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ストレンジフィールド  作者: 大犬座
4章 『本能の洞窟』へ
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4-11 情報提供

ビルセティの前に現れたシルクレンビスは、赤いフード付きパーカーにカーゴパンツ姿の大柄な青年だった。そんな威圧感のある姿に臆する事もなく、ビルセティは座った目で青年を睨む。


「いきなり随分とご挨拶だな、お前も同族だろ?何故ここにいる?」


「先ずはこちらの質問に答えてください。何故ここにいるんですか、これもアレからの指示ですか」


目の前に立つ同じ陶器人形の青年に、ビルセティは座った目で問いかける。



「俺は母さんの指示でここを調べてるんだ、ここの近くにこの世界を支配している奴の探してるものがある……と、母さんは考えてるみたいでな、だから先越して俺らで横取りしようって魂胆で動いているのさ」


「世界を狂気に陥れる異形の神らしからぬ姑息さですね、そんなにここの支配者が怖いんですか?」


ビルセティの歯に衣着せない物言いに、不信感を露わにしつつも青年は静かに口を開く。


「はっきり言って、ここは異常すぎる世界だ、独自のルールを敷いて世界の中にあるものを管理したがってるくせに、あらゆる世界からなんでも取り込もうともしてる……そして取り込んだものはほぼ完璧に管理出来ているんだ、そんなのと正面からやり合えると思うか?だから母さんは持っている情報を最大限活かそうとしている」


「……どうやらあなたはアレから色々聞かされてるようですね。それならお聞きしましょう、何故コロニーであんな真似を?」


「ん?なんのことだ?」


「とぼけないでください、この区域のコロニーで地下施設を拠点に活動していた犯罪組織が、正体不明の存在に襲撃されて組織の構成員が異形になっていた事件です。貴方も一枚噛んでるんじゃないですか?」


「…………どんな話かと思えば、いきなり知りもしない騒動の疑いをかけられるとは、要所への強襲や裏工作を担当する俺でも流石にこのトラブルは想像つかなかったな」


青年のシルクレンビスはふーっ、と息を吐いてさっき始末したのであろう岩に擬態したミミックらしき原生生物を地面に放り投げると、ゆっくりと皮肉混じりに彼女の言葉を否定する。


「教えてやる、俺はこの洞窟に昨日来たばかりで他種族の巣には近づいていない。そして、今のところ唯一内部で活動している貴族服を着たい幼少男性型の個体からもそういった情報はない。つまりそれは母さんの認知していない事象だ」


青年からの返答は、ビルセティの期待を裏切るものだった。全ては一本の線で繋がっている、そう全く疑っていなかったビルセティは、青年に少し焦りの見える表情を見せた。


「そんな……ですがこの世界で一番情報を持っているギルドでも調査が必要だと言っていたほど奇妙な事件だったのですよ?それほどのことを他の種族が出来るとは……」


「言っただろう?この世界は管理出来ているとは言ったが"ほぼ"だと。引き込まれたのではなく、向こうからわざわざやって来て裏で暗躍してるやつらが他にいる可能性は十分にある、俺たちがそうであるようにな」


「……そう断定するには情報が足りてませんね、各地で活動しているテロ組織に加担しているシルクレンビスの事はアレも手綱を握れていないように見えますし、そういった者が独断で行動している可能性は否定できないのでは?」


「テロ組織に加担?ああ、あいつか……確かその組織の連中からパフノマと名付けられている兄弟だな。アイツのことは母さんも把握している、俺たちのことは母さんに筒抜けだ。だから俺たちが母さんを出し抜くことなど不可能に近い」


「そんな、では今回の事件は一体なにが……」


「だから言っているだろう?この世界には母さんすらも把握していない何かがいると、実際この洞窟には何か目的意識を持って侵入者を攻撃している存在がいるようだ、そいつを締め上げれば何か分かるんじゃないか?」


「あの影のような存在ですか、それがこの一連の事件と関係していると?」


「そんなの俺が知ったことじゃない、お前が知りたいのなら自分で調べろ。まあ、俺たちとしても情報を得られるのはありがたいからな、邪魔はせん」


「……あの影のような存在は私達を襲撃してきました、パーティが分断したのもあれのせい……なので貴方が無関係で不干渉だと言うのなら、先にそちらの無力化を優先します」


青年の態度に不信感を抱きつつも、ビルセティは今は敵対的ではない目の前の陶器人形より、ミエリを狙った影の怪物を優先すべきと判断した。


「そうか、なら元来た道を戻るといい、この先は俺が殺した化け物の巣しかなかった」


そう言って青年が視線を自身の背後に持っていく、ビルセティからは暗くてよく見えていなかったが、よく見れば目の退化し昆虫のような脚を持った、口の大きな怪物が死骸となって地面に転がっている。


「俺はこいつとやりあったせいで多少消耗した、回復までしばらくここに留まる。この死体は好きに使っていいぞ」


「いらない気遣いです。と思いましたが、多少は利益になりそうなのでやっぱり貰っていきますね」


青年が砕けた左腕を見せながら状況を伝えるが、ビルセティはそれ自体には興味なさそうにしつつ、怪物の死骸は持っていくとミエリ達が喜ぶだろうと考えて自身の体に括り付ける。


「そういえば、お前はパーティだの私たちだのと言っていたな、もしかして例の女と行動を共にしている姉妹というのはお前か?」


「そうですが?筒抜けと言いつつ、ミエリの世話をしている同種がどのような容姿かまでは伝わっていないのですね」


「俺は基本的な話しか聞いていないからな。それなら話が早い、さっさと行って少しでも情報を集めてくれ」


ビルセティの正体を知って安心したのか興味を失ったのか、青年は脱力してダメージを負った箇所を庇いながら岩壁に寄りかかる様に腰を下ろした。


「はい、ではご機嫌よう。二度と会う事はないでしょうね」


「ああ、達者でな」


それだけの言葉を交わし、ビルセティは踵を返してミエリの捜索を再開した。

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