対東アジア特別防衛作戦
ベルリン食人事件の後、神聖ローマ帝国では、日本をはじめとした東アジアを敵国として考える人が増えつつあった。勿論、元々東アジア嫌いのエルンスト首相とその行政府も、東アジア諸国を仮想敵国として扱うようになっていった。エルンスト首相は、元々増加させる方針であった長距離飛翔弾と核戦力拡充への予算を、更に増額させることを決定した。また、帝国軍内でも、東アジア諸国と戦争状態に入った場合の戦争計画を立てつつあった。
ある日、エルンスト首相と皇帝ヴィルヘルム4世が、帝国軍の参謀本部を視察した。首相が参謀達に問いかけた。「あの黄色の悪魔どもと戦争となった場合、どの様な計画を立てているのかね。」
参謀は答えた。「まず、奴らの同盟国であるフランスとオスマン帝国が参戦するかどうかで決まります。フランスとオスマン帝国は我が国の隣国ですので、両国と戦争状態に突入した場合には、東アジア諸国どころではなく、本土を陸軍を用いて守ることに重点がおかれます。」
「私は隣国とは戦争をしたくないのだがね。」皇帝が口を挟んだ。「そうなると本土が脅かされることになる。」
それを聞いて、首相は、「それならば、我々の外交方針は、東アジア諸国とフランス・オスマン帝国の関係をできるだけ離し、同時に参戦させないことが第一目標になるでしょう。」と答えた。
「では、それに成功し、東アジア諸国とのみ開戦となればどうなるのかね」と皇帝は尋ねた。
参謀は、「その場合、長距離飛翔弾の打ち合いになるでしょう。陸軍同士のぶつかり合いは、中華帝国と国境を接するロシア帝国やムガル帝国が参戦した場合には発生するでしょうが、フランスとオスマン帝国を刺激しないためには避けた方が賢明でしょう。」と答えた。
ここで首相が、「長距離飛翔弾の打ち合いになったときに勝算はあるのかね」と質問した。
「現在の我々の戦力では厳しいと言わざるを得ません。まず、核戦力の決定的な差があります。我々は戦略核兵器を560発保持していますが、中華帝国はおおよそ1,200発、日本は約200発を保持しており、東アジア諸国の方が核兵器の数では圧倒している上、核兵器を搭載する潜水艦の数でも、彼我の戦力差は3:1となっています。また、国土の面でも向こうが有利です。特に中華帝国は領土が広いため、我々の現有核戦力では全土は核攻撃できず、敵の核サイロと北京や上海といった中枢部を攻撃するだけで手一杯です。一方、我が国の面積は狭く、中華帝国の攻撃第一波で全土が壊滅しかねません。」参謀は答えた。
「つまり、」首相が口を開いた。「我々に必要な事は核戦力の増強・核搭載型潜水艦の増強・可能な限り敵の飛翔弾を堕とすための迎撃飛翔弾の開発、というわけか。よろしい、これらをまとめて、『対東アジア特別防衛作戦』として整理してくれたまえ。」と首相は命令した。
「『対東アジア特別防衛作戦』か。黄色の食人悪魔共を打倒できる力が、我が帝国には必要なのだ。諸君らの奮闘により、これが手に入ることを私は期待し、確信している。」皇帝は首相と参謀らの両方に向けて言った。