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ストレンジフィールド  作者: 大犬座
4章 『本能の洞窟』へ
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4-17 謎多きディスペクト精神

「な、なにこれ……ウサギ……?」


「いや、ウサギにしては顔ヤバすぎるでしょ」


キョトンとした顔でその生物を見つめるミエリと、そんな彼女に冷静にツッコミを入れるレガナ、ウサギは二人を見つめたまま何故か微動だにしていない。


「でもこれ動かないね、案外大人しい……?」


「ばか!不用意に手を出さないで!」


いきなり手を出そうとしたミエリに対し、レガナが叫んですぐに手を押さえようとしたその時、


「ギシャー!!」


「うわっ!?」


ウサギ?は当然のように、涎の溜まった口を開いてミエリに襲いかかる。


「ああもう!『掌撃』《チバラ》!」


レガナの唱えた呪文が、単純な衝撃をウサギの顔面に与える。


しかし、そこそこの威力を持つその呪文でも、首の角度が僅かに変わる程度のダメージしか与えられず、ウサギの怪物はそのまま首をレガナの方へと向けた。


「やばっ……」


「レガナ!」


睨まれて動けなくなったレガナをミエリが掴んで背後の方へと飛ぶ、それと同時にウサギの怪物は更に口を拡げてレガナ達がいた場所に飛びかろうとし、躱したレガナ達の代わりにその地面の岩を喰らってしまった。


だが、ウサギの怪物は何食わぬ顔でその自分の体積よりも遥かに大きな岩を持ち上げると強靭な顎で噛み砕き、再び二人へと狙いを定めた。


「こ、これかなりやばいのに見つかったんじゃ……」


「当たり前でしょ!さっきまで大きな化け物がいたはずなのにそれが今はおかしなくらい静かなんだし!ほら奥をみて!」


レガナが指差す先、そこには先ほどまで恐れていたガノザールの死骸がギラッツの肉片の中に埋もれていた。見れば頭部以外は細かな部位になるまで噛み砕かれており、その頭部も一部が食いちぎられていた。


「ひいっ……!?」


それを見てミエリは口を抑える。それでも悲鳴が溢れ、その声に反応するようにウサギの怪物が飛びかかる体勢を取った。


「ミエリ!走って!」


その声に反射的に反応して、ミエリが駆け出しそれを追うようにウサギの怪物が跳ねて彼女を追跡する。


がむしゃらに走ってしまい、最早ビルセティの元へ戻れるかどうかも分からない状況まま、遂に当然の結末を迎えてしまう。


「っ!?しまった……!」


スタミナが無くなり、道の先も見ないまま入った分かれ道の先は、瓦礫だけが積もる行き止まりだった。かつて似たような状況に陥ったことを思い出しミエリは冷や汗をかくが、それでも昔とは違いナイフとハンドガンを構えるとウサギと向かい合い戦闘体制を取る。


「き、来なさい!一対二でならわたしたちでも負けないんだから!」


虚勢をはって睨むミエリだったが、ウサギの方は既に臨戦体勢を取っており、二人が反応するより先に飛びかかっていた。


「そんな、早……」


ウサギの大口が二人の眼前まで迫る……それに対応できず凝視していた二人だったが、ふとした瞬間にウサギが視界から消える。


「え、あ、あれ?」


代わりに視界には、全身を黒のシャツにジャケットとパンツだけでかためた謎の男が蹴りのポーズで現れていた。


ウサギはその蹴りが直撃したようで、壁に打ちあたりそのまま地面にバウンドして地面にへばりつく。


「キラーラビットねぇ……とある国のコメディのジョークから生まれたおふざけ生物、まああの世界のジョークじゃよくある短絡的なギャップネタだな」


男が体勢をラフな立ち姿勢に戻しながら開口一番に言った言葉、それは皮肉混じりに目の前の怪物を説明したものだった。


「しっかしよぉ、あの文化系統のコメディアンってのはなんで何かを茶化す事でしか笑いを取れないんだろうなぁ、まだ日本とかいう国で行われているっていう漫才の方が多少らマシだぜ?お前もそう思うだろ?」


そう言って、男は嫌味な笑みを浮かべながらミエリを見る。


「う、後ろ……!」


状況を理解できないまま、ミエリが指を差す、それは男を指しているように見えたが、実際にはその背後だった。


男は振り向くこともせず、腕に黒い物質を纏わせ、後ろから襲いかかったキラーラビットの噛みつきをその腕で受ける。


「『動鎧(リキッドシェル) 鵺』。見た目通りの単細胞生物だな、それに弱ぇ」


黒い物質は流動しているにも関わらず、まるで鋼鉄のようにキラーラビットの牙を通さない。


そして、男はその黒い物質で全身を覆って流線型の異様な姿となり、そのまま前転の要領で回転しながらウサギを振り飛ばす。


物質に牙を持っていかれたようで、生々しい音を立てながら牙が引き抜かれつつ地面に叩きつけられるキラーラビット、しかしすぐに起き上がって口を開くと、抜けた牙が再び生え揃った。


「『流銃(ルートアキンボ) モルゲッソョ』、まだやるのかい?」


男の手に物質が集まり二挺拳銃を形作る、そして再び突進するキラーラビットに男が発砲すると、黒い弾丸は明らかに不自然な軌道でキラーラビットに直接打撃を与えずに足元を掬ってウサギを転倒させた。


「終わりだな、『線布(アサシンリボン)  アンコニュ』」


男の手にはいつの間にか、銃の代わりに細長いリボンの様な帯が握られており、それをウサギの全身に巻きつけ、そのまま踊る様に宙に浮かせる。


そして素早く引くと、リボンはまるで切れ味を持つかの様にウサギを切り裂いた。


「ふー、まあこんなもんか。元々こいつの地元……ヨーロッパとかいう場所?地方?まあどっちでも良いけど、そこじゃ白い獣を神聖視する風潮があるらしく、それを逆手に取った凶暴性を持たせた怪物になったってどっかで聞いたことあるけど、それにしては拍子抜けだったな。そもそも、白いから神聖的ってのが短絡すぎねぇか?」


「ま、まあ、仏教でも摩耶(まや)夫人が仏陀を身籠ってた時に、白い象がお腹に入る霊夢(れいむ)を見たというエピソードがありますし、そういうのは世界共通なんじゃないですかね」


「お、もしかしてお前イケるクチか?」


リボンを束ねてそれで軽くズボンの裾を払うと、自分の語りに造詣が深い言葉を返すミエリに反応し、ウサギの肉片が背後で降ることに気にする様子もなく彼女達の方を向く。


「別に詳しくはないですって、ただ知ってただけで……って、というかあなた誰なんですか!?ジョークがどうこう言っていきなり暴れだすからビビりましたよ!」


余りにも普通に会話していたせいで時間差が生じつつも、いきなり訳の分からない技で怪物をバラバラにした謎の男に、ミエリが動揺しつつも問いかける。


「はぁー?ブラックジョークってクソ寒ぃよなって言いながらお前を助けただけだろ?なんで今になって怯えてんだよ」


「あ、あんた!意味わかんないこと自分勝手に好き放題言って、一体なにものよ!」


「あ?オレ?オレはアダレム・ブラスピンドって名だよ。というか、名乗るならまず自分からだろ?」


「む、たしかに……あーしはレガナよ」


「ハスハマ ミエリって言います……あの、そういう言い方よくないですよ……?いきなりでよく意味は分かりませんけど、そんな見下した言い方じゃ耳を傾ける人は少ないですし、何事にも敬意は持つべきかと……」


「んでもよぉ、何かを晒して笑いを取るなんて誰でも出来るだろ?そんなの三流に決まってる。それにさぁ、誰も傷つかない笑いなんて簡単には思いつかないし、そうやって思いついた誰もが笑えるネタは間違いなく晒しジョークよりは上だろ?敬意を持った方がいいものとそうじゃないものの優劣ってのは確実にあるんだぜ?」


「わけわかんないこと言わないでよ!あんたさっきからキモいよ!」


アダレムが極まった持論を展開するのに対し、レガナがド直球の罵倒をする。意外にも自分が言われる覚悟はなかったのか、妖精の「キモい」という言葉に明らかにショックを受けた様にピクリと反応する。


「れ、レガナ!助けてもらったんだし、そういう言い方はやめよ?」


「いや、別にいいさ、他の連中も『だからお前はドロップアウトなんだよ』とか、普通に言ってくるし」


「は、はぁ……そうですか」(なんかいじけちゃった、居心地の悪い人だなぁ……)


退屈で器量の狭い話題や拗ねた態度を取るアダレムの言葉に少し不快感を感じつつも、助けてもらった恩から微妙な反応しか返せず、最悪な空気に少し項垂れつつミエリがアダレムを見る。


「ところで、お前あんま戦えそうな感じしないけど、仲間とかいないの?」


「え、あ、それがですね……実は、パーティと別れちゃってて〜……探してたらあのウサギに襲われてたんです」


「マジ?それならオレも手伝うからさっさと合流した方がいいぞ、ここなんかヤバイらしいからさ、俺はそのヤバさを見に来たけど」


「そ、そうなんですか……?そういえばあなた何者なんです?一人でここに来たんですか?」


今になって状況を説明するミエリにアダレムは意外なほど親身になってミエリを心配する。それに対してやっと目の前の謎だらけの男にミエリが疑問を口にした。


「オレ?オレはわけわかんねー事が大好きな男さ、だから未知を探して旅してんの」


「変わったことしてるねあんた、こんなところに入るなんてあーしには理解できない」


「解き明かせないような謎なんてワクワクしかねえだろ、既知という檻の中で視界に入るものだけ見て物事を判断するとか、この世で一番つまんねーよ」


そう言って、アダレムは黒い物質を再び出すと、それを自動二輪車の形にして跨る。


「お前らだって解明者なんだから、この俺の気持ちは分かって欲しいけどなー、まあいいや、さっさと乗りな」


「……えっとこれ、乗って大丈夫なやつですか?ヘルメットは?」


「『物馬(ゴーストライド) オンベケント』、乗り心地がちょっと悪い以外は良い走りをする俺の相棒さ、あとコイツは俺の技で乗り物じゃねえからそんなの被らなくても警察は切符切らねえよ、それより早くお仲間を探そうぜ」


「そんなことを言ってるんじゃ……ちょ、まっ、うわあぁぁぁぁ!?」


未だ信用できない男の得体の知れない技に、おっかなびっくりのままミエリがバイクに跨る。そしてしっかりミエリが掴まったのを確認したのち、アダレムはバイクをかっ飛ばして洞窟を駆け抜ける。


「何か見つけたら言えよ!」


猛スピードに目を開けるのもできないミエリとその懐に潜り込んだレガナに聞こえていない言葉をかけながら、洞窟内の怪物をはね飛ばしてアダレムの技は洞窟を猛進して突き進んでいった。

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