帝国とアラブ人独立派
クリストフ・ヘルト:帝国対外情報局(IFIB)局長
アハメド:ヒジャーズ・アラブ戦線所属外交員、偽名
神聖ローマ帝国と数世紀にもわたって対立してきたオスマン帝国は、幾度にもわたる改革を経て、多宗教多民族民主主義の大国となったが、それでも分離独立派はいまだに存在している。特に過激で大規模な分離独立派であるヒジャーズ・アラブ戦線は、メッカとメディナという、イスラム教の二大聖地を抱え、イスラム原理主義者が多いヒジャーズ地方を中心としたアラブ人の独立運動である。イスラム原理主義者は、現代のオスマン帝国が、中絶や同性愛、飲酒を容認し、男女同権を過剰に推し進めている「反イスラムのトルコ人による世俗主義帝国」となっているように感じており、それゆえ、「イスラムの教えを遵守するアラブ人国家」を求めているのである。オスマン帝国の近代化改革は、もはや帝国を分裂するところにまで達してしまったのである。
ヒジャーズ・アラブ戦線は、鉄道などのインフラや行政組織へのテロ攻撃に加え、中絶クリニックや女性権利団体、酒場など、コーランの教えに反していると彼らが考えている団体に対しても攻撃を行っている。オスマン帝国は彼らをテロ組織として取り締まろうとしているが、ゲリラ的なテロ攻撃に対処できず、また、遊牧民のように移動する彼らの本拠地を捉えることもできなかった。また、彼らには資金と武器を提供する後ろ盾が存在したのだった。
エルンスト首相の命令で、オスマン帝国において内政問題を起こし、東アジア諸国との戦争に介入する余力を奪うための工作を命じられた神聖ローマ帝国対外情報局のクリストフ・ヘルトは、ヒジャーズ・アラブ戦線に注目した。その外交員であるアハメドをIFIBに極秘に招き、資金と武器の提供を約束したのだ。そして、クリストフは、「我が帝国は、オスマン帝国やその同盟国である東アジア諸国との戦争も視野に入れている。仮に戦争が勃発した際には、あなた方の行動によりオスマン軍を引きつけ、我々の勝利に貢献して頂きたい。我々の勝利は、必ずやあなた方の独立に寄与するだろう。」と伝えた。アハメドは、「オスマン帝国との戦争も考えておられるのですか。それは我々にとっても予想外ですが、独立のよい機会となることは間違えない。独立という悲願の達成まで、我々は神聖ローマ帝国と協力を絶やしません。」と答えた。