第壱歩 力の差
……瞬きをすると異世界に居た。
眼下には、十階建て位の建物が市街地を四角の形に囲んでいるなんとも異様な雰囲気の街並みが広がっている。
先程神から”布教をして欲しい”なんていう頼みを受けたため、この先どうすれば良いか迷うところだが、とりあえずあの町に向かう事にしよう。
「あれ…大丈夫かな?」
背後から声が聞こえた。
これは布教をするチャンスだと考えた俺は早速、声を掛ける事にした。
「……ゥア………ウ」
あれ?声が出ない、というか身体が言うことを聞かない。
全身が強張り、さっきまで平然と立っていた脚も急に言うことを聞かなくなり、俺は地面に倒れ込んだ。
俺は倒れ込みながら後ろを確認すると、そこには二人の子供がいた。
「ほら、やっぱりだめじゃん」
「……前の身体との差が大き過ぎたのか」
「とりあえず持っていく?」
「そうだな」
俺は意識だけある中、動かない身体を二人の子供達に引きずられた。
五分程引きずられ続けると小綺麗な小屋の前に着き、中に入れられ椅子に座らさせられた。
子供二人は俺の顔を見ながら、まだ俺が動けないことを確認して自己紹介を始めた。
「初めまして、私の名前はウテン、フカ様の眷属として君の面倒を見させて貰ってたんだけど…」
「俺はサテン……お前はその身体にまだ適応出来てない。フカ様は大丈夫だと仰っていたが……これでは弘法にも筆の誤りだな」
……この子、見た目は子供なのに喋り方と声が大人すぎる…眷属だから年齢は俺より上なんだろうな。
それはそうとして、さっきは気づかなかったが、今の俺の身体は前世の身体と結構変わっている。髪も長いし、なんだか身体の線が細い感じがする、けど性別は女性でも男性でもない。よく分からない感じだ。
俺は前世ではそれなりに勉学にも勤しんでいたが、この子が言ってる身体に適応とか何とかは正直訳が分からない。
「見た目が子供で悪かったな。お前にも分かるように言うと、お前の身体はフカ様と同じ身体なんだよ、フカ様は強大な力を持っておられるから、お前が前世で使っていた脆弱な身体と比べると差が大きすぎるんだよ、だからお前は身体の制御が上手くいかないんだよ」
どうやら心の声まで聴こえてるみたいだ、便利だね。
とはいえ困った事になってしまった、話を聞くところによると、俺の身体はフカ神と同じ見た目、能力を持っているらしい。
異世界において、強大な力を持っているというのは頼もしいが、布教をするとなると、少し厄介になってくる。
その理由として、まず大前提に、他人に神を信仰させる方法は大きくわけて三つあるのである。
―一つ目は武力を用いた信仰のさせ方
これは、武力を用いることによって相手に恐怖心を植え付けたりして信仰させる方法であり、今の俺の能力を持っていれば、とても楽にできるし、一気に大量の信者を増やす事も可能だ。しかし、信者自体の忠誠心が低く、裏切り等をおこしやすいのが問題点だ。
―二つ目は超自然的能力を用いた信仰のさせ方
これは、超自然的能力を用いることによって人を助けたり、尊敬の念を抱かせることで信仰させる方法であり、信者一人一人の信仰心は厚く、裏切り等も起こりずらいが、時間がかかってしまうのが問題点だ。
―三つ目は刷り込み効果を用いた信仰のさせ方
これは、幼少期などの生物が物事を一番学習をする時期を利用することで、信仰すること自体を刷り込むことで信仰させる方法であり。この方法は時間こそかかるもの、絶大な効果を期待出来る。
俺は前世では力も無かったし、超自然的能力もある訳無かったので、とにかく人に優しくし続け、コツコツ時間をかけて信頼関係を築いてから布教をしていた。
自分では上手くやっているつもりだったが、今思うと前世の俺は周りから煙たがられていたし、つい自分の敬愛する神の話になると人が変わったようになる。と友人から言われた事もある。
だが、今世は違う。
俺は力もあるし、超自然的現象も起こすことが出来る。
つまり俺はどんな方法でも皆々に神を布教することが出来るのだ。
――全部やるしかないだろ
俺は少しだけ動くようになった身体をピクピクさせながら、ウテンとサテンに看病され、今後の事について話をした。