新皇帝の初仕事
新皇帝の即位は10月にあった。つまり、10月末、そして11月の始めにある祝日の式典に参加することが新皇帝の初仕事になるのだ。
その祝日とは、10月31日の宗教改革記念日と11月1日の万聖節である。前者はプロテスタントの、後者はカトリックの祝日であり、双方の宗派の祝日が続けてあるため、帝国におけるプロテスタントとカトリックの融和を象徴する祝日でもあるのだ。
戴冠式で「国民の団結の象徴となる」と述べたヴィルヘルム4世にとって、この式典は、プロテスタントとカトリックの垣根を越えた団結を国民へ促す絶好の機会となる。
ヴィルヘルム4世は、かつてカトリックを批難しており、「プロテスタンティズムの精神を堅持し、ローマカトリックからの干渉を受けない真のキリスト教を目指すことが我らが神聖ローマ帝国に必要な事だ」と述べたことがある。神聖ローマ帝国の宗教的歴史、すなわち、かつてのプロテスタントとカトリックの宗教戦争を背景として、この発言は極めて物議を醸すことになった。したがって、カトリック側からは、この発言の撤回が求められていた。
宗教改革記念日では、ヴィルヘルム4世はプロテスタンティズムの精神を賞賛するだけで、カトリックに関しては、宗教改革前の腐敗を批判するのにとどめた。そして、カトリック側が注目している万聖節では、前述の発言を「国民の団結を阻害した物で、軽率であった」と撤回した。また、カトリックの最大宗派であるイエズス会の創設者の1人であるフランシスコザビエルを、「東アジアへキリスト教精神を持ち込んだ聖人である」として賞賛した。
このことに、カトリック側からも安堵と賞賛の声が寄せられ、ヴィルヘルム4世を「カトリックとプロテスタントの垣根を越えた、国民の団結の象徴」としての責務を果たす能力があると見なすようになった。