
レンが振り向くと、そこにはレイとハルがいた。
「レイ、ハル。わざわざお見送りしに来たのか?」
「違うわ!どうせだったらお前の旅について行こうかと思ったんだよ!」
「オレはついて行こうとは思わなかったんだけどな……」
「なーに言ってんだよ!」
そう言いながら、レイはハルの背中を叩いた。
「お前だってネルケディラに行かなきゃならないんだろ?もしかしたら、こいつもいずれネルケディラに行くかもしれねぇんだから、丁度いいだろ!」
すると、レイはレンの方を向いた。
「それに、お前だってクリシスと再会してないんだろ?去年の終戦記念日にお前来なかったじゃんか」
「去年は色々あって来れなかったんだよ。でも、今年の終戦記念日には行くつもりだよ!」
「本当は?」
ハルはレンに聞いた。
「ごめん……。来ないかも」
「待てよ。"色々あって"って……、何があったんだよ?」
レイがそう聞くと、レンの表情が少し曇った。
「今は……、話せそうにないや」
「そっか。じゃあ俺も聞かねぇよ。何か話したくなさげだしな」
「そうしてくれると嬉しいや」
「でも、お前どこ行こうとか決めてあるのか?」
「まあ、トルネシアの北に行こうとは思ってるかな」
「北か……。ちょっとキツいかもしれねぇな……」
レイは顔を少し顰めながら、腕を組んだ。どうやらレイとハルも、宿の主人から同じ事を聞いたらしい。
「大丈夫だろ。こっちにはバケモンクラスの強い奴がいるんだから」
ハルがそう言うと、レイはハルと一緒にレンの方を向いた。
(バケモンって、僕のこと言ってんのかよ......)
「ま、それはそれとして。僕の旅について行くんだったら、途中で『やーめた』はなしだからな!」
「当たり前だろ?ハルはいいとして、俺はお前が旅の終着点に着くまでついて行くぜ!」
レイは自信に満ちた笑顔で、手を鳴らした。
「よっしゃあ!じゃあ、しゅっぱーつ!」
レンは握った右手を上に掲げながら歩き出した。 すると、そんなレンを止めるかのように後ろから若い女性の声がした。
「あの、待ってください!」
レンとレイは後ろを振り向くと、両手剣を抱え持った女の子が立っていた。
ハルは片手で目を覆い、天を仰ぎながらため息をついた。
そしてすぐ後に、ハルは女の子の元へ駆け寄った。
「もう……、何度言ったら分かるんだよ……。危ないからついてくるなって言ってるだろ?」
「でも!もしボクがついて行かなくて、お兄様が死んでしまったってなったら、どうするんですか!?」
「オレはそんなに柔くないから大丈夫だ、って何度も言ってるだろ?いくらお前が回復魔法を持ってるって言っても、万が一お前が真っ先に魔物に狙われて死んだら、オレは母さんになんて言えばいいんだよ!」
レンとレイは、その言い争いを後ろから見ていた。
「なあ、レイ。あの女の子誰?」
「え?あいつ、お前には言ってなかったか?妹がいるって」
「いや、聞いてはいたよ。聞いてはいたけどさ......。妹のわりにはハルと身長同じだし、年齢も見た感じ僕らと大差ないよな?」
「お前兄妹だと思ってたのか?妹は妹でも、双子の妹ってことだぞ?」
「双子!?え?双子なの?」
レンは驚きを隠せなかった。
(双子なの?のわりには全然似てないじゃん!髪の色違うし、目の色も違うし、何よりエーテルの流れが全然違うじゃん!もっと近くで見てみよ)
レンは言い争っているハルと女の子の所へ向かった。
「お、おい!バカヤロ!口喧嘩に割って入るなって!」
そんなレイの止める言葉を虚しく、レンはハルと女の子の前に立った。そして、近くでハルと女の子の顔を見比べた。
「な、何だよ……」
「こっちが兄で……」
レンは女の子の方を振り向いた。
「こっちが妹でしょ……?」
レンは険しい顔で女の子の顔を見た。途中でハルの方を向き、レンの顔はさらに険しくなった。
「双子で合ってるんだよね……?」
「あ、あの……。あんまり近くで見ないでください……」
しばらくして、レンはハルと女の子の前から下がった。レンはかなり複雑な表情をしていた。
「レイ。この2人ホントに双子なの……?」
「まあ、兄弟間で見た目が違うってよくあるけど、双子なのにあんまり似てないパターンはぶっちゃけ珍しいな」
「ふーん……」
「ま、俺も兄貴とは似てないからそういうとこはシンパシーを感じるかな」
「え?レイ、兄弟いたの?」
レンはまたまた驚きを隠せなかった。
(ハルに妹がいるのは分かっていたけど……、レイにも兄弟いたのか……。セトにも妹いたし、これじゃ僕、仲間はずれだな……)
「ああ。まあお前らに言ってなかっただけだけどな。兄貴は、俺より体力がねぇ代わりに頭がいいんだ」
「それ、言ってて悲しくならないの?」
「なるよ……。身長も160cmより下なの俺だけだし……」
レイは暗い表情になってしまった。
(あれ?もしかして僕、言っちゃダメなこと言っちゃった?)
レンは、少し気まずくなってしまった。
【ちょっぴり用語解説】
〈エーテル〉
生まれつき身体の中を駆け巡っていると言われているエネルギーの流れ。
まだ分からないことが多すぎる謎の概念だが、レンだけはエーテルの流れを見ることができる。
最後まで読んでくれてありがとうございます。
よければアドバイス(読みやすくなる工夫だったり)とかをくれると嬉しいです。