4-12 更なる分断
他のメンバーの所で大きく物事が動いている間、シャラム、アフタレア、ゼノルの三人はそうとも知らず相変わらず洞窟を彷徨っていた。
「あー、これは下手に動かず出入り口を開ける方法を考えていた方が良かったかもなー」
あてのない捜索に痺れを切らしたアフタレアが、遂に状況への愚痴をこぼす。
「今更そんな事言ってもしょうがないでしょ、あんな化け物がいる所にミエリとレガナだけを放置するわけに行かなかったんだし」
「でも結局見つかってねえじゃねえか、せめてユーエインだけでも見つかってくれるならまだマシだったけど、アタシたちすら迷子になってちゃ世話ねえだろ」
「まあまあ、いざとなったら僕のキャンプ道具の出番ですから問題ありませんよ」
シャラムとアフタレアが揉めているのに対し、空気を読まずにゼノルが能天気な言葉を返す。その目は輝いており、キャンプ道具を使えるタイミングが巡ってくる事に対しての喜びを隠しきれていない。
「問題しかねえよ!なにが悲しくててめえの寝具を借りねえといけねえんだよ!」
「それに、ここはストレンジダンジョンだから長居なんてしたら死体で発見されるのを待つ事になる、早くみんなと合流してさっさと脱出する以外道はないよ」
ゼノルの提案に辛辣な意見を返す二人、そんな能天気なやり取りをしていると、道の先が二つに分かれた場所に突き当たった。
「っと、遂に来ちまったか〜、どうする?二手に分かれるか?」
「これ以上分散してどうすんのよ、合流しなきゃいけない人数を増やしたくないし、生存率が下がるだけの無駄な行為だよ」
「というか、僕はほとんど戦えないので二人とも実質単独行動になるんですから、とても生き残れるとは思えませんねー」
他人事の様に自分の事を言うゼノルに、シャラムとアフタレアの二人がシンメトリーの様に同じ動作で呆れ顔を彼の方に向ける。
「お前は本当にムカつくヤツだな……来る前はおっさんと組ませようとしたけど、今はこの分かれ方で良かったと思えるぜ」
「私とクソトカゲのコンビだからフォローできるけど他のメンバーだったら厳しかっだろうね。……まあ、あんたと一緒になった事自体は全然良いとは思わないけど」
「散々な言われようですねー、僕も一応シャラムさんにブレインテイカーがいることを教えたじゃないですか」
あまりに自分への評価が低い事を言われて気を悪くしたのか、ゼノルはむくれながら役に立った事をアピールする。
と、そんな時間の浪費にしかならない会話をしている三人の元に右の通路から大声で呼びかける声が響いてきた。
「んあ?誰かこっちに来てるぞ」
「確かに、敵かもしれないから警戒して」
三人は各々武器に手を掛け、こちらへと走ってくる人影を見据える。
「ぉーい!……ちは……だー!」
「トカゲは聞こえる?」
「んにゃ、ちょっと遠いし反響して聞こえづれえな」
「あれ?なんか後ろから音が……」
前二人が警戒する中、背後の左側の道から微かに地響きの様な重い音が聞こえ、ゼノルが振り返る。
「おーい!!そっちは……けんなんだー!!」
「やっと聞こえてきたな、なんか伝えようとしてるのか?」
「もしかして、危険って言いたいの?なんで……」
「シャラムさん、アフタレアさん……これ、逃げないとまずいかもしれませんよ」
二人はここで気がついた、自分達の背後から大きな地響きを鳴らして大物が近づいている事を。
「逃げろー!!!ワームが来るぞー!!」
「……ッ!!アフタレア!元来た道に跳んで!」
シャラムは大きく叫ぶと、ゼノルを掴み前へと翼を広げて飛び立ち、アフタレアはそんなシャラムの言葉に反射的に来た道の方へと地面を強く蹴って跳ね飛んだ。
と同時に、分かれ道の左側から凄まじいスピードで巨大な怪物が突っ込んできた。
それは巨大な蛇の様に四肢の無い体に、双角を持ち竜のような厳しい顔つきをした頭部を持っていた、所謂『ワーム』と呼ばれる生物だ。
猛進するワームからゼノルを抱えて真っ直ぐに飛び、まさに"逃飛行"するシャラムはそのまま正面にいる注意喚起をしてくれた男を掴んで、勢いのまま入りやすそうな脇道へと飛び込んだ。
ワームの通った地形は変化し、アフタレアが駆けつけた時にはシャラム達の脇道は崩壊した岩壁に塞がれてしまった。
「ああクソッ!お前ら大丈夫か!?」
「こっちは心配ないよ、それよりあんたが孤立してしまったね」
「こっちはなんとかする!お前らも早く抜け道を探すんだ!」
「ああったく、君たちもえらい目にあったね〜」
二人の会話に割って入るように、シャラム達に呼びかけていた男が服装を整えてから話しかけてきた。
「誰かしらねえけど助かったぜ、でも悠長に話してる時間はねえからアタシは行くぜ」
「待て待て、おじさんの話くらい聞いてくれよ〜、このままおじさんがやって来た方へ行けば下層に大きな空間があるんだ、おそらくこっちもそこに続いているはずだからそっちで合流しないかい?」
「なんで分かるの?貴方ってこの場所詳しい人か何か?というか、その持ち物を見る限り貴方ってドクターでしょ」
「珍しいですね!よくギラッツがいるダンジョンに機械類を持ち込めますねー!」
おじさんを自称する男の怪しい雰囲気に眉を顰めて全身を眺めるシャラム、ウェーブがかったセミロングの髪に小さなメガネを掛けた胡散臭い姿は疑うに等しいものだったが、彼が首に聴診器を掛け、基本的な治療を行える『ドクターケース』という機械の箱を脇に抱えている事に気がついてゼノルと共に驚きの表情を作る。
「ちょっとちょっと〜時間がないって言ったのは君たちでしょ〜?」
自分で話しを振っておきながら、長話を指摘する男に対し、アフタレアが瓦礫の向こう側で眉間に皺を寄せる。
「おじさんのことはついてから詳しく話すから、とりあえずは合流しようか」
そう言うと、男はワインレッドのコートを翻して、話を切り上げるかの様にそそくさと奥へと向かって歩き出した。
「……まあ危険は教えてくれたしね、とりあえずその下層の空間とやらに向かおうか」
「おう、しっかしトラブルしか起きてねえなぁ、元々トラブルを調査するために来たけどここまで大事になるとは思わなかったぜ」
男の行動に眉を顰めつつも、助けてくれたことや他に選択肢がない事を考慮して男の言葉を信じるシャラムと、それに同意しつつうんざりしたように不満をこぼすアフタレア。
そんな二人を他所に、すでに男の姿が見えなくなっている通路を、ゼノルはただジッと見つめていた。
「ん〜?なんでしょう、あの人……よく見たらどこかで見たことある顔のような……」




