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ストレンジフィールド  作者: 大犬座
3章 ストレンジャー・サークルとコロニーの悪意
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3-18 地下へ

路地裏の先には隠されるような形で地下への入り口が作られており、階段の先の闇の中では微かだが生き物の活動音の様なものが聞こえてくる。


エンロニゼはその闇へと続く石階段にそっと触れると独り言を呟く。


「森よ、知らせよ。」


すると石階段の中で石を削り割るようなくぐもった音が響く。


「ちょっとエンロニゼ!先走るなんて自殺行為だよ!」


「しっ!ミエリ、今は下の状況を見ているんだ大人しくしてほしい」


エンロニゼの張り詰めたような口調に思わずミエリも口を閉じる。


「やばいな……何か肉を抉る音が聞こえる、この先は危険な場所かもしれないな」


エンロニゼは微かに冷や汗の様なものを掻きながらミエリに説明した。


「肉を抉るって……下で何が起きてるの?」


「連れ去った人間を拷問か食糧として解体か……少なくとも気持ちの良い事にはなってないだろうな」


それを聞いてレガナが「うっ……」っと小さく呻く、自身に起きたことを思い出しトラウマを抉られたのだろう。


「これ以上無駄に犠牲を出させない為にもさっさと制圧する必要があるな、コロニーガードが来る前に私が先行して連中を叩く」


「そんなの危険過ぎる、捕まったらエンロニゼだって……」


「心配するな、最悪挽肉にされても再生の洞窟で復活出来るからな」


「エンロニゼ、それは多分大丈夫じゃないよ……というか再生の洞窟ってなに?」


「再生の洞窟というのはいくつかの区域に点在するストレンジダンジョンだ、蘇生に失敗して消滅した者や回収されずに土に還った者が不定期かつランダムにその洞窟から復活するんだ」


「そ、そんな洞窟があるんだ……」


「そのためこの世界では完全な死は存在しないとされている、寿命で死んだ者も新しく産まれた同じ種族に記憶を継承して転生するからな」


(本当になんなんだろうこの世界は……)


「まあとはいえ、再生の洞窟で復活出来るタイミングはランダムだ、その間隔は消滅してすぐの時もあれば何十年も再生されてない者もいる、現に今も仲間が帰って来るのを期待して何年も洞窟に通い続けている者がいるからな……あまりそれ頼りには出来ない」


「そんな話を聞いたら大丈夫には思えないよ……それにわたしも今はナイフしか持ってないし無茶しないほうが……」


『あがあぁぁぁぁ!!』


話が平行線のまま二人がやり取りをしていると階段の奥から悍ましい悲鳴が微かに響いてきた。


「!?高い声……女性か子供だな」


「え!?そんな……くっ、やっぱり行こう」


「そう言ってくれると助かる」


ミエリとエンロニゼ、二人が得物を構えて階段の奥を睨む。


「あ〜もう最悪、捕まって陵辱とかされたら恨むからね」


「なんだ?貞操なんか気にしているのか?解明者なんてやっていたらそんな事気にできなくなるぞ」


「確かにそうだね、わたしもこの間スライムで卒業したし」


「ははっ、それは難儀だったな」


「あの〜あーしちょっと用事思い出したんだけどぉ……」


「レガナは戻ってていいよ、この先は危険だしわたし達だけで行くからここでイサオさん達を待ってて」


そうレガナに言うと二人は階段を音を立てない様ゆっくりと降りていく。


「え、ちょ、二人とも……もー!心配だからあーしもついて行く!」


羽から溢れる光の粒子を巻き上げながらレガナがミエリの肩に乗る。


「よしよし、わたしが必ず守るからね、だから静かにしててね」


そんなレガナの頭をミエリは優しく撫でる、それに対しレガナが黙って首を降るとミエリは再び前を向いて暗闇の中を進み出した。


………………


暗闇の中を抜けると天井から鎖のぶら下がる湿度の高い場所に出た。


「うーむ……奴隷市場か、それとも処刑を見せ物にしているのか、それとも精肉場か……」


「ぶ、物騒なこと言わないでよ……というかそんな場所なら捕まった時に楽に死ねなさそうなんだけど……」


「だから細心の注意はしないといけない、それよりさっき調べたから知っているんだがここと次の部屋までは誰もいないんだ」


「え?みんな奥に引っ込んでるってこと?」


「こんなやばい場所なら入り口に見張りがいるものだが何故か誰もいない、こんな状況は不自然だ」


「もしかしてあーしたちに気が付いてて隠れてるんじゃ……」


「その可能性もあるが……普通見つかったらコロニーガードと解明者の大群が押し寄せてくるのを想定してすぐに脱出するはずだ、報酬目当てで群がる者達に闇討ちなんてするだけ無駄だからな」


それを聞いたミエリとレガナが微妙な表情をした。


「とにかくだ、最大限の警戒が必要というのは変わらない、今からこの先の様子を見るから援護をしてくれ」


「分かった、わたしはエンロニゼの背後に立って周りを見るからさ、レガナは物陰に隠れて上から見張ってて」


ミエリの指示を聞いてレガナが羽の光が見えないように隠れて周囲を確認し、ミエリがエンロニゼと背中合わせで警戒する。


「よし……ミエリ、これは予想以上に厄介な状況かもしれない」


「え……?」


確認を済ませたエンロニゼの不穏な一言にミエリが不安を隠さない返事をする。


「この先で争った形跡がある、私達より先にこの不届きもの達を襲撃した者がいるようだ」


「え、でも私たちが地下に入ってから誰も出て行った様子はないよ?」


「それは当然だ、この奥では先程まで戦闘が行われていだようだ、つまり襲撃者はまだこの先にいる」


それを聞いたミエリが緊張で喉を鳴らす、先程のエンロニゼの言葉を聞く限り悪党狩りをする人間は正義感で動いていない、そんな想定が出来る以上不用意に接触するのは危険な可能性がある。


「この鉄扉の先からが主戦場だな、用意はいいか?」


ある程度進むと石壁の中にこのコロニーでは見かける事のなかった鉄製の大きな扉が現れる、その錆びてはいるが頑強な佇まいはこの先がこの施設の主題があるということを示していた。


「う、うん……というか正面から入っていいの?」


「確認したが動くものはごく僅かだ、私が先行するからお前達は後から入るんだ」


「いや、わたしが先に入るよ」


「な!?それは危険だ!」


「この場でちゃんと戦えるのはエンロニゼだけ……だからトラブルがあった時に犠牲になるならわたしの方が適任だし、仮にわたしに何かあってもエンロニゼが守ってくれるででしょ?大丈夫、ちゃんと警戒するから」


「随分と私を買い被るんだな……もし救出が困難だと判断したらレガナを連れて逃げるからな、それは理解してくれ」


「うんわかった、その時はレガナをお願いね」


(もしわたしが嬲り殺しにあっても、まだあの声が蘇生させるはず……それならわたしが前に出た方がいい)


ミエリがそんな希望的観測をしている間にエンロニゼがレガナを掴んで肩に乗せる。


「準備ができた、始めてくれ」


「りょーかい、んっ……これ重いね」


ミエリは体重より重いであろう扉を全力を出して僅かに開く、そして手頃な棒を拾うとそれを握った腕だけを隙間から突っ込んで周囲に罠や不意打ち狙いの出待ちがいないか軽く確認すると、今度は足を突っ張って更に扉を開いて中に入った。


「よし、周囲には何もいないよ」


後方に報告しながらミエリはホールダーで胸に取り付けてある端末のライトを起動しナイフを構える。


周囲を観察してみると、ミエリの足元には人が倒れていた。


「ひっ……!」


床には真っ黒なシミが広がっており、そのシミの原因の発生源となる倒れた人は既に動かなくなっていることからそれが何を意味しているのかミエリにも理解できた。


「は、はぁ……!はぁ、はぁ、落ち着け……既に化け物と戦ってるんだから何このくらいでビビってるの……!」


激しくなる呼吸を無理やり整え、落ち着きを取り戻すためにミエリは自分を叱りつける。


「だ、大丈夫だよ、人が何人か死んでるみたいだけど危険は無いみたい……」


ミエリの合図を聞いたエンロニゼとレガナが顔を出す、開いた扉の隙間はミエリの体型では入れたがエンロニゼの体型では胸や下半身がつっかえてしまうようで、普通に開いて中に入ってきたエンロニゼを見たミエリの眉間に皺が寄った。


「動くものの気配があったんだが……確かに何もいないな」


「ん?ねぇアレってなに?」


ミエリとエンロニゼが周囲を照らして見ていると、ふとレガナが奥にある物を指差す。


ミエリが照らすとそれは、大きな檻だった。


「檻か……おそらく攫った者を捕らえておくためのものだろうな」


ミエリがよく見ようとその檻の中を照らすと、そこにはボロ布のようなものが入っている。


「ねえあれって……動いてない?」


注意深く観察するとそれは……微かだが確実に動いていた。


「やっぱり!大丈夫ですか!?」


不注意に駆け寄るミエリ、するとその檻の前にある支柱の際からギラつくものが顔を出した。

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