3-19 刃を通して感じる死の味
「!?ミエリ危ない!」
それが刃物の類いだと瞬時に理解したエンロニゼが素早くミエリと刃の間に入ると杖で降りかかる刃を受け止める。
エンロニゼは木製とは思えない堅さの杖で受け止めた刃を跳ね返すと素早くドルイドの秘術を唱える。
「森よ、彼の者に集え。」
すると杖から枝葉が伸びそれが触手のように動き闇討ちをした者を捕らえた。
「ひぃ!?な、なんなんだよ今日は!」
捕らえたのは……おそらくこの施設で働いていたと思われるボロを纏った盗賊風の男だった。
「貴様はこの施設の者だな?私達の質問に答えてもらう」
エンロニゼが男を絡みつく植物で締め上げながら低い声で問いかける。
「な、なんだよ!」
「ここはどういった場所だ?捕らえた人間をどうしている?」
「こ、ここは解体の観覧場だ!攫った人間や客が持ち込んだ奴隷を食糧に解体する様子を物好きに見せてるんだよ!」
事前に聞かされていた予想を全て混ぜ込んだフルコースにミエリが青ざめる。
「そうか、ではもう一つ聞くぞ?今この施設では何が起きている?」
「し、しらねぇ!いつも通りに営業していたら訳のわかんねえ奴が乱入してきたんだ!」
「訳の分からない奴……?コロニーガードか報酬目当ての解明者ではないのか?」
「違う!あれはどう見ても化け物だった!殺した連中をアイツは同じようなもんに変えてたんだ!」
その言葉を聞いたミエリの脳裏にビルセティの姿が思い浮かぶ、だがすぐに頭を振ってその考えを消す。
(ビルセティはシルクレンビスは吸収や抽出は出来ると言っていたけど、殺した相手を仲間にすると言ったらことが出来るとは一言も言ってなかった……つまりこれは別の何か……)
「そいつは今どこにいる?」
「お、奥の会場だ!俺は会場から逃げてこっちに来たんだ!それ以上のことは知らねえ!」
「ふむ、期待していなかったがとりあえず必要な情報は得られたな、お前にはもう用はない」
「やめて!エンロニゼ殺さないで!」
エンロニゼの低く無情な声対してミエリが反射的に割り込む。
「え!?ミエリなんでよ!こんなクズ殺しちゃえばいいのに!」
「えっとその……やっぱりまだ人が死ぬのを見るのは怖いの……だから拘束するだけに留めて欲しい」
「そんなこと言ってる場合!?生かしておく理由なんてない!さっさとやってよ!」
そんなやりとりを黙って聞いていたエンロニゼが「ふむ……」とだけ言い懐から何かを取り出す。
「そんなに殺したいのなら……レガナ、君がやればいい」
「えっ……」
レガナの表情が一気に青ざめる。
「ここに針のような暗器がある、急所を狙えばこれだけで殺せるぞ、軽いから君でも扱える」
そう言ってレガナに小さなアイスピックのような武器を渡す。
「うっ……うう……!」
レガナが武器を構えて男と睨み合う、男は植物に完全拘束されており喋ることすら出来ない状況だ、これならば素人でも急所を狙うことは造作もなかった。
「くっ……ふぅー!ふぅー!」
レガナは歯を噛み締めて荒く息をする、そして……
「う、うわああああ!」
レガナが武器を構えて突進する、が男の直前で止まりそのまま武器を落とす。
「うっ、うう……!あんたなんか大っ嫌い……!」
そのまま地面に落ちてへたり込むレガナをミエリが拾い上げ抱きしめる、エンロニゼはこうなることを予想していたのか軽く笑いながら武器を拾った。
「すまないな、確かにちょっと意地悪だった、だがこの世界では基本的に罪人を殺すという選択肢はないんだ」
エンロニゼが男に絡みつく植物を縄で縛り上げる際に邪魔にならない位置に変えながら二人に説明する。
「先程も言ったがここは誰もが不滅の存在だ、だから不要に殺しても蘇生して罰を与える、だが蘇生に失敗した時は?」
「消滅する……だけど復活するんだよね?再生の洞窟で」
エンロニゼの質問にミエリが答える。
「その通り、だから消滅してしまった時は罪人と取り逃がしたも同然なんだ、そんなリスクをわざわざ犯す必要はないという事で犯罪者は基本生け取りにする事が望まれている」
そう言って近くにある鎖と檻を解放した際にそのまま置いたのであろうロックのかかってない錠前を使い男を拘束する。
「安心しろ、これからコロニーガードが来てお前を確保してくれるはずだ、そこでじっとしてろ」
エンロニゼがそう伝えると男はどこからホッとしたような表情をした。
「という訳だレガナ、すぐに感情的になるのはよせ」
「うっ……わかった……」
「ミエリも及び腰になるのは分かるがいざという時は覚悟を決めろ、お前は頭が切れるらしいがその躊躇が皆やお前を苦しめるかもしれないからな」
「……うん、そうだね……でもやっぱり怖いし見たくは無いよ……」
「そうだろうな、お前は優しい人だと皆も言っていたからな……だが覚悟はしておくんだ」
「うん……」
ミエリの弱気な発言に対してはエンロニゼも気持ちを汲み取って柔らかな声色で対応する、そんな彼女の心遣いを理解したミエリは小さく頷いた。
「で、どうするの?この先はやばいのがいるんでしょ?」
話題を切り替えようと珍しくレガナから話を切り出す。
「そうだな……とりあえずここ一帯の生存者を確保しつつ待機して到着したコロニーガードと一緒に突入しよう」
「それが一番だよ、このメンツで化け物の相手なんて出来っこないし」
そう言いながら周囲を確認するミエリの視界に先ほども見た檻の中で蠢くボロ布が再び目に入る。
「あ、そういえば……これなんだろう?」
檻に近づき確認する、するとそれは……痩せ細った小柄な少女だった。
「女の子!?さっき路地裏に連れて行かれてたのって……」
「どうやらこの子の様だな、もしかしたらお前も殺されていた方がマシだったかもしれないぞ?これからの事を考えたらな」
エンロニゼはそう言いながら、冷たい笑みを浮かべて拘束した男を見下ろす。
「早く助けないと!エンロニゼ檻の鍵って壊せる?」
「任せろ、森よ、生の剛気を見せよ。」
エンロニゼの呪文に呼応し杖から出た植物が鍵を締め上げ破壊する。
「さ、これで……」
ミエリが檻の扉に手をかけたその時……
「あ、あがあぁぁぁ!!」
突如奥への扉が開き、男が飛び出してきた。
「え!?」
「た、助けて……」
「ミエリ危ない!森よ!穿て!」
エンロニゼが咄嗟に呪文を唱え、それに従って植物が男を貫いた、貫かれた男は暫くうめいていたが徐々に動かなくなる。
「あ、ありがとうエンロニゼ……」
「!?ミエリ!もう一人だ!」
その声の意味を一瞬理解できなかったミエリだが、すぐに振り返ると後ろには別の男が立っていた。
男の姿は普通の人間ではなく赤褐色の粘土に似た質感の物体が顔の半分を多い、それがそのまま右手にも螺旋を描いて巻きついていた。
「な……!」
「ミエリ!!」
ミエリは迫る男に危機を感じて動けなってしまう、だがそれと同時に頭の片隅ではエンロニゼの必死な声に応えなければ……という思いが生まれ、咄嗟に手に持ったナイフを素早く持ち替えて男の喉を素早く貫いた。
「ごぶぅ!?」
(あ、やばい)
自分のした事に今になって後悔をし、反射的にナイフを抜く。
すると男の喉から大量の出血が起き、そのままの姿勢でうつ伏せに倒れ、しばらくの痙攣のあと動かなくなった。
「…………あれ?あ……私……人……ああ!」
二秒間の出来事にミエリの意識がついて来れず今になって現実を認識し、ショックでナイフを落とす。
「ひ、ひぃ!いや……嫌ぁ!」
「ミエリ……」
「ミエリ、覚悟しておけと……言ったはずだぞ……」
どう声を掛ければいいのかわからず名を呼んでその場に滞空するレガナと、ただ忠告をした事を伝えるエンロニゼの言葉は、錯乱するミエリの耳には入らなかった。




