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ストレンジフィールド  作者: 大犬座
4章 『本能の洞窟』へ
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4-18 合流とハイテク装置とエーテル反応と、それから……

「正直言って、君たちには済まないと思っている。俺の勝手な墓参りの為に危険な目を遭わせてしまった……」


装備品が固まる排泄物の山の前で、ドクターはただ立ち尽くしそう呟く。


「俺の名は加瀬 出間(かせ いずま)、ここに来たのは君たちの想像通り人探しだった」


「んで、その探し人はさっきのワームの栄養になってたって事なんですね、まあ本音を言うなら覚悟はしてたでしょ、加瀬さん?」


加瀬は、発掘した板切れ……よく見ると「椎名 螺海(しいな らう)」と書かれた名札のそれを大事そうに懐にしまうと、シャラム達に向き直る。


「正直言うならば、俺はここから出口に出る道を知らない」


「うん、知ってる」「え!?そうなんですか!?」


今更すぎる告白に、シャラムが淡々と返すのとは対照的にゼノルが驚く。そんな彼の間抜けさにシャラムが白い目を向けている間にも加瀬は更に話を続ける。


「だが、ワームも洞窟内を垂直に進むなんて無茶苦茶な動きはしない、ここから上に向かっていく道を進めば、俺が付けた目標のある道に出るはずだ。あの『レールワーム』という原生生物は、元の世界では自分の掘った横穴を既存の洞窟と繋げて活動域を伸ばす生物らしいからな」


「ふーん、じゃあここから本能の洞窟と繋がってるってわけね。なんだ、ちゃんと考えてたんだー……というわけで、この無数に空いてる穴のどれに入れば帰れるか教えて?」


加瀬の言葉に相槌を打ちつつ、シャラムは無尽蔵に空いてる穴を見せつけるように手を広げる。この中から出口に続いているものを探すのに果てしない探索が必要なことは明らかだった。


「んー、とりあえず適当に入ります?もしかしたら一発で正解を当てるかもしれないですし!」


「それ、もちろんふざけて言ってるんだよね?そうじゃなかったらボコボコにしたくなるんだけど」


ゼノルの言葉に苛立ちながらもシャラムが打開策を思案していると、彼女の鋭い聴覚が微かな異音をキャッチした。


「この音……ゼノル気をつけて、何か変な音がする」


「あっ、それなら僕が持ってるビデオカメラがエーテル反応を外に出してるからその音が鳴ってるだけですよ!シャラムさんが今になって気がついただけです!」


耳を澄ますシャラムに、ゼノルが相変わらず空気の読めない言葉を投げかける。しかしそんな言葉を無視してシャラムは音の出所を探ろうと神経を研ぎすませた。


「いや、これはエーテル反応の音じゃない……近くに何かいるのか……?」


加瀬もシャラムに同調して周囲を見回す。音の発生源は段々と近づいて来ているようで、それは複数人の足音が反響して聞こえてきたもののようだった。


「……分かった、こっちから来る……!」


具体的な位置を把握したシャラムが剣を握りいつでも抜けるように構え、加瀬もハンドガンの安全装置を外して音の発生源を睨んだ。そして、音はどんどん近づき遂に穴からその正体が現れる。


「ん?おお!おまえらちゃんと到着してたんだな!いやー、合流できてよかったぜ!」


「シャラムさんにゼノルさん!それと……新しい方!ご心配おかけして申し訳ありませんでした!」


その穴から出て来たのは、逸れてしまったシャラムと分断されてから行方知れずだったユーエインだった。合流できた事を喜んでいるのか、シャラムにも素直に嬉しそうな顔を向け、ユーエインは全く無関係の加瀬含めて全員に謝罪の言葉を言いながら頭を下げる。


「クソトカゲにユーエイン、良かった……あんた達も無事だったんだね」


安心したのか、深く息を吐きながら剣を収めるシャラム。そして駆け寄ってくる二人に向かって彼女もまた走り出し、そんな様子をゼノルがカメラに収めていく。


「ったく、一時はどうなるかと思ったけど、なんとかなるもんだな」


「今回は偶々運が良かっただけ、何度もこういう事があっても困るし、無事帰れたら対策会議しないとね」


シャラムと対面したアフタレアはうなじを掻きながら楽観的な事を言い、それに対してシャラムが戒めるような事を言う。どちらかが口を開けばもう片方が返す、最早お馴染みの光景だ。


「すごい場所ですね……ここは一体……?」


「ここは僕たちを襲ったワームの巣ですねー、おそらくこのダンジョンの主でしょうねー」


「なんだって!?おい!それなら今すぐ逃げるぞ!」


下層に広がる異様な空間にユーエインが困惑を口にすると、それに対してゼノルがあっけらかんとした態度でここが自分達を襲った怪物の巣である事を告げ、それにアフタレアが驚き自分達が来た空洞を指差した。


「そうね、あんた達が来た穴からなら元の場所に戻れそうだし、さっさとこんな所から退散しましょ。用事も済んだ事だしね」


「あははそうだね、どうもご迷惑おかけしております」


アフタレアに同意しながらシャラムが加瀬を一瞥する。するとそんな彼女と周囲に対し、加瀬は軽いノリで頭を掻きながら謝罪した。


「ん?どうしたユーエイン?」


そんなやりとりの中、突然ユーエインが沈黙して少し猫背になりながらお腹を抱える。アフタレアが気がついて顔を見れば、その顔色は青ざめていた。


「いえ、その……はぐっ!?あ、あがっ……!」


「なに!?どうしたのユーエイン!?」


「やべっ!もしかして……!」


突然仰け反り苦しみ出すユーエイン、そんな彼女に驚いてシャラムとアフタレアはすぐに彼女に近づく。


「アフタレアさ……あぐっ!?あ、あ、あ、あ、あぎっ……!?」


ユーエインが一際仰け反ると、それと同時に腹を破って丸々と肥えた芋虫がせり出してくる。そしてそれが地面にボタッと落ちると、糸が切れた人形のように崩れ落ちそうになるユーエインを二人が支える。


「これはウィザードビーか、魔力を餌に大きくなる原生生物だな。普通複数卵を産み付けられるはずだが一匹とは運がいいね」


加瀬が冷静に落ちた芋虫を見て判断をする。その口調からこの手の状況には慣れているようだ。


「いや、その……実はさっき強引に卵取ったんだが、慌てて取ったから一個残ってたみたいだな」


「はあ!?あんたふざけてんの!?仲間の命適当に扱うとか信じられないんだけど!?」


正直に話しながら「あはは……」と笑って誤魔化すアフタレア、そんな彼女にシャラムがガチギレしてユーエインの耳元で叫ぶ。


「シャラムさん……落ち着……ごほっごほっ!」


「ユーエイン!?治癒魔法唱えられるか?」


咳と共に血を噴くユーエイン、そんな彼女にアフタレアが治療ができるか尋ねるが、ユーエインは黙って首を振るだけだった。


「ふぅ、ここはおじさんの出番みたいだね」


そこで、加瀬が前に出てきてドクターバッグで芋虫の上半分を潰しながらそう言いだす。


「ここまでついてきてくれたお礼もしたい、その子をおじさんに治療させてくれないか?」


「……だったらその仕事道具で芋虫潰すのやめてくれない?きったないんだけど」


シャラムの言葉に加瀬は無言でバッグを持ち上げ前に突き出す、するとバッグ全体から水と蒸気のようなものが噴き出しバッグ全体を洗浄し始める。


『消毒完了しました。治療対象に近づき治療を開始してください』


バッグから音声が流れ、加瀬はそれを確認するとユーエインに近づいていく。


「よし、その子をここに寝かせてくれ」


加瀬の指示で二人はなるべく平面な場所にユーエインを寝かせる。加瀬がバッグを展開すると、収納時からは想像つかない充実した医療道具の数々が顔を出した。


「すっげえ……」


「申し訳ないけど少し離れててくれないか?今から簡単なオペをする必要があるから」


加瀬の要望に二人が離れると、彼は耳の裏を触り透明なマスクを展開し、手袋を付ける。


それから加瀬はバッグから円形の何かを取り出すと、ユーエインと加瀬の間くらいに置いて何かを作動させる。


すると、それから棒のようなものが飛び出し3mほどの高さまで伸び、そのてっぺんから放射状に糸のようなものが広がって地面に落ちる。そうして放射状に固定された糸が膜のように広がって互いにくっつき、隔離用の半透明なドームを形成する。


ドーム内の地面もフィルムのようなものが水のように広がって完全に外界と遮断されると、ドーム内に見えなくなるほどの霧が発生し、それがすぐに消えて加瀬とユーエインが完全に洗浄される。


『消毒が完了しました。酸素濃度調節完了、患者のバイタル確認、オペを開始してください』


「よし、メス」


音声を聞いて確認した加瀬はバッグに命令すると、バッグから補助アームが現れて彼に医療器具を渡していく。


「くそ、甘く見てたかもしれねえな」


「外科手術は大事(おおごと)だからね、治癒魔法で簡単に済ませられるものでも大変だし。まあ、他の卵取ってなかったらもっと大変だっただろうし、あんたは十分やったと思うよ」


予想外に緊張感のある現場となってしまったことで、アフタレアがバツの悪そうに吐き捨てる。そんな彼女を見てか、先ほどとは打って変わってシャラムは彼女の強引ながら適切に寄生生物の除去をしたことを褒めてフォローをした。


「とりあえず治療が終わるまでは待機だな、おっ!ゼノルそれビデオカメラか!?」


「はいっ!こんな場所なかなか来れませんからね!記念に録画してるんですよ!」


「記念だぁ?それギルドに持っていけば調査物として買い取ってくれるぞ」


ゼノルのビデオを見て明るい声を出すアフタレア、しかしゼノルがあくまで記念として映像を撮っているだけと聞いて少し渋い顔をする。


「あれ、そうなんですか?でも誰も教えてくれなかったので知りませんでしたよ」


「おいおいなんだよ、オマエ適当に回してるのかよそれ、とりあえず意味ありそうなの記録しろ」


「というか、さっきも言ったんだけどさぁ、あの影の怪物のこと録画しとけって話だよね。調査物になるなら尚更」


そんな他愛のない会話をしながらゼノルを無理やり動かして周囲を記録しているアフタレアと、それを呆れた様子で見るシャラム。すると、なにやらドーム越しに加瀬がこちらを呼んでいる。くぐもった声で聞き取りずらく、シャラムは近づいてその言葉を聞いた。


「すぐにカメラを止めるんだ!まずいことになる!」


「え?いきなりなんで……」


「この子が他の解明者から聞いたんだ!ワームは高濃度のエーテル反応に引き寄せられる!!」


その時、空間の天井の一部が轟音を立てながら吹き飛んだ。

ユーエインさん手術中なのに喋れるの?と疑問に思ったかと思いますが、この世界では早期の戦線復帰を考慮して治療部位だけを完治まで感覚遮断できる技術が使われています。

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