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ストレンジフィールド  作者: 大犬座
4章 『本能の洞窟』へ
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4-19 合流する小隊

「よし、なんとか全ての道を開通できたな」


洞窟の入り口、崩壊した通路を全て通れるようにしたイサオが、汗だくの身体をタオルで拭きながら近くの岩に腰掛け、水筒を取り出すと中身の水を一気に飲んでしまう。


「お疲れ様イサオ、これで救援も楽に出来そうだ」


「ああ、結局突入前の作戦は全く意味がなかったな、それどころか俺たちは入り口から全く動いてない」


「こればっかりは仕方ないだろう、それと、どのみちここを通れるようにしなければならなかったのだから、動けなかっただけで何もしていないわけでは無いのだから気に病む必要はない」


そう、二人が会話していると、入り口が光に照らされ小隊クラスの人数がダンジョンに入ってくる。


「お前が神崎 庸か、俺は今回のコロニーガードとの混成救援部隊の隊長を担当するランサーのカリスト・ザムテスクだ。事情はベリエットから聞いている」


「そうか、わざわざ救援部隊を編成するとは随分と仰々しいことをしているな」


カリストが差し出す手をイサオが握り返す。


「特別な依頼を受けてダンジョンに潜り、実際に危険なグロブスタに遭遇したのだから当然だろう?さて、動ける者がいるなら一緒に来てくれ」


「ここには私とイサオしかいない、私は無事だから同行しよう」


「別に俺も動けないわけじゃない、一緒にいくぞ」


「よし、それでは進行開始だ」


カリストの指示で部隊が動き、荷物をまとめたイサオとエンロニゼがついていく。その際にイサオがどかして作られた通り道をカリストが不思議そうに潜っていく。


「すごいな……どうやってこれだけの隙間を作れたんだ?」


「俺は昔プロレスラーだったからな、昔の名残でこれくらいはできる」


それを聞いて周囲が青ざめる。


「マジか……おい、俺をいきなり投げ飛ばすなよ」


「安心しろ、そんなことはせん」


そう言いながらイサオが潜り、続いてエンロニゼが潜っていく。そして部隊員達が動揺しながら及び腰でその後をついていった。


………………


薄暗い洞窟の中、全身が影のように黒い怪物と陶器人形が背中合わせになって周囲を囲む敵対生物を迎撃していた。


周囲の生物は虫や不定形やはたまたタコ型の浮遊生物など気味の悪いものばかり集まっている。


不定形生物は地面に同化して下から接触を狙い、浮遊生物は隙を見せた時に襲い掛かろうと頭上をふわふわと浮かんでいる。


そんな浮遊生物を影の怪物は手が空いた時に、手頃なところにいるものから腕を鞭のようにしならせて弾き、地面の不定形生物は陶器人形が身体から出して根のように地面に潜り込ませた触手で吸い尽くしていく。


ふと、一匹の浮遊生物が陶器人形の頭に着地して、口にある牙で一部を砕いて中身を吸い出そうとする。しかし中にいたのは無数の触手であり、それに掴まれた浮遊生物は握りつぶされながら細かく砕かれて頭の中に引き摺り込まれてしまう。


「態度の割にはうち漏らしがありますね。自分の身を守ることに精一杯なのでしょう?」


そんな煽りをして油断していたのか、不定形生物の一匹が間を縫って影の怪物の脚にまとわりつく。しかし影の怪物はそれを引き連れながら陶器人形の影に潜り込むと、その中で水分を奪われた不定形生物は消滅してしまった。


“お喋りに夢中になるような小娘のフォローもしなければならないからな、手が足りなかったようだ”


売り言葉に買い言葉、互いが互いを挑発し合いつつも、連携自体は上手くしており、敵は一向に攻められないまま数だけが減り続けている状態となっていた。


一見、二人が追い詰められているように見えるが、実際には追い詰められているのは夢魔とその傘下の生物たちの方だ。


「グルゥオオオオ!!」


そんな状況に焦りでも感じたのか、夢魔は大きな咆哮をあげ、それに呼応するように周囲の生物が一斉に二人に襲い掛かる。


それはまさに好機だった。と言っても、それは陶器人形のビルセティと影の怪物のニィピーの二人にとっての話、だが。


「はあぁぁぁぁ!!」


ビルセティが地面に潜り込ませていた触手を集まった生物を囲む檻のように突き出す、内側に先端が曲がった形状は中に入った生物が逃げ出せない構造になっている。


“これで……!切り裂く!”


ニィピーはビルセティの伸びる触手の影に自身の腕を潜り込ませ、影全体から刃を生やして無数の斬撃を放つ。


そして、逃げ場のない空間でそんな攻撃をされた生物達は、あっという間に切り刻まれていく。


「ふぅ、残るは……」


“こいつだけだな”


手下を殲滅した二人は夢魔に向き直る、体躯でこそ圧倒的な差があるが、それは見た目の差でしかなく、まるで消化試合かのように脱力しながら二人は夢魔を睨む。


「グッグゥッ……!ガァグウォォォォォォ!!」


夢魔は一瞬怯むが、それでもやぶれかぶれのまま魔法のようなものを放つ、おそらく魔法というよりも体内で魔素を変換したエネルギー波のようなものだ。


本来は魔法として放たれるそれは、この世界の性質のせいでレーザー砲のようなものになってしまっている。


“この世界では一部の魔法以外使えん、それはあのような怪物も同じようだな”


「関係ありません。どちらにせよ、小細工など私には効きませんから」


ビルセティが前に飛んで触手を構えると、そのエネルギー波を受け止めて吸収してしまう。そしてニィピーが触手の影に取り憑いてそのエネルギーを吸収すると、それを影の刃に変換して夢魔に放つ。


夢魔は回避することもできず、あっけなく細切れにされてしまった。


“思いの外苦戦してしまったな、狭間の神の人形のお陰で僅かに楽になったのは感謝しているぞ”


「あなたも、いつ逃げ出すのかと思ってましたが、壁の役割をそれなりに果たしてくれて助かりました」


互いに嫌味たっぷりの感謝を伝えると、すぐに周囲を探り一番の目的である()()を探す。


「そういえば、ミエリの気配はどこへ……?」


“もしかして襲われて離れてしまったのか……!?なんということだ……”


「くっ、私としたことが……とにかく探さなくては」


二人が焦りながらミエリを探すために動き出そうとした時、どこか遠くの方から複数人の足音が僅かに響いてきた。


「おーい!誰かー!誰かいるかー!」


「この声は、イサオさんですか」


そして、イサオの呼びかける声にビルセティが反応した。


“あの時の大男か、どうやら増援を呼ばれてしまったようだな”


「ツメが甘かったですね。もうこのダンジョンからは去った方がいいですよ、どうせミエリもここにはしばらく来ないでしょう」


自分の主人を連れ去ろうとするニィピーに、親切にも情報を与えてここから去るよう促すビルセティ。これが一時的に助けてくれたお礼なのだと判断したニィピーは、ただ“フッ”と言って背を向ける。


「そういえば、帰す前にいくつか質問に答えていただきます」


そんなニィピーの背に向かって、ビルセティが思い出したように話しかける。


“いいだろう、先ほどの我が主人の話か?”


「それも気になりますが、もっと知りたいことがあります。一つ目に、ここでは最近二度、解明者の大被害があったそうです。あと私達が来た時に知り合いの一人が首を折られていました、それらに関係ありますか?」


“一度だけ、解明者どもに見つかって大規模な交戦をしたことがある。おそらくそのことだろう、だが二度はしていない”


「そうですか……」


“だが今日ここに来たパーティのヒーラーをやったのは我だ、我の存在を見られて警戒されれば、このコロニーにいるミエリに接触出来なくなる可能性があったからな。だから追い出した”


「そうですか、では二つ目に、あなたはこのコロニーで起きたことをどれくらい知っていますか?」


“具体的には?”


「このコロニーの地下に謎の空間があること、そしてこのコロニーでサイウという現象が起きたこと、そして右手を隠した異様な雰囲気のヴォラルフがいること……」


それを聞いたニィピーは明らかに動揺する。


“どれも把握していない……それどころかここにリュウカがいたのか!?しかもサイウが発生しただと!?”


明らかに動揺した様子でニィピーがビルセティに詰め寄る。しかしもうすぐそこまで救援部隊が近づいていることに気がついたビルセティは冷たく距離をとる。


「どうやら存じないようですね。残念ながら私達も詳しくは知らないので、知りたいならご自身で調べてください。それと、さっさと逃げないとややこしくなりますよ?」


(本当なら捕縛するべきなのでしょうけど、実力は互角、イサオさん達に被害を与えたく無いですし、何よりミエリを早く見つけなくては)


心の中で焦りながらもニィピーを煽るビルセティ、それに対して実際に救援部隊が近づいていることが分かっているニィピーは、歯痒そうに踵を返すと、“くっ、世話になったな”とだけ言って影の中に溶け込んでいった。


「おい!お前はビルセティか!?」


松明の明かりが近づき、角を曲がってイサオが顔を出す。彼はビルセティを確認すると驚きのあまり声を上げ、それにカリストが耳を塞ぐ。


「いきなり声を出すな!……はぁ〜、こいつはお前たちの仲間か?」


「ああ、どうやら他のメンバーとは合流できなかったようだな……それにしても話通り本当に再生しているな……」


イサオにキレつつも一息ついて冷静になって問いかけるカリスト、その彼の問いにエンロニゼが答えつつ、周りに聞こえない音量でビルセティの再生能力に舌を巻く。


「すみませんイサオさん、実はミエリとは合流出来たのですが、この怪物と戦闘してる最中に逸れてしまったのです」


そう言って、ビルセティが地面に散らばる夢魔の肉片を指す、その凄惨な光景に救援部隊の面々から様々な感情の声が漏れる。


「ビルセティ、これをお前がやったのか……確かに高い実力を持っているようだ」


「ん?こいつはお前の仲間だろう?なんで驚いているんだ?」


その中で、まるで初めて見たかのように驚くエンロニゼに、首を傾げながらカリストが当然の疑問を口にする。


「いや、エンロニゼはまだ加入したばかりなんでこいつの実力を知らないんだ。それより話を聞く限りうちのクランリーダーは一人でいるようだな、早く探しに行こう」


周囲の疑問や困惑を軽く流しながら、イサオが仲間の救助を優先して先に進む提案をする。もちろん本心からくる言葉ではあったが、ビルセティのことをこれ以上詰められるのは困るという意図もあった。


「イサオさん達がそちらからいらしたのですから、おそらくミエリはあちらの方、もっと洞窟の深部に行ったのかと」


ミエリが消えたと思しき方を指差し、早足で進むビルセティ、そんな彼女の言葉を疑わずにイサオも追いかけるように奥へと進み、振り返ると立ち尽くす他の者達にジェスチャーだけで追従の指示をした。


「やれやれ、随分とあのメイドのことを信頼しているようだな」


カリストは呆れるように頭を抱えながら首を横に振った。

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