皇帝の裏工作
参謀本部視察の直後、内覧にて皇帝ヴィルヘルム4世はエルンスト首相にこう話しかけた。
「先日、そなたが申したように、我が国の外交において、東アジア諸国との戦争にフランスとオスマンを介入させないことが大切だ。そこで、朕にいい考えがある。フランスとオスマンにおいて内政問題を起こさせ、他国の戦争に介入する余力を無くせばよい。」
首相は、「しかし、陛下、我が国がおおっぴらに彼の国に対して内政問題を起こすことは不可能であります。非常に大きな外交問題となりますよ。」と答えた。しかし、皇帝には策があるようだ。
「そこで、朕の一族、ホーエンツォレルン家の私財を投じる。私財なら、公的資金とは違って透明性はないに等しいし、仮に露見したとしても、我が一族の一部が暴走したことにして、国と国の問題に発展しないようにできる。既に、彼の国の内部で問題を起こしてくれそうな組織との接触をしてある。」そう言って見せたリストには、ブルターニュ独立運動やアラブ人組織、アルメニア人組織、イスラム過激派組織のような、フランスとオスマン帝国において過激な活動をしている団体の名前がずらりと書かれていた。また、皇帝一族の私財の透明性が無いのも事実だった。神聖ローマ帝国の皇帝は複数の貴族による選挙で決まるため、特定の一族が皇帝位を独占するわけではない。そのため、皇帝個人の資産はともかく、時の皇帝の一族が持つ資産は公的な物とはされず、公開する必要は無かった。
首相は、「陛下のお考えですので、私は止めませんが、決して露見しないようにして下さい。もし露見したとしても、我が政府は無関係の一点張りで宜しいですね?」と言った。
皇帝は、「うむ」と首を縦に振った。