1-7 決意の朝
「あ、おはようミエリ!もう朝食出来てるから早く支度して!」
部屋の扉が開き、シャラムが入ってきた。既に準備が済んでおり、朝から非常に元気が良い。
「シャラムさん……分かりました、支度しますから先に行っててください」
深慧莉は先程の不可解な夢に違和感を感じながら返事をする。
「お前たち遅かったな、先に頂いているぞ」
宿の食堂に降りると、イサオが既に食事をとっていた。
テーブルの上には豚肉ではない何かの肉と卵を一緒に焼いたものと、肉だけが大量に詰められたキニャル、そしてコンソメのような香りを漂わせるスープには肉だけが存分に入っていた。
「……肉ばっかですね」
「ここのコロニー周辺には畑に使えるダンジョンがないからな、交易でしか手に入らない野菜は贅沢品なんだ」
「キニャルも野菜が入ってるだけで値段が1.5倍になるからね、世知辛いよ」
そんなことを言い合いながら深慧莉とシャラムも席につく、深慧莉はスプーンを手に取り、スープを掬って口に運ぶ。
「まあ、悪くないですね」
「それで、これからどうする?」
「何がですか?」
「何がじゃないよ、働き口どうするかってハナシ」
「お前はここに来たばかりだからな、職業斡旋所もあるが、何か希望があるなら俺が出来るだけ手助けしてやろうと思ってな」
「おすすめの仕事はキニャル屋だね!私が毎日来てあげるよ!」
深慧莉は二人が自分の力になろうとしてくれているのを感じていた。しかし……
「……実は、もう何になるか決めているんです」
「ほぉ、言ってみろ」
「わたし、解明者になろうと思ってるんです」
「な!?」
「おお!……てっ、ええ!?」
二人が驚きの声を上げる、何故かシャラムは二度驚いた。
「シャラムなんだその反応は、それよりお前分かってるのか、解明者は危険な仕事なんだぞ?」
イサオの表情が険しくなる。
「分かっています、でも私はやらなくちゃダメなんです」
深慧莉はイサオを真っ直ぐに見る、その目は真剣だ。
「理由は?」
「分かりません」
「は?」
「ん?」
シャラムの質問に謎の返答を深慧莉が返し、二人が困惑する。
「理由はわかりませんが、私が行かないといけないんです。ここで私がじっとしていたら何も進まない、今日見た夢の中で私はそう告げられたんです」
「……夢?」
イサオの表情が一瞬さらに険しくなった。
「……はっ、あの、わたし何言って……すみません、今のは忘れて……」
「分かった」
「え?」
「解明者になりたいんだろう?だったら今から登録に行くぞ」
イサオの予想外の言葉に深慧莉が驚く、夢で告げられたという理由で解明者になりたいなど怒られると思っていたのだ。
「最後にもう一度聞く、本当に解明者になりたいんだな?」
「私からも聞くよ、本当にいいんだね?」
二人が深慧莉を見つめる。
「……はい!」
「よし分かった、食事も済んだことだし早速ギルドに向かうぞ」
イサオが立ち上がる。
「あ、待ってください、まだ食事が……」
「ミエリ遅いよ〜」
「って、シャラムさん早っ!?」
シャラムはとっくに食べ終わっており、食器も舐め上げたかのように綺麗だった。
焦った深慧莉はスープとミートエッグを口に押し込むと、キニャルを掴んで外に飛び出す。
「それにしてもさ、あんな目に遭ってよく解明者になろうと思ったよねー……あっ!」
先に外に出ていたシャラムが思い出したように薬箱を取り出す。
「なんだそれは?」
「これね、昨日ホワイトボックスのブラックゾーンで踏んづけ……見つけたフェアリーの亡骸だよ、蘇生してあげようと思って薬箱に入れてたんだ」
「あの空間なら踏んづけるのは仕方ないが、薬箱に入れるのはどうなんだ……」
「しょうがないじゃん、というわけでちょっと治療院に寄っていいかな?」
「ああ構わない、むしろそんなものを持ち歩かれてもこちらが困る」
「お待たせしました!」
宿屋から深慧莉が出てきた。握ったキニャルの形が若干崩れている。
「すまんミエリ、先にこいつの野暮用を済ませたい」
「え?あ、もしかして薬箱の……」
「なんだ知ってるのか、なら話が早い」
「あの、蘇生をするんですか?」
「そうだ、とりあえずお前も来い、これから世話になるはずだろうからな」
そういうとイサオが歩き出す、シャラムは既に飛び立っているようでその場にいなかった。
深慧莉はそんな自由な二人のあとをキニャルに齧りつきながらついていく。