勇者の帰還
かつて、魔王レグルスが軍を率いてトルネシア王国へと進軍した。それに対し、トルネシア王国はネルケディラ王国と共に、魔王レグルスの軍と対峙した。これを『ベスティア戦争』と呼ばれていた。その戦争で魔王レグルスを打ち倒し、軍を退けた歴史に残る武勲を立てた少年がいた。
その少年の名は、『レン・フリューゲル』。僅か14歳でトルネシア王立騎士団の将軍となった英雄である。
それから2年の時が過ぎた。
ある町外れの宿では、1人の青年が赤いコートと帽子を身に着け、剣とバッグを背負って、旅に出る準備をしていた。彼こそが、魔王レグルスを打ち倒した勇者、レン・フリューゲルである。彼の白く長い髪は、2年の時を経てすっかり黒く短くなっていた。だが、紺青色の美しい竜の尻尾は、変わらずレンの後ろに生えていた。
レンは階段を降り、宿の主人に
「おっちゃん!また来るよ!」と言って手を振った。
宿の主人はカウンターから身をせり出し、
「ああ!また泊まりにおいで!」と言い、宿を出ていくレンを見送った。
レンは外に出ると、外の空気を思いっきり吸って、そして吐いた。
「ふー、すっげえいい空気だなー。ここらも戦争に巻き込まれたって聞いたけど、今じゃその面影もないな」
レンは街道を歩き始めた。レンの目の前には見渡す限りの自然と魔物たちがいた。
「ここらへんの魔物もすっかり減ったな〜。前はそこらへんに鎧着た魔物がわんさかいたっていうのに……。まあ2年も経てばそのくらい変わるか。にしても、2年か〜。いつの間にそんなに経ってたんだろう……」とレンは独り言を言いながら歩いていると、トロールの大群がレンに襲いかかってきた。
「おっと!魔物の大群か!朝の準備運動には丁度いいや!」レンは背中の剣を抜き、バッサバッサとトロールを斬り倒した。トロールの大群は一瞬にして全滅した。
「ありゃ?もう全部倒しちゃった。これでも力はかなり調節したほうなんだけどな〜」と言いながら、レンは剣を背中の鞘に戻した。
「っと!こんなことで時間潰してる場合じゃないや!せっかくトルネシアに戻るんだから、トルネシアにいる時間長くしておかないと!」と言い、レンはクラウチングスタートの体勢をとった。
「大体10分足らずでトルネシアに着くかな。よし、よーい、ドン!」と言いながらレンは走り出した。
「朝っぱらからのマラソンはやっぱりサイコー!」
とレンは走りながら言った。
しばらくして、レンは本当に10分足らずでトルネシア王都の門の前に着いた。
レンが門をくぐろうとすると、門番の兵士が
「あ、貴方はまさかレン・フリューゲル将軍では!?」とレンに聞いてきた。
「もう将軍は辞めたんだから、普通に接してよ」とレンは兵士に言ったが、
「何を言ってるのですか!?貴方はこのトルネシアを救った英雄なんですよ?そんな貴方に向かって普通の旅人と同じ接し方をしろと言うのですか!?」と兵士は言った。
レンはため息をつきながら下を向き、
「はぁ……、分かったよ」と言い、門をくぐっていった。
門をくぐった先には、人々の行き交う平和な街並みがあった。城下町の中心には噴水の広場があり、噴水の中心には、剣を地面に突き仁王立ちをしている、天使ミカエルの像があった。レンはその広場を通って、トルネシア城に向かった。
せっかく帰ってきたんだし、王様に顔見せに行こ。と彼は思っていたのだ。
レンが城の門の前に着くと、城の門番から
「レン・フリューゲル将軍じゃないですか!王様に顔を見せに来たのですね!」と言われた。
(もう将軍は辞めたんだけどな……。)
城の門番は城の扉を開け、
「さあ、早く王様の元へ!きっとお喜びになりますよ!」とレンに言った。
レンは城の中に入ると、
「あの時と全然変わらないな……。まあ戦争中じゃないから、一般人も出入りしてるよな……」と呟いた。
レンは玉座の間の扉の前にたどり着いた。玉座の間の扉に立っている兵士はレンに対し、
「レン・フリューゲル元将軍様!おかえりなさいませ!」と言った。レンはホッと肩をなで下ろした。
(良かった……、この兵士はちゃんと"元"将軍って言ってくれてる……。)
兵士は玉座の間の扉を開け、
「貴方をここへお招きするのは、久しぶりですよ」とレンに言った。
レンが玉座の間に入ると、玉座に座っているトルネシア王がレンに対し、
「レン・フリューゲルよ。久しぶりだな」と話しかけた。
レンはトルネシア王の前に立ち、
「王様こそ。2年経っても相変わらずですね」
と言った。
トルネシア王は少し笑いながら
「なに、また2つ年老いただけだ。君は2年の時を経て、立派な青年になったな」
と言った。
そして、トルネシア王は思い出したように「そうだ、レンよ。もうレイ・ディアデマートゥスとハルトマン・アルターレに再会の挨拶を済ませたか?」とレンに聞いた。
「え?」レンは驚いた。
驚くのも無理はない。
何せ、ハルはトルネシア王国出身とはいえ、いずれネルケディラの魔法学校に通うために猛勉強中であり、レイはそもそも雪国からトルネシアに兵士になることを志願したため、レンと同じ時期に兵士長を辞めたレイは、いずれ故郷に帰らなければいけないのである。
「そもそも僕はいいとして、2人は会う暇もないんじゃないですか?」
その問いに対しトルネシア王は、
「いや、君がトルネシアに向かっているという知らせを関所の兵から聞いてな。それで私は2人を城に招いたのだ」
と答えた。
「本来なら、ネルケディラ王国のクリシス将軍も招きたかったのだが、彼女はどうやらあっちで忙しいらしいので、招くことができなかったのだ」
レンはその言葉に対し、
「そう言えば、関所を通る時にトルネシア兵士が手紙を書いていたのを見たけど、まさか僕がトルネシアに戻ってくることをわざわざ伝えていたのか……」
と呟いた。
「私からのちょっとしたサプライズというやつだよ」
レンはそのトルネシア王からの言葉を聞いて、
「ありがとうございます。王様」
と微笑みながら言った。
【ちょっぴり用語解説】
〈トルネシア王国〉
騎士と自然の国と呼ばれるベスティア最大の騎士団を要する国。
〈ネルケディラ王国〉
魔導と勤勉の国と呼ばれるベスティア最大の魔導学校を要する国。
最後まで読んでくれてありがとうございます。
よければアドバイス(読みやすくなる工夫だったり)とかをくれると嬉しいです。