4-6 分断
ガチで久しぶりの更新になり申し訳ないです。
今月から更新頑張りますのでお許しを……
「どうなってんだよ一体……これがプロレスラーだってのか……?」
「いや、意味が分からないぞ……」
「私が思わず躊躇しちゃったのはあるけど……私とトカゲ女の攻撃を耐えたビルセティを一撃で倒すなんて、どういうこと?」
目の前で起きた異常現象に、パーティメンバーが目を丸くして、思い思いに心情を表した言葉を呟く。
「ふー、あとはビルセティ頼みだ」
それだけ言うと、イサオは下ろしたバックパックからタオルを飛び出して汗を拭い、首にかけて一息つく。
「それにしても、久しぶりだと流石に無理が出るな……」
「おお!その姿はまさにプロレスラーですね!でも、イサオさんってガードナーじゃなかったんですか?」
唯一メンバーの中で動揺せず、イサオのジャーマンスープレックスの活躍に「すごいっ!」と言っていたゼノルが試合終了後のプロレスラーを思わせる姿のイサオに目を輝かせながら質問する。
「ん?ああ、俺は元々プロレスラーだったんだ。色々あって今はやめているから、見ての通り大したことは出来ん」
「いや、あれはとんでもない威力だったぞ……私が出会った現役プロレスラー達と殆ど遜色ない……どころかそれ以上の技のキレだった」
「どういう理由でやめてるのかしらねえけど、アタシたち的にはおっさんにプロレスラーをやって欲しいぜ、そんなの隠し玉はもったいねえって」
「駄目だ、俺がプロレスラーをやめた理由は……ッ!?危ない!」
話の途中で何かに気づいたイサオの叫びに、全員が素早く構える。しかし、その中で一番先に動いたのは意外にもゼノルだった。
「暗闇にいたらバレないと思いましたかぁ!?」
ゼノルが勢いよく何かを投げつけると、それが割れて辺り一面が真っ赤に燃え上がる。そして、その何かが直撃したであろう腕が燃えた状態のまま、悠々とパーティを見下ろす怪物の姿が炎によって照らされる。
「でえ!?コイツ、ずっと狙ってたのかよ!?」
「ずっと警戒していた時には気配すら無かった……私達が油断するまでこの場を離れて、定期的に様子を見るを繰り返していたみたいだね。陰湿なやつ……!」
「『森よ、絡み取れ』!」
シャラムが悪態をつきながら突撃し、エンロニゼが地面から触手を出して奇襲を仕掛けるが、黒い怪物はそれら全てを回避して再び天井に斬撃を放つ。
今度の斬撃は広い範囲を砕き、パーティの立っている頭上に砕石の雨が降り注いだ。
「やばっ、全員避けて!」
「んああったくよぉ!ゼノルとりあえずお前だ!」
「ちょっ!アフタレアさんいきなり掴まな……うわー!」
「しまった!『森』が間に合わない!」
「くそったれ!エンロニゼ!」
振り返って咄嗟に叫ぶシャラム、その声に反応してアフタレアは一番近くにいたゼノルを掴んでシャラムのいる方向へ投げると、自分もそちらへと飛んだ。
一方、『森』と繋がり操っていたせいで反応に遅れたエンロニゼ、それをイサオは素早く駆けつけ抱きかかえてると、そのまま自分の荷物がある方向へと横跳びをして落石を回避した。
「皆さーん!ご無事ですかー!?」
落石した場所から離れていた為に無事だったユーエインの声が、土埃に満たされた洞窟にこだます。
「ああ、なんとかな〜……」
「なんとかな〜じゃないですよ!いきなり酷いじゃないですか!」
「二人とも元気そうだね、ユーエイン!こっちは無事だよー!」
「こっちも無事だ!!エンロニゼも怪我はない!」
「すまない、私とした事が油断していた」
ユーエインの声に応えるようにアフタレア、ゼノル、シャラムの声が響き、また別の方向からもイサオとエンロニゼの声が聞こえてくる。
「こっちはミエリが消えた道の方向に飛んでしまったから瓦礫で八方塞がりだ!ユーエインとシャラム達は先に合流してくれ!こっちはエンロニゼとなんとかして、脱出できたらすぐに追いかける!」
「というか洞窟の入り口がこんなにめちゃくちゃになったなら普通に救援でしょ!ここはストレンジダンジョンだけど入り口付近だし、外に出たら連絡できるだろうから先にそれお願い!」
「分かった!あとを頼む!」
瓦礫の先で聞こえるイサオの言葉を合図に、シャラムとアフタレアが立ち上がる。
「ええ!この小人数で動くのは流石にまずいですよ!」
「アホ!さっきの化け物見ただろ!あんなのいたならじっとしてようが動いてようが関係ねえよ!」
「私はトカゲと違って固まって救援を待つ事も考えたけど、ミエリとレガナがビルセティと合流しているとは限らないし、何よりユーエインが完全に孤立してる。そんな状況なら私達がなんとかするしかない」
「うー……分かりました!旅は道連れ世は情け容赦無しって言いますからね!どこまでもお供しますよ!」
そんな会話を得て、三人は洞窟の奥へと走り去っていく。後に残されたイサオがユーエインに声をかける。
「ユーエイン!申し訳ないがここはあの化け物が潜んでいるかもしれん!」
「は、はい!」
「そして救援が来てこの瓦礫が撤去されるまで待つのも現実的ではない!だからお前も行動してシャラムたちと合流してくれ!」
「な!?イサオ!彼女はまだ初心者だ!」
イサオの大胆な提案に、エンロニゼが思わず口出しをする。
「分かっている!だがここにいても安全とは限らん、それに彼女はヒーラーだ、上手く彼女が合流出来れば他の連中の生存率も上がる」
「しかし……」
「あの、大丈夫です」
イサオなりの考えがあって無茶を通していることを理解しつつも、煮え切らない態度のエンロニゼ、そんな中でユーエインが覚悟を決めたように返事をする。
「本当に大丈夫なのか?」
「心配してくださってありがとうございます。ですが私はヒーラー、傷つく皆さんを助けたいんです」
「そう言ってくれるのはありがたい、すぐ向かってくれ、だが無理はするな」
「はい!一応私は杖術も習っています、だからある程度は戦えますのでご安心ください、ではお二方も気をつけて!」
それだけ言うと、ユーエインが駆け足で去っていき、イサオとエンロニゼだけが残された。
「よし……と、エンロニゼ頼みがある」
「なんだ?」
「この瓦礫に『森』を這わせてくれ、お前たちドルイドは蔦を絡ませれば瓦礫全体の状況が分かるのだろう?それで安全そうなやつを確かめてくれれば、俺がそれを退かして道を作る」
「分かった任せてくれ、それにしてもさっきは助かった」
「なに、気にするな」
「ただ……」
「ん?なんだ?」
「イサオは少し汗臭いな、アフタレアと同部屋で良かったと思える程度には匂うから、ちゃんと手入れはした方がいい」
それだけ言うと、エンロニゼは『森』を出して瓦礫の間を這わせていく。
(……それは今言うべきことなのか?それに今は汗をかいたのだから汗臭いのは当然のはずだ)
「イサオ、ここは大丈夫そうだ、手伝ってくれ」
(いや、もしかしていつも匂っていたのか?だとしたらミエリたちからも……やはり彼女の言う通り手入れするべきなのか……?)
エンロニゼの何気ない一言にイサオは、一人悶々と悩みながら岩を退ける作業に入った。