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ストレンジフィールド  作者: 大犬座
5章 蘇りと甦り
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5-1 帰還

「やっと到着〜……流石に重かった〜……」


イファスコロニーに到着し、ミエリのパーティ門を通過すると最初に入った最も重量の大きいシャラムが座り込み、全ての重さを地面に預ける。


「お疲れ様、俺たちは救助隊である以上死体回収を優先する必要があったからな、調査物はお前たち自身に運んでもらう必要があった」


次に入ってきた救助隊のリーダー「カリスト」が、グロッキーなシャラムに労いの言葉をかける。


「ふっ……ドラゴンはこの程度で疲れんのかよ、アタシなんてホラ、この通りだ……」


シャラムに対抗してか、アフタレアも同じくらい運んでおり、その上ですぐに休んでしまったシャラムにマウントを取ろうと涼しい顔をする。


しかし実際には相当無理をしているのか、脚がプルプルと震えており、立っているのがやっとのようだった。


「えい」「おわぁっ!?」


それを見たシャラムは、アフタレアの脚を剣の鞘でつつく、すると限界スレスレだった脚はすぐに決壊して、彼女も女の子の印象の強いベタ座りでへたり込んだ。


「可愛い座り方して、人のこと言えないじゃん」「ばっか!こういうのはすこしでも持久力の高いほうが偉いんだ!だからアタシが偉い!」「その理屈なら同じ量を背負って早足で動いて先に到着した私も偉いよね?」


売り言葉に買い言葉、二人はいつものように睨み合って喧嘩を始める。そんな二人の様子を、ミエリとイサオはすこし離れた場所から運んだ物を整理しつつ眺めていた。


「なんだかもう懐かしさを感じるなぁ、四人でダンジョンに入った時のこと」


「なんだ、あれもまだ数日前の話だぞ?それにお前はまだ調査2回目だ、ノスタルジーを感じるには早すぎるんじゃないか?」


そう言って、「はははっ」と笑うイサオに対して、ミエリは微笑みながら周囲を指し示す。


指示通りにイサオが見渡すと、その視界の中で点々とメンバーが思い思いに行動している。


「ほら、この通り簡単に抜けるでしょう?」


「本当に!道中ではしっかり縛っていたのに、最初に作った人はどうやってこんな結び方を、思い付いたんでしょうね」


「結び方も簡単ですよ!すごいポピュラーな結び方で便利なのでユーエインさんもやってみましょう!」


奥の方では、自分が担当していたメンバーの小さな荷物と死体三つを縛っていた南京結びについて、ゼノルがユーエインにレクチャーを行っていた。


「なるほど、ここでドクターなど珍しいと思っていたが……なかなか特殊な事情があったのだな」


「まあそういうことだね、君もドルイドなら色々面倒ごとに巻き込まれているんじゃないかな?サエノ区域に来ることがあったら、おじさんが融通聞くように話を通してあげるよ」


「本当か、それはすまない」


「君はこいつの遺体を運ぶのを手伝ってくれたからね、それくらいさせてくれ」


また別の方向では、エンロニゼと加瀬がなにやらアウェー同士で話を進めている。


「人形の種族は見たことあるが……触手が出てくるのは初めてみたぞ……お前本当はグロブスタじゃないだろうな?」


「失礼ですね。私が生まれた世界では私達は立派に繁栄した文明種族でしたし、私達の種族以外にも人間もいましたよ」(少々特殊でしたけど)


「ん?そうなのか?ならその世界の人間(そいつら)がこの世界にやってくるかどうか見ものだな。少なくとも現在、この世界にいる人間からお前みたいなのが居たという話は聞いたことがない」


「私達を知っている人間がいない、それだけの理由で化け物呼ばわりとは、貴方もこの世界も随分狭量なのですね」


そして別の場所では、ビルセティに興味を持ったカリストが彼女に質問攻めをしていた。


その内容は容赦なく、ビルセティが明らかに不快感を出しながら悪態をつく。と、そんな二人に救助隊員の一人が近づいていき、カリストに敬礼をする。


「隊長!遺体の確認終わりました!これより蘇生院への搬入を行います!」


「あーそうか、あとちゃんとした軍隊とかじゃないんだからそんな俺に畏まるな」


「お言葉ですが、仮の部隊だとしても規律はしっかりしていただかないと」


それを聞いたカリストは参ったと言わんばかりにため息をついた。


「もういい分かった、ギルドへの報告は俺がしとくからお前たちは蘇生作業が終わったらコロニーガードの支部に戻っていいぞ」


「はっ!」


隊員が足早に去っていったのを確認すると、カリストはビルセティの方を向く。


「というわけで俺はギルドに連絡する。無礼なことを言って悪かったな、でも解明者とギルドは疑い調べることが仕事なんだ」


「分かっています。私も解明者なので」


カリストはビルセティにした失礼な態度を詫びると、ビルセティも淡々と答えて立ち去っていくカリストに深々と頭を下げて見送った。


(うわー、危なすぎました)


そんな彼女は先ほどの無表情とは裏腹に、顔のひび割れから汗を滲ませてホッとしていた。


(なぜ皆さんはフォローしてくださらないのでしょうか。隊員さんが来たから良かったものを、鋭い質問にどう答えるべきか私には分かりません、やはり様々な質疑応答に答えられるようパターンを考えるべきですね……)


「や、ビルセティ随分と詰められてたね」


俯いたまま神妙な面持ちで目を閉じ、自らの行動に反省点を見出しているビルセティに、ミエリが気さくに話しかける。


「ミエリ、見ていたなら助けて欲しかったです」


「ごめんごめん、なんかみんなのこと見てたら嬉しくてさ、ずっと見てたんだよ」


「嬉しくなった……」


「一体どうしたんだ、さっさから様子がおかしいぞ」


ゆっくりとした足取りで、ミエリの後ろからイサオもやって来た、そしてビルセティに並ぶようにミエリと対面すると、変なことを言い出すミエリを心配する。


「なんていうかさ、最初四人でダンジョンに入っててんやわんやの中でビルセティに出会って、そしてフェイクラム倒して、そしてエンロニゼとユーエインに出会って、そしてゼノルくんに誘われてダンジョンに入ったら色々面倒なことが起きて……いつの間にかパーティ自体も、関わっている物事も大きくなっていってるなって、ふとそう思ったんだ」


ミエリの言葉を聞いたイサオとビルセティは互いに顔を見合わせる、あまりにも唐突な発言にどう反応して良いのか分からず困惑しているのだ。


「あー、そのなんだ、そう身構えるな、別にデカいことじゃない……はずだ、地下の襲撃者さえ捕まえれば解決するだけの事件だ」


ミエリが背負い込み過ぎていると判断したイサオがなんとか言葉を絞り出してフォローする。しかしそんなイサオの言葉にミエリは驚いたような表情をすると、すぐに訂正するように口を開いた。


「いやいや!別に重く捉えているわけじゃないんだよ!」


「ではなぜ急にそんなことを?」


「その、なんだか今の状況にわたし“生きがい”を感じてるんだ。やること、やれること、やるべきこと……元の世界のわたしが見つけられなかったものをこの世界では見つけられている。だから、今わたしってすごい充実してるんだ」


「ふっ、そう感じているならいい、お前が変な重圧を感じてるんじゃないかと心配したぞ」


「ごめんなさい言い方が変だったね、でもリーダーとしての責任は感じてるよ、それがやるべきこと。そして『声』に言われたことがやれること……」


そこでミエリが固まる、そういえば『グリザイユの貴婦人』はこの区域に謎を解いてほしい場所があると言っていた。そして、それは端末にヒントがあったことを、ミエリは今になって思い出したのだ。


「なんだ?大事なことを思い出したのか?」


「…………まぁ急ぎの話じゃないよ、それより話を戻すとさ、だからわたし今が好きだよ。わたしがわたしである意味を与えてもらっているから」


「…………与えてもらっているだけか?与えられるだけの生きる意味など俺からしてみれば価値はない」


「え?」


吐露されたミエリの気持ちを聞いたイサオが神妙な顔をする。先ほどまでの心配している様子から一転して異様な緊張感すらあった。


「お前はお前にしかできないことをやっている。それが俺やシャラムやアフタレアを信用させ、お前についていく決心をさせたんだ。お前は自分の評価を勘違いしている、お前は自分で意味を見出しているんだ」


「そ、そんなこと……」


「いーや!イサオの言う通りだよ!ミエリは自分の評価を低く見てる!もっと自分を信じるべきだよ!」


「そうだなぁ、お前は自分が思ってるよりすげえやつだよ。意味を与えられたんじゃなくて、お前自身が目的を引き寄せたんだぜ?」


ミエリの否定をかき消すように、彼女の双肩にシャラムとアフタレアが乗っかる。二人ともミエリの能力を評価しており、イサオ同様に彼女の自己肯定感の低い言葉を否定している。


「みんな……」


「でもま、今回の調査は問題点だらけだったけどね」


「お前は今回に限って言えば、正直いってなんもしてねえしな、そこは次しっかりしてくれよ?」


「……あはは、そうだね」


皆の言葉にミエリが励まされ感動していると、そのまましっかり二人は釘を刺す、実際反省点も多かった為にミエリは指摘に対して苦笑することしかできなかった。


「あー、お前がリーダーのハスハマ ミエリだな?ちょっと来てくれ」


「あ、はい!」


そんな中、ギルドに連絡し終わったのか、戻ってきたカリストがクランリーダーのミエリを呼び出して少し離れた場所に連れて行き、なにやら話をし始めた。


「しっかし、あのカリストって男中々の手練だったな、地下で合流してから一度も隙を見せなかったぜ」


「結構調査物や死体を背負ってたのに帰り道の敵も問題なく倒してたし、隊長やらされてる理由も納得かな、でもあの人ほんとに何者なんだろ」


「詰められるのが嫌で、さっさと立ち去ろうとした私に付かず離れずで話す機会を伺っていました。あの方は油断できない人です」


残った面々は今回の隊長をやっていたカリストという男に只者ではない空気を感じ、各々思っていたことを口にする。隊長として先陣を切りつつも、自分も十分荷物を背負い、それでいて戦闘と指示をこなすその姿は彼が何者か興味を惹くには十分だった。


「まあ助けて貰ったのは事実だ、今はあまり詮索する必要はない。あったとしても後日だ、今日はもう引き上げよう」


「そうだね、丁度ミエリも戻ってきたし」


助けて貰った以上変なことはしたくないのか、イサオが訝しむ三人を諌める。すると良いタイミングでミエリが戻ってきた。


「お待たせ!なんか後日ストレンジャーサークルとコロニーガードと救助隊の人達で報告会を行うから来てくれって話だったよ」


「そうか、ならどっちしろ一旦引き上げだな、ギルドで調査物引き取って貰って蘇生院に行って、んで解散だ」


「それならさっさと行こう、もう疲れたし。おーい!皆んな集まってー!」


今後の方針をざっくりと決めると、すぐにシャラムが全体に号令をかける。


そんな集まるメンバーの姿を見ながら、ミエリも移動の準備を始めた。

そういえば、このストレンジフィールドシリーズは作品間で緩く繋がりがあるので、合わせて読むとストレンジフィールドの世界の奥行きが分かるかもしれません。

更新遅いのでそちらを読みながら待っていただくとありがたいです。

ついでに星と付けてくれると嬉しいです。(乞食)

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