3-23 次の調査へ
今回で終わらせるために長くなるの覚悟で書き上げましたが、結局まだ書き終わってやかったのでまだ3章は続きます。
「ミエリ、朝だよ」
次の日の朝、ベッドで眠りにつくミエリの頬をレガナがつついて朝を告げる。
「あ、おはようレガナ……」
「ミエリ、おはようございます」
もぞもぞと毛布の中で動くミエリに部屋の出入り口の方からビルセティが朝の挨拶をする。
「ビルセティ?なんでそこにいるの?」
起き上がったミエリがそちらを確認すると、ビルセティが何かを抱えて部屋に備え付けられた洗面所から出てきた直後のようで、そのままミエリのベッドの方へと歩いてくる。
「うん?何してるのビルセティ?」
「部屋の整理と今日の支度をしていたのです、夜の間ミエリの顔を見ているのは気味が悪いとの事だったので」
ビルセティが触手で掴んでいるものはミエリの装備品や特注の軽装鎧で、彼女が起きてすぐ着替えられるように準備していたようだった。
「あ、そうなんだ、ありがとうねビルセティ」
「あんたが暗闇で全く動かなかったのはめちゃこわかったからねー、これからの夜の暇な時は他にやる事探したほうがいいよ」
ミエリの後ろからレガナが顔を出し、ビルセティを見ながらアドバイスをする。やはり今までの朝の姿は恐ろしかったのか、少し怯えが感じられる仕草だった。
「そうですか……確かにそうですね、ありがとうございますレガナ」
「べ、別に礼を言われるようなことは言ってない!朝起きてすぐに横にあんたの顔があるのが嫌なだけよ!」
礼を言うビルセティに素直になれず、プイッと顔を背けながらレガナが照れ隠しの言葉を放つ。
「そういえば、先ほどイサオさんにあったのですが、何やら相談があるとの事です」
「え?イサオさんが?なんの話だろ……」
「支度が済み次第食堂に来てくれとの事です。着替えはすでに用意してありますので」
そう言って備え付けのテーブルをビルセティが指差す。そこにはミエリの分だけでなく、シャラムやレガナの分まで用意がされていた。
「じゃあさっさと準備しないとね、ほらシャラム起きて」
「ん〜……なに〜……?」
ミエリはまだ眠りについているシャラムを起こすと、ビルセティが手入れをした軽装鎧に着込み、昨日受け取ったハンドガンを腰のホルスターに差して部屋を出た。
………………
「おうおっさん来たぜ、話があるんだってな」
最後の一人であるアフタレアが食堂に入ってくる、彼女の着席で宿にいるメンバー全員がいることを確認すると、終始沈黙していたイサオがゆっくりと口を開いた。
「皆集まったな、実は昨日とある情報を聞かされたんだ」
「朝っぱらからビルセティがドアを叩いたからちょっとビビったぜ、信用していないメイド人形を使って呼ぶくらいなんだから大事な話なんだろ?」
「そういえばそうだよね、イサオさんはビルセティのこと疑ってたのに」
「それで、大事な話ってなに?」
イサオの言葉を遮るように喋り出すアフタレアとミエリ、それを制するようにシャラムが切り出す。
「ああ、昨日の事件の際に見つかった穴について連絡があってな、どうやら『本能の洞窟』に繋がっているんじゃないか?という仮説を聞かされたんだ」
「本能の洞窟……なるほど、この世界でも珍しい入り口が地下にあるストレンジダンジョンだからな、別の入り口があると考えるのは間違いじゃない」
「でも本能の洞窟ってただ次元の穴が地下にあるだけで洞窟そのものが地下にあるわけじゃない筈だよ?はっきり言って根拠としては弱い気がするんだけど、それにその情報提供者って誰なの?」
イサオの聞いた情報についてシャラムが眉を顰めながら否定的な意見を述べる。
「まあ待て、情報提供者とはこれから会う、それに俺も奴の話を鵜呑みにしているわけじゃ無い、気になる話を別に聞いたから調べに行きたいんだ」
「別の事〜?なんだよおっさん、これ以上にまだおかしな話があるのかよ」
「どうやら件の洞窟で触手を出す陶器人形然とした何者かが目撃されているらしい」
「えっ!?」「マジで!?」
イサオの口から出た思わぬ情報にミエリとアフタレアが反応して声を上げる。
「ちょっと二人共、声が大きいよ」
「陶器人形……このビルセティとかいう少女と同じ種族という事か」
「そういうのもあってその情報提供者の話を聞いてしまってな、今日そいつと合流して調査に行く事になってしまったんだ」
「ふーん、つまりおっさんはアタシたちに相談せずに勝手に調査の約束を取り付けたってことか、準備もろくに出来てねぇのに今からすぐには行けねーぞ」
「安心しろ行くのは俺一人だ、ただダンジョンに行くからお前たちに伝えただけだ、それに俺たちは昨日のアレの当事者だからな、お前たちにはしっかり伝えておきたかったんだ」
イサオの言葉が予想外のものだった為か、ビルセティを除くその場の全員が大なり小なり驚く素振りを見せる。
「まあそんなわけだ、だからしばらく留守にさせてもらうぞ」
「待ってください、私も連れて行ってくださいませんか?」
皆の返事を待たずにイサオが立ちあがろうとすると、そんな彼にビルセティが前に出て同行を進言した。
「え、ビルセティ?」
「なに?どういうつもりだ?」
「そのダンジョンで私の同類と思しき影を見たというのなら、それを私も確認しに行きたいです。そして噂が本当ならばその者の目的も把握しておきたい……これは私の個人的な我儘ですが聞いていただけませんか?」
思わぬ発言にミエリとイサオが驚きの声を出してビルセティの方を見る。そんな二人を見つめ返しながら皆の中心に立つ陶器人形は自身の目的を赤裸々に話した。
「……お前の事はまだ完全には信用していない、もしかしたら噂のそいつと合流して、疑ってかかっている俺を始末しようとしている可能性も俺は考えているぞ」
「イサオ、流石にそれは考えすぎだと思うぞ……」
「まー話を聞く限り中々興味深い話ではあるね、準備する時間をくれるなら私もついていくよ」
「まあ待て、こういうのはリーダーが決めること……だろ?ミエリ」
「えっ!?」
ビルセティに疑いの目を向けるイサオ、その疑い過ぎな考えを指摘するエンロニゼ、話を聞いて興味を持ち同行する事を考えるシャラム、そんなやり取りを外部から黙って見ていたミエリは急にアフタレアから「リーダーとしての意見」を求められ声を上げた。
「確かに、ここのリーダーはミエリなのだろう?ならば何かしらの意見は聞きたいものだ」
「確かにねー、よく考えたらみんなの予定もまだ聞いてないし」
「ミエリ、貴女が駄目と言うのであれば私は引き下がります」
アフタレアの言葉にエンロニゼとシャラムが乗っかり、ビルセティも指示を求めるようなことを言い始める。
「う、う〜ん……その情報提供者って一人なんでしょ?それだと調査をする際は最低でもツーマンセルで動くべきだしビルセティを入れても三人になるから一人は単独になっちゃう」
「心配いりません、私が単独で……」
「お前をそんな場所で一人にする気はない、最低でもお前は視界に入れておく」
「それだと三人で行動することになる、それだと効率が悪いしやっぱりパーティ全員で動くべきだよ、それなら最悪分かれて行動出来るし、それに得体の知れないものがいることが分かっている場所を調べに行くんだから、戦力は十分揃えた方がいいと思う」
「と、言うわけだ、リーダーのお達しならアタシは従うぜ」
「私はさっきも言った通り、準備の時間さえくれればついていくつもりだったからぜんぜんオッケーだよ」
「私も大丈夫だ、必ず役に立ってみせる」
「お前らは……仕方ない、あと一時間後にここを出発するからそれまでに準備しろ」
イサオは言い出した自分を抜きに話が決まってしまったことにため息を吐きつつも、すぐに気を取り直し日程を決めるとパーティメンバー全員が立ち上がり準備を始めた。
………………
「あ!イサオさーん!遅かったじゃないですかー!」
メンバーがギルドに着くと、先頭で入ったイサオの顔を見て駆け寄ってくる青年が一人いた。
このダンジョン調査を持ちかけた張本人、ゼノル・アーチランドだった。イサオはその顔を見て少し眉を顰めつつ彼の方に向き直る。
「遅いも何もお前とは合流時間を決めてないだろ、それに異常事態の調査に行くんだ、準備する時間が必要なのは当然だろうが」
不機嫌そうに膨れるゼノルを見て、イサオは辛辣な視線で見下ろした。
「イサオ、この人が情報提供者?」
「随分と親しげだな、例の治療院の前で出会ったポーターってコイツのことか?」
「あ、あなたはあの時の……」
「あー!あんたスープのやつ!」
続々と入ってくるメンバー達がゼノルを見て各々口を開く、そして遅れて入ってきたエンロニゼが察したような顔をしながら前に出てくる。
「貴方はあの時、スープをご馳走してくれたヒューマンだな、あの時は世話になった」
「いえいえ!お礼なんていいですよ!それより皆さんお揃いでどこに行くんですか?」
深々を頭を下げるエンロニゼに気さくな返しをしつつ、状況を全く理解してない発言をするゼノルに対し、イサオとビルセティを除いたメンバーが「え?」か「は?」という声と共に驚きと困惑の表情を彼に向けた。
「お前が言い出した今回の調査にみんなついてきてくれるんだ、この流れからある程度察せ馬鹿者」
「あー!そうなんですか!イサオさんは今いるパーティに僕を入れたくないと言っていたので、たまたま別の用事で集まったんだと勘違いしてましたよ!」
全く反省する素振りも見せず、余計な一言を添えて言葉を返すゼノルにメンバーはまだ硬直したままだった。
「あー……こいつはこういう奴なんだ、俺がひた隠しにしていた理由が分かるだろう?」
「……ああ、おっさんが情報を集めたがってたのも分かるぜ……こんな厄介そうなヤツと仲良くしてたんだな」
「別に仲良くはしていないがな」
「……うーん、でもミエリ達の対応を見るに世話にもなってるんでしょ?だったらあんまり悪く言いたくはないなー私は」
「こんなぶしつけなヤツになに遠慮してんだよ、どう見ても態度悪いだろ、それにその言い方ならお前もコイツへの印象は悪いんじゃねーかよ」
「確かにこのヒューマンは癖が強いが、出会い頭に人をぶん殴るようなトカゲに態度を指摘されるのは流石に可哀想だな」
ゼノルの態度に対して、彼とは初対面のシャラムとアフタレアが話し合っていると、どこか遠くから聞いたことのある声がメンバーにかかった。振り向くとそこには、ミエリが何度も世話になったコロニーガードのベリエットが立っていた。
「あん?誰だよって……げっ……てめえコロニーガードのドラゴンマンじゃねえか……」
「久しぶりだな、お前はアフタレアというらしいな、あの後調べさせてもらったぞ」
「え?アフタレアってベリエットさんと知り合いなの?」
「知り合いなんかじゃねえよ、ちょっと前にコイツにムカついたからぶん殴っただけだ」
「あの時はどーも、お陰で更にルナルドネスが嫌いになったよ」
不機嫌さを隠さず対応するアフタレアにベリエットが皮肉混じりの返しをする、そんな二人の様子をシャラムは交互に見て何かを察する。
「クソトカゲってば、他の所でもドラゴンに喧嘩売ってたの?やっぱあんたと一緒にいるのやめようかな」
「だったらパーティを抜ければいいじゃねーか、アタシは抜ける気ないからな」
「なに?そこのドラゴンメイドはこいつと組んでいるのか?ルナルドネスとドラゴンの組み合わせは中々珍しいな」
「成り行きで同じパーティに所属しているだけ、それにこのパーティのリーダーはミエリだから私はミエリのパーティにいるってだけでこいつと組んでる訳じゃない」
「へー!あの人がリーダーだったんですか!イサオさんがリーダーだと思ってたんですが、なんか想像と違って頼りなさそうですね!」
あの騒動で項垂れていた少女がリーダーだという事実を聞かされてベリエットが少し驚きつつもそれを顔には出さず、デリカシーの無いことを言うゼノルを軽く睨んだ。
「おい、お前は言葉を慎むと言うことは出来ないのか」
「あはは〜ごめんなさいベリエットさん」
「謝るのは俺じゃなくてこいつに……」
「あの〜わたしのことは大丈夫ですから、自覚してますし……それより何故ここに?」
険悪な雰囲気を感じて、後方にいたミエリが前に出て話を切り替える。
「今日は本能の洞窟を調査するんだろ?アレとの関連性をゼノルが調べていた時、たまたま俺もそばにいたんだ」
「はい!それで二人で色々話し合って、あの地下施設の穴の調査隊の出発と同時にこっちの調査を始めれば仮説が合っていた際に挟み撃ちに出来るんじゃないか?って考えたわけです!」
そこまで聞いて内情を知ったイサオが、ベリエットを鋭い視線で見ながら一歩前に出た。
「つまり……お前達は今日調査隊が入るから、それに合わせて俺達を今日の調査に無理やり連れて行こうとしているというわけだな」
「まあそうなるな、実際はこいつが『ダンジョン調査の方の準備は任せてください!』とか言ってたから任せてしまっただけでそんな事情は知らなかったが、まさかこういう意味だったとはな」
そこまで聞いたアフタレアが、どこか自信に満ちた顔でずいっと前に出る。
「まあ大体話は分かったぜ、アタシたちは解明者だ、事情がなくてもダンジョンに入るのが仕事だし、事情があるなら断る理由はないってな」
「そうだね、トカゲと同意見なのは癪だけど上手くいけばその危ない奴を仕留める事が出来るかもしれない、トカゲと同意見なのは癪だけど」
「内容を聞くかぎり、キッカケを作った私には断る権利は無さそうだな……私もその作戦に同行しよう」
解明者として話を受けたアフタレアとそれに便乗するシャラム、そして少し申し訳なさそうな顔をしながらエンロニゼも同意した。
「むー……」
「ん?レガナどうしたの?」
そんな意志が一つになった場面で一人籠の縁から顔を出して膨れているレガナにミエリが気付いた。
「みんなそのダンジョンっていうのに行くんでしょ?あーしはまだそんなの知らないし、置いていかれるんじゃないかって……」
「レガナ、もしかして一緒に来たいの?でもこれから行くのは怖い思いをした暗闇の場所と同じような所なんだよ?」
「でもみんなと一緒なら守ってくれるから大丈夫でしょ?あーしも行きたい!」
(ねぇ、この子ってさ……)
(一人で留守番が寂しいんだろう、さてどうしたものか……)
(ここは多分ダンジョンでも肩に乗せてるだろうリーダーに判断を委ねるぜ、ちなみにアタシはどっちでもいい)
(え!!わたし!?)
「なにヒソヒソ話してんの!ミエリおねが〜い、あーしもついて行きたい!」
「うだっ!?」
レガナの素直じゃない態度の裏を読み取った女性陣がヒソヒソと小声で相談会を開く。そんなメンバーの態度に不満を感じたレガナがせがみながらミエリの頬に突撃した。
「いたた……でも、レガナって戦えるの?戦闘が始まったらどうするの?」
「戦えない、戦闘とかそんなの知らない」
「まあ戦闘がメインじゃ無い専門職もあるからな、サポートが出来るなら解明者になるのは否定はせん」
「うーん……お試しで今回連れて行くけどぉ……危なかったら次からは留守番だからね」
「わかった!必ず役立ってみせるわ!」
ミエリの言葉にレガナの表情がみるみる明るくなる、そして決意を口にすると共に胸をドン!と叩いた。
「やっと話がまとまったみたいね、時間のかかり過ぎよ」
「え、アマユいつの間に……」
話の終わりと同時にカウンター側から聞き慣れた声がロビーでたむろっているミエリのパーティにかけられる。
ミエリがそちらを振り向くと、そこにいたのはミエリが初日から世話になっているギルド職員のアマユだった、その背後にはいつもそそっかしい猫耳の職員のユーマルもいる。
「ベリエットから大体のことは聞いてるけど、貴方達ってば厄介事に首突っ込むのが好きなのね」
「別に好きで突っ込んでいるわけじゃ無い、だがこんな立て続けに不思議な事が起きている以上、解明者として放っておけないというのも本音だ」
「相変わらずお人好しね、まあそのお人好しでゼノルを引き取ってくれたから、私達としてはありがたいけどね」
「え、アマユもこの人のこと知ってるの?」
「知ってるも何もゼノル君はギルドじゃ結構有名人よ?彼の元いた区域じゃ嫌われてて、こっちでもその噂が広まってたからイサオが拾ってくれて助かったわ」
「おっさん、あんまこういうのに口に出したくないけど、知り合いは選んだ方がいいぜ……」
突然現れたアマユからゼノルの風評を聞いたビルセティ以外のメンバーの表情が若干曇る、それも織り込み済みなのかイサオは「やれやれ」と言いながらメンバーの方を見た。
「だから俺はこいつと二人で調査に行こうと思っていたんだ、今からでも断っていいぞ」
「いや、確かに友達選んだ方がいいぜとは言ったけどさ、どうせダンジョンの中で別れる時はおっさんとソイツが二人組になるだろうし、アタシはどうでもいいぜ」
「そうだね」
「ああ」
「あはは……ごめんね、イサオさん」
「…………全く、お前らは……」
「はいはい、おしゃべりはここまで、そこの妖精さんはあっちの端末で登録を済ませてきてね」
メンバーの無責任で適当な返事にイサオは大きく息を吐く、そんな中で手をパンパンと鳴らしながらアマユが割り込んで話を進めた。
「あ!そうだったね、じゃあわたしが手伝って……」
「ミエリはここにいて、あなたとは話があるの」
「あ、え!?そ、そうなの?」
レガナの連れて行こうとするミエリの後ろからアマユが声をかける、まさかの展開にミエリは酷く動揺した。
「なんの話かわからないが、それなら俺がついて行ってやる」
「いや、部外者にこんなことさせるのは忍びない、私が行ってくる。」
「いえ、これはパーティメンバー全員に関係ある話だから……ユーマル、ついて行ってあげて」
「はい!分かりました!」
ベリエットとエンロニゼがどちらが行くか言い合ったのち、アマユがユーマルに随伴を頼むとユーマルは裏声で返事をして、妙に気合の入った動きでレガナの後を追いかけて行った。
「あ、行っちゃった……」
「それで、聞いたところによるとあなたがパーティのリーダーなんでしょ?全く、パーティリーダーなんて私のアドバイスを無視して好き勝手やってるわね」
「なに?嫌味を言うためにわたしを引き留めたの?」
呼び止めておきながら、呆れるように頭に手を当てるアマユを見たミエリが眉間に皺を寄せる。
「違うわ、あの妖精で貴方達のパーティは登録メンバーの上限を超えるからクランとして登録しないといけないの」
「なに?クラン登録は十人からのはずだぞ?今はレガナを入れても八人のはず」
「あ!それなら僕がさっき仮登録したからだと思います!」
イサオの疑問にアマユではなく横にいたゼノルが答える。
「なに?お前いつの間に……」
「まだ申請の段階よ、とは言っても話を聞くにコロニーガードの部隊長からの依頼で特別な調査でダンジョンに行くんでしょ?それなら仮登録は必要よ」
そう言ってアマユがベリエットの方を見る、ベリエットも頷いている辺り本当の話のようだ。
「えー……でもアマユ、それが本当だとしてもまだ九人だよ」
「それがね、治療院の方から一人登録してくれ、厄介事は拾った人達に処理させてって、ミリナンからメッセージが届いたのよ」
そこまで聞いて、ミエリはあの地下施設から救出した奴隷の少女のことを思い出した。
「あ、もしかしてあの子……」
「なんだよ、思い当たる節があんのか?」
「どうやらお前たちが拾った子供のことらしいな、難儀だなお前たちも」
「うるさいぞドラゴン、どういうことだ?なぜ俺たちが世話をする事になってる?くそっ、俺が言って話をつけてくる」
「残念だけど今日は用事があるって、それに今から作戦か何かでダンジョン調査に行くんでしょ?それなら登録は必須よ」
「融通が効かないな、これだから公務員ってのは嫌いなんだ」
「私たちはギルド職員よイサオ、それにあんたたちのために私が怒られなきゃいけない理由はないの、だから言う事を聞いて」
「えーと、分かったよ、とりあえずそれしとけばいいんでしょ?」
「おいミエリ、簡単に言うけどなぁ……」
「いつもはリーダー判断なのに、こういう時だけ口出しなんて許しません」
ミエリの判断に口を出そうとするが、きっぱりと言い返されてアフタレアが口ごもる。
「それ言われたら何も言えないね」
「私は何かを言える立場では無いので黙っておく」
「大丈夫です、私はミエリを信じます」
各々メンバーも反論せずミエリの判断に従う。
「俺も反対はしないが……リーダーは定期的に金を納めないといけないんだぞ?それに手続きもしなくちゃいけない、大丈夫か?」
「お金に関してはなんとかするよ、手続きは……」
「それに関しては私も手伝うわ、この馬鹿一人じゃなにも出来ないでしょうし」
イサオの心配にミエリが言葉を濁していると、それが分かっていたようにアマユがため息混じりに答えた。
「あ、そうなんだ……ありがとう」
「どうでもいいわ、さてこのクラン登録証に必要な情報を書き込んで」
グダつくメンバーのやり取りに痺れを切らしたのかアマユが淡々と話を進める、彼女が既に準備を終わらせていたのもあってか、ミエリは彼女の指示で情報を書き込むだけで順調に事は進んだ。
「あとは名前だけ、このクランの名称を書けば完了よ」
「名前か……なんにしようか」
「あんまりダサいのはやめてよね」
「なるべく言いやすいものにしろ、これからいろんなところで名乗るんだからな」
「うーん、〇〇チーム……××グループ……しっくりこない」
「ミエリ、自分の思うままに付ければ良いと思います、私に名付けたように」
根を詰めるミエリを見たビルセティが心配して隣に寄り添う、すると何かに気づいたようにミエリが目を見開いた。
「……?どうしたんですか?」
「ストレンジャー・サークル……ストレンジャー・サークルにしよう!」
「ストレンジャー・サークル?なんだそりゃ」
「ストレンジャーって余所者とかよく分からない人って意味!謎を追い求めるわたしたちにピッタリじゃない?」
「いや全然、余所者なんてこの世界にあるものは全部他所からだし、よく分からない人ってビルセティのことだけじゃん」
「けど語感はいいな、お前らの言葉でも語感がいいかは知らないけど、アタシは気に入ったぜ」
「ふむ、私も良いと思うがサークルというのはなんだ?」
「サークルっていうのは同行会って意味、共に謎を追いかける秘密を解きたい者の集まりって意味で付けたの!」
「ええ……私は謎とかどうでもいいんだけど」
「俺もお前たちの謎には興味あるが別に謎を解くのが好きなわけじゃない、一応『円』という意味もあるからそっちで考えるとかっこよくは……ならないな」
「つまりよく分かんない連中の集まりって意味ね、貴方達にピッタリじゃない、早く書き込んで」
余計な一言を付け加えながらアマユが催促する、その様子からミエリ達とのやりとりが面倒になっていることが伺えた。
「はい、書き終わったよ」
「マジであの名前なんだ……」
ずっと難色を示していたシャラムが不本意そうに呟いた。
「やったー!できたよミエリ!これで私も解明者?になれるよ!」
「はいお疲れ様、名前はレガナさんね、それじゃ今から解明者登録を行うからこちらに必要な情報を書き込んで、ミエリのクラン登録と一緒に処理するから」
そして、タイミングを見計らったようにレガナが身分証を持って飛んでくると、アマユがそちらに向き直りレガナの前にホログラムパネルを出しながら説明をした。
アマユの指示に素直に従って事を順調に進めていたレガナだったが、当然あの箇所でペンが止まった。
「専門職?なにそれ?」
「お前にどう伝えればいいかわからんが、簡単に言うとダンジョン内でやる事とやれる事を決める項目だな」
「ふーん、やることを事前に決めるってへんなの、じゃあそのやれることってのを教えて」
「やれることなんて山ほどあるぜ、でもお前は戦えないんだろ?」
「うん、そうだけど?」
「じゃあそれ以外だ、お前罠を仕掛けたり、何か作ったりとかは出来るのか?」
(イサオさん、なんかアフタレアって面倒見良くないですか?)
(ああ見えて意外と世話好きなのだろう、シャラムが一人でほっつき歩こうとしていた時もあいつは必ず後ろから見守っていたからな)
「そこの二人は何ヒソヒソ話してんの?」
レガナの質問になるべく分かりやすく答えようとするアフタレアの姿を見たミエリが横にいたイサオに耳打ちする、そんな二人の姿を離れた場所から見たシャラムが訝しげに声をかけた。
「あ、ううん!なんでもない!」
「こらお前ら、話の邪魔だ、んでどうなんだ?」
「うーん、元の世界でも魔法で落とし穴とかは作ってたかな〜、片足を突っ込むくらいの大きさだったけどこけさせるには十分だったし、そういうことなら出来るよ!」
「それなら私の中の『森』でも出来るぞ……そもそも簡単なトラップなら私が行うからそれ以外を選択すべきだ」
「ていうかちょっと待て、お前魔法使えんのか?そんな素振り見せてなかったら使えないと思っていたぜ……」
「そんなこと言ったって、この世界じゃなぜか魔法が使えなかったの!」
「そういや、世界によってはここの魔素じゃ相性が悪くて発動出来ない魔法もあるらしいね、だからウィザードのマスターが開発した魔法が主力になってるんだし」
「ウィザードのマスターが作った魔法ならどんな性質の魔力でも発動できるみたいだからね、元の世界でも魔法を使っていたならレガナさんには魔法関連職をオススメするわ」
そう言ってアマユはパネルをフリックして、魔法特化の専門職の項目をレガナに見せる。
「とは言っても話を聞くに大した効果は期待出来なさそうですけどねー!攻撃魔法も敵味方に付ける付与魔法も魔力量と一回の出力が大事ですから!」
「ふんっ!」
「ふごぉっ!?」
突如放たれたゼノルの空気の読めない横槍に対して、イサオが素早く肘打ちを腹に打ち込む、流石に手加減をしているようだがそれでも彼の体躯から打ち出される一撃は小柄なポーターには重かったようだった。
「お前らなにやってるんだ、それにそこの妖精も調査隊が突入する時刻が迫っているんだからあまり遊ぶな」
「別に遊んでなんかいないよ!むー……ウィザード、ヒーラー、スペルマスター、エンチャンター、カースマスター、カードプレイヤー、ドルイド……この中で一番イタズラに使うと面白そうなのってどれ?」
「イタズラが楽しそうとはなんだ?まあ敢えて言うならばスペルマスター、エンチャンター、カースマスターと言ったところか、少なくともドルイドはお前には荷が重い」
「エンチャンターとカースマスターは共に付与魔法を扱う専門職ですね、敵か味方かの違いはありますが大体は同じようなものです」
「それ、エンチャンターとカースマスターの連中には絶対言うなよ」
「安心して、わざわざ言うようなことはしないわ」
レガナの質問にエンロニゼとアマユが答える。だがアマユが噛み砕いて言った説明にベリエットが釘を刺した。
「ふーん、じゃあスペルマスターは?」
「スペルマスターは……なんていうんですかね、戦闘以外ならなんでも出来ると言った専門職でしょうか、味方の手助けをしつつ敵の妨害も出来る……巷では器用貧乏と言われてますがイタズラが出来ると言う意味ではレガナさんの要望に一番近いかと」
「それなら……そのスペルマスターって言うやつをやるわ!ミエリをサポートできるように!」
「ミエリのサポート?そうですか、まあ……いいでしょう。私がミエリの身体能力を強化出来ない時はあなたがしてください」
ずっと黙っていたビルセティがレガナの言葉に反応してずずいっと前に出て来て、少し不愉快そうに言葉を口にする。
「え?ビルセティ、私の身体能力の強化って……そんなのいつしたの?」
「ミエリが一人でフェイクラムを陽動していた時です。口の中の触手で内部から筋力や反射神経を強化していたんですよ」
「ええ!?」
ビルセティの種明かしを聞いてミエリが一人驚愕する。
「なるほどなぁ、この間まで一般人だったヤツがあんな化け物とやり合えるなんでおかしいと思ってたぜ」
「よくもそう自信満々に後出しジャンケンできるね、トカゲらしい図々しさが出てるよ」
「なんだよ、嘘じゃねえよ、マジで最初からそう思っていたんだよ」
最初から疑問だったと発言するアフタレアの言葉にシャラムが軽蔑するような視線を送りながら反応すると、アフタレアもその顔を睨み返した。
「そんなわけで、私が側にいなかった時はミエリのサポートをお願いしますよ、妖精さん?」
(昨日のように私が『アレ』の指示を聞かなければいけない日がこれからも続く……その時はレガナや皆さんにミエリを任せるしかない……)
「なによその態度、安心しなさい!私がいるからにはこのパーティの洞窟探検も楽々よ!」
ビルセティの腹の内を気にする様子もなく、レガナが平たい胸をドンと叩いた。
「皆さーん!遅くなってすみませーん!」
その時、ギルドの入り口から聞き慣れた声がメンバーに掛けられた。
「あ、この声はユーエインさんだ……ね……ってえええ!?」
声に反応してそちらを振り返ったミエリの目に飛び込んできたのは、いつものシスター服に身を包み厳格で清楚な雰囲気を持っていたユーエインではなかった。
「はぁはぁ……ごめんなさい、ヒーラーの装備を付けるのは久しぶりだったので手間取ってしまいました〜……」
「ちょっとあんたはだれなのよ、というかなんて格好してんの!?」
遅れてやって来たユーエインのその姿は、支給される解明者のグローブとブーツこそ付けているが、肝心の胴体はヘソ出しで胸と股を最低限の布で隠しているだけの非常に布面積の小さいレオタード姿であった。
一応首にはチョーカーの様な防具をつけ、脚も白いニーソックスで覆ってはいるが肝心の急所はむき出しでお世辞にも今から命の取り合いをしに行く者の姿には見えなかった。
そんな姿に世界の新参者であるミエリとレガナは呆気にとられ、ただドン引きの表情を浮かべている。
「どうしたんですか?あ、初対面の方もいますね、それなら自己紹介を……コホン、ヒーラーのユーエイン、皆さんのパーティに合流しました」
アフタレアとベリエットの関係についてはムーンライトに思いつきで投稿を始めた「狼と竜の陽だまりfromストレンジフィールド」に書かれています。
BLに抵抗が無い方は見てみても良いかもしれません。