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ストレンジフィールド  作者: 大犬座
3章 ストレンジャー・サークルとコロニーの悪意
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3-22 次に進む者たち

本当に遅れて申し訳ありません

夏バテと仕事の忙しさにかまけてサボってました……

夕日がコロニーを照らす中、ミエリは重い足取りで宿への帰路を歩いていた。


「はぁ……」


ため息を吐いてトボトボと歩く彼女を後ろから二つの影が追いかけてくる。


「ミエリ!ちょっと待ってよ!」


「ミエリ、そんな状態で一人は危険だ」


追いついたレガナとエンロニゼがミエリに並ぶ、そしてレガナがミエリの肩に乗りエンロニゼが左側についた。


「その……なんだ、私が言える立場じゃないがあまり引きずるな、気を遣ってもらえるうちに気持ちを切り替えきらないといけないぞ」


「……うん」


「お、いたなぁ、おーい!」


ミエリとエンロニゼの静かな会話に割り込むように、どこかで聞いたことがある声が三人に掛かる。


「誰だお前は、ミエリの知り合いか?」


「あ!あんたはもじゃもじゃ!なんでここに!?」


それはミエリの服を仕立て、今日行く予定だった店の店主であるアルマニィだった。


「あたしゃこの地区で加工屋をやっているドワーフで名前はアルマニィだよ。あんたはエルフだね、そのいけすかない顔で分かるよ」


そう言って初対面にも関わらず、アルマニィはエンロニゼを睨んだ。


「そんなに睨まないでくれ、私の世界ではどの種族も仲良くやってたんだ、波風起こす気はない」


「ん?エルフとドワーフって仲悪いの?」


アルマニィとエンロニゼの会話に違和感を感じたミエリがその疑問を口にする。


「そうか、ミエリは知らないんだな、この世界じゃエルフとドワーフは仲が悪いというのが通説なんだ」


「原因は世界によって様々だが、あたしが聞いたのはのはありのままを良しとするエルフに対して、様々な加工物で世界に変化をもたらすことを良しとするドワーフは対立構造になっているからって理由だね、あたしはこいつらの生真面目さが鼻についているから嫌ってるんだけどさ」


「ふーん、あーしの世界じゃそういうの無かったからよく分かんないや」


「お前の世界の者達も皆仲が良いのだな……良い事だ、だがそういう世界だけではないんだ」


「分かんなくていいんだよこんなことは、ただこういうのもあるってことは覚えておきな」


各々の世界の複雑な事情を説明されて首を傾げるレガナに対して、二人は優しくも厳しい言葉をかける。


「ごめんアルマニィ、ちょっと今日はもう帰って寝たいんだ……」


「ん?元気ないね、どうしたんだい?」


「それが実は……」


ミエリの様子に疑問符を浮かべるアルマニィにエンロニゼが説明をする。すると、赤毛のドワーフはどこか納得したような驚いたような不思議な反応を見せた。


「なるほどね〜、表がなんか騒がしいから出てみれば人集りが出来ていたからさ、何か事件ならミエリ達が巻き込まれてないか心配だったけど、お前たちが長耳の愚行に付き合わされたのがキッカケで起きたんだな、ツイてなかったね」


「私は別にドワーフのことを嫌ってはいない、だがお前のことは嫌いだな」


アルマニィの露悪的な物言いに対してエンロニゼが不快感を隠さない声のトーンで返す。


「はっ、金に目が眩んで危ない橋を渡るやつに嫌われてもなんとも思わないね」


エンロニゼの態度を気にする様子もなくアルマニィが肩にかけた鞄から何かを取り出す。


「それよりミエリ、約束の品物だよ」


「あ……それ、もしかしてわたしの銃?」


アルマニィが差し出してきたのは、依頼していたミエリのハンドガンだった。


元の面影はほとんど無く、スライドはシルバーに変わっており、トリガーは指をかけやすいよう長く、グリップはミエリの小さな手でも握りやすいよう肉が薄くなっていた。


「ほお……私は銃の事は詳しくないが、これは相当手を入れているな」


「そうだろうそうだろう!エルフの割にはよく分かってるじゃないか」


エンロニゼの何気ない言葉に気を良くしたアルマニィが嬉しそうに笑うのをスルーしつつ、ミエリが銃を手に取る。


「これならナイフみたいに感触が伝わってこないね、ありがとうアルマニィ」


「褒めてくれるのはありがたいねぇ、けどそんな甘えた理由で銃を使ってたら痛い目見るから気をつけな」


「う、うん……わかったよ」


アルマニィの忠告を聞きながらミエリがホールドに付属されているホルスターに銃を収める。


「それはそうとさっきの話だとナイフも使ったんだろう?」


「えっ?そうだけど……」


「ならちょっとそれを見せてくれないかい?」


アルマニィの申し出を聞いてミエリが渋々ナイフを取り出した。


「ふむ、見せてごらん」


あまりナイフを見ないようにしてミエリがナイフをアルマニィに手渡す。


「やっぱり全然手入れしてないじゃないか!小さい錆がところどころ出ているよ!」


いきなり音量大きく指摘をするアルマニィの声に、三人が思わず耳を塞ぐ。


「と、言うわけでこれも手を入れさせてくれないかい?今ならオマケも付けるからさ」


「オマケぇ?もじゃもじゃ、あんた最初からこれが目的だったでしょ」


ニコニコと笑顔で取り引きを持ちかけるアルマニィを見たレガナが、眉を顰めながらその腹の内を看破する。


「いやそれがねぇ、銃の加工に使う機械類を引っ張り出した時に面白い物が出てきたんだよ、うちにあっても意味ない物だし、か弱い娘を守るなら使える代物だから貰っておくれよ」


「面白い物?もしや変なものを押し付けるつもりじゃ無いだろうな?」


アルマニィの掴みどころのない言葉にエンロニゼが不信感を募らせる。


「エルフには言ってないよ、それに心配しなさんな、とりあえず直したのを渡すから使って見てくれよ、駄目なら返品してもらっても構わないからさ」


「うーん、まあナイフはアルマニィに預けるよ、その秘密道具については見てから判断する」


「そうこなきゃ、じゃあ加工費として1200SFc請求させてもらうよ」


「はいはい」


アルマニィの取り出した機器にミエリが端末を当てると支払いが済んだことを伝える小さな音が鳴った。


「随分とふっかけるな、がめつい事をする」


「外野は黙ってな、あたしは価格相応の仕事はしてるつもりだよ」


「よし、じゃあお願いねアルマニィ」


「おぉーい!!お前らさっさと行くなぁー!」


ミエリが端末をしまった直後、遠くからイサオ呼びかける声が響いてきた。


「あ、イサオさん!どこ行ってたんですか?」


「どこ行ってただと?お前達が勝手に帰ったんだろうが」


息も絶え絶えになりながらミエリ達の前まで来たイサオにミエリが天然な発言をする、それに気を悪くしたイサオが語気荒めに言葉を返した。


「おや?お仲間が合流したみたいだね、じゃあ用は済んだし帰らせてもらうよ」


「正直なところ、あのドワーフの事ははっきり言って嫌いだな、ミエリもあんまり言うことを聞かない方がいい」


アルマニィがホクホク顔で機嫌良く手を振って去っていったのを確認してから、エンロニゼが真顔で不快感を口にしてミエリにも忠告をする。それに対してミエリはどうとも返せず「あはは……」とだけ漏らした。


………………


「おっ!遅かったな、どこほっつき歩いてたんだ?」


「イサオまで一緒じゃん、何やってたの?」


「ミエリ……?どうしたんですか?何やら顔色がすぐれないようですが……」


宿屋に戻るとシャラムの盾を回収しに行った三人が戻って来ており、宿のロビーで談笑していた。


ミエリ達が戻って来たのを確認した三人は、帰りが遅くなった事とミエリの表情が芳しくないのを見て、心配そうに質問責めに入った。


「落ち着けお前ら、実は……」


「なぁ!?通りがなんか騒がしいと思っていたら、お前らが原因かよ!?」


「はぁ〜……ホントよく突っ込もうと思ったね、生け捕りにされてたら地獄だったよ」


事情を聞いた三人のうち、アフタレアは声量抑えず驚き、シャラムが冷静かつ冷ややかな態度で呆れた。そして、目だけを動かしてエンロニゼを見つめる。


「うっ……分かってる、リーダーを危険に合わせた事は反省している」


「あ、あーしは止めようとしたんだからね!」


エンロニゼが深々と謝罪し、レガナは自分は悪くないと言うことを必死に主張している。


「ミエリ……」


そんな中、ビルセティだけが申し訳なさそうな顔でミエリに歩み寄る。


「ミエリ、私がいればこんなことには……」


「ううん、ビルセティは悪くない、わたしの覚悟が足りなかっただけ」


そう言ってミエリは一歩前に出てメンバーの中心に立って胸を張って高らかに宣言する。


「わたしはハスハマ ミエリ!このパーティのリーダー!大いなる目的の為に解明者になった根暗女子!」


姿勢そのままに前進をし、そのまま食堂へと入っていく。


「目的を達成するためにはこんなことでクヨクヨしてられないの!というわけでまずは腹ごしらえよ!」


「ミエリその動きなんなの……?もう!ちょっと待ってよー!」


オモチャの兵隊のようにぎこちない動きで食堂に入っていき、それをレガナが追いかける。そんなミエリの姿は些か滑稽だったが、それに対してツッコミを入れる者は誰一人いなかった。


「……ミエリ、大分無理をしているな」


「俺が長く引きずるなと言ったのもあるだろうが、皆に心配をかけたくないのだろう」


と、その時イサオの端末が鳴り、反射的にかけてきた相手も確認せずにイサオが応答する。


「もしもーし!イサオさんですかー!」


「…………何の用だ」


「さっきの騒動に関して面白い情報が手に入ったんで、真っ先に教えておきたかったんですよー!」


「何?そうか……今は周囲がうるさい、静かなところで掛け直す、その時はすぐに出ろよ」


「もちろん!僕がイサオさんからの連絡を無視するわけないじゃないですかー!それじゃあすぐにかけてくださいよ!」


「……切られたか……全く鬱陶しい奴だ、おいお前達」


「なにー?イサオ」


「ちょっと野暮用が出来た、お前達は先に行ってミエリの様子を見ていてくれ」


「分かりました。イサオさんも夜の外出はお気をつけて」


「ああ、行ってくる」


それだけ言うとイサオは宿の出口から外へと出ていった。


「なんか知らねえけど、えらい急いで出ていったなぁ……まあいいや、それよりも全くとんでもないことしてくれたなぁエンロニゼ、これはお仕置きが必要だよなぁ?今夜はベッドで可愛がってやらねえと」


「与えられる罰は甘んじて受けよう……だがそれは必要なのか?」


「いや全然、余計なこと言わないでよクソトカゲ」


「なんだよ別にいいじゃねえか、本人としても何かしらの戒めがあった方が気が楽だろうし」


「お前なりに気を遣ってくれているのはありがたいが流石にそれは無いぞ……まあ金を払ってくれるなら喜んでお相手するが」


「お、マジで?それなら喜んで払うぜ」


エンロニゼの申し出にアフタレアが目を輝かせながら素早く反応する。


「絶対やめて、パーティ内で春の売り買いが横行するとかあり得ないから」


「シャラム落ち着いて、アフタレアも冗談はほどほどにしてください、早くミエリの元へ向かいましょう」


調子に乗るアフタレアに対し本気の怒りの籠った目を向けるシャラム、そんな二人をビルセティが制止してやっと落ち着いたようで睨み合いながらも食堂へと入って行った。


「ふう、あの二人は仲が良いのか悪いのか分からないな」


「でも、沼地にいた時は二人とも楽しそうにお話しをしていました」


「……益々わからないな」


………………


「『本能の洞窟』?」


「はい!おそらくあの怪物の元凶は本能の洞窟に向かったんだと思います!」


夜のコロニーの路地裏、なるべく人の少ない通りを選んでイサオがゼノルと連絡を取り合っていた。


「あの地下施設はこの地区のダンジョン分布図で見ると本能の洞窟にかなり近い深さにあるみたいなんです!だからたぶん繋がってるんじゃないかと思ってるんですよー!」


「お前、夜なんだからもっと声は小さくしろ、あとそれを俺に言って何の意味がある?」


「そりゃ真実を確かめるためですよ!コロニーガードの人たちがあの施設の最深部を調査している間に僕たちで本能の洞窟から入って真相を確かめましょう!」


「そんなのお前一人で行け、俺たちを巻き込むな」


「いいじゃないですかー、それにあの洞窟って最近触手を使う不思議な人型のグロブスタの情報も出ているんですし」


「……なに?」


「知らないんですか?人形みたいな関節を持ち、内部から触手を出す不気味な生物が目撃されているんですよ!ちょっと前にその洞窟で何十人も被害が出てて、それもそのグロブスタが関係してるんじゃないか?って言われてるんですよー!」


ゼノルの口から飛び出した思わぬ情報にイサオが静止する。人形の外観と内部から触手を出すという特徴はビルセティやギルドの少年の種族、「シルクレンビス」の特徴そのままだったのだ。


「だから、解明者の責務を全うするために明日にでも向かいましょう!」


「…………分かった」


「おお!分かってくれましたか!」


「ただし、行くのは俺たちのパーティだ、お前は留守番してろ」


「いやー楽しみですねー!イサオさんとの冒険とは胸が躍ります!」


「おい、話を聞いてるのか?」


「じゃあ明日、ギルドで待っていますから!なるはやで行かないと真実が逃げて行きますからね!それじゃ!」


「…………切りやがった、本当にふざけた奴だ」

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