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国際遺伝学会での事件

禎仁:日本国皇帝の第3皇子、両生類学者、遺伝学者

 フランスと神聖ローマ帝国の国境に近い都市であり、先の大戦でフランスが神聖ローマ帝国から奪取した都市でもあるストラスブールで、遺伝学の国際学会が開かれることになった。この学会は、世界各地から参加者が集まり、東アジアからも参加する学者がいた。その中でも、日本の親王であり、両生類遺伝学者でもある禎仁が注目されていた。

 この学会は、神聖ローマ・キリスト教騎士団から敵視されていた。遺伝学自体が、キリスト教の世界観に反する生物進化論を唱える学問である上、神聖ローマ帝国とフランスの係争地であるストラスブールで開催されるのである。また、彼らが反感を抱く東アジア人科学者も多数参加しているのだ。このような学会は、どう考えても潰すべきだと彼らは主張していた。そして、学会開催期間中に彼らは行動に出たのだ。

 神聖ローマ・キリスト教騎士団は、国境を越えて、学会に参加していた8人の東アジア人科学者を拉致したのだ。中国人が3人、韓国人が2人、琉球人が1人、そして、日本人が、禎仁親王を含む2人拉致された。この事件は、フランスや東アジア諸国で大きな話題となり、外交ルートを通じて神聖ローマ帝国に解決を求める声が伝えられた。しかしながら、神聖ローマ帝国の反応は遅かった。神聖ローマ・キリスト教騎士団が拉致に関係している事は直ぐ判明したものの、捜査関係者、特に幹部の間には、彼らが皇帝一族と繋がっているという暗黙の了解があり、摘発に踏み切れなかったのだ。

 拉致された科学者はプロイセンへ移送されていた。神聖ローマ・キリスト騎士団とプロイセン警察は特に癒着が深く、騎士団はこの地方ではたとえ殺人を犯したとしても摘発される恐れは無かった。しかし、中国・韓国・琉球・日本の4カ国政府から、拉致事件の解決を求められていた神聖ローマ帝国政府は、プロイセン警察を通じて科学者を解放するように騎士団に求めた。しかし、もはや手遅れだった。移送時の環境が非常に劣悪だったため、拉致された科学者の内数人が既に死亡しており、その中には禎仁親王も含まれていた。プロイセン警察と騎士団は内密に協議し、生存している科学者と死亡した科学者の遺体を引き渡し、出身国へ帰還させることに合意し、警察が保護した後に、各国の政府専用機に生存者と遺体を乗せて帰国させること(反東アジア暴動もあり、東アジア諸国の民間航空会社はすでに航空便を完全に運休していた)で幕引きをはかろうとしたが、死者が出たこともあり、拉致被害者出身国の世論は収まらなかった。特に、親王が殺害されたとして、日本の世論は完全に反神聖ローマ帝国に染まった。さらに、ドイツ語を理解する拉致被害者が、犯人が「我々の行為は皇帝陛下もお認めになられている」と発言したと証言したこと、また、プロイセン警察の内部告発文書で騎士団との繋がりが分かったことで、この拉致には神聖ローマ帝国の政府や皇帝が関与しているとの疑惑が浮上した。帝国政府は当然否定したものの、被害者の出身国が納得する訳がなく、国際人権監視執行理事会へ調査が付託され、理事会は神聖ローマ帝国に対して監査を要求した。

 エルンスト首相は、外務大臣に対して「監査は絶対に受け入れられない。拒否するように。」と命令した。外務大臣は「そんなことをしたら、政府がこの拉致事件に関与していると言っているようなものですよ。ただでさえ東アジア諸国との関係は悪化しているのに、監査拒否などしたらもはや関係は修復不可能な程に悪化するでしょう。閣下は戦争でもするおつもりですか?」と反論した。首相は、「監査を受け入れたら、陛下の資金についても調べられるだろう。これは極秘事項だが、あの資金の支出先には、明らかになるとフランスやオスマン帝国との関係を破壊しかねない所がある。それぐらいなら、監査を拒否した方がまだ外交関係に与える被害が少ない。」と答えた。

 かくして、神聖ローマ帝国は国際人権監視執行理事会の監査を拒否したが、東アジア諸国との関係は危惧されたとおりに悪化し、ついに全面的な経済制裁が行われる程にまでなってしまった。

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