3-17 不穏な陰り
「よしミエリ!キニャル屋に着いたぞ!」
「あ、あ……えーと、キニャル二つください野菜入りで……」
エンロニゼに半ば引きずられるように連れられて来たせいで目を回しているミエリが屋台のカウンターにしがみつきながら注文をした。
「うーん美味しい!やっぱりこれは野菜が入ってないとダメだよね!」
アルマニィの店へ向かう中、小さくちぎられたキニャルを頬張りながらミエリの肩の上でレガナが満足そうに声を上げる、その横ではエンロニゼが端末を弄りながらキニャルに齧りついている。
「エンロニゼ、前見てないと危ないよ?ここはやばい人多いんだから」
そんなズボラな姿を見たミエリがキニャルをちぎってレガナに与えながら注意をする。
「あー……すまない、今ちょっと手が離せないんだ、前に人がいたら教えてくれ」
「勝手なこと言わないでよ、はぁ〜……エルフってもっと人間とは違う神秘的な生物だと思ってだけどなんかイメージ壊れるなー」
「勝手なイメージを押し付けられても我々としては困るぞ……」
画面から目を離さずそんな事を言うエンロニゼに呆れつつもミエリが進行方向を見る。
「それで、このまま行けばあのもじゃもじゃの店に着くんでしょ?あーしはあんまり会いたくないなー……」
「ワガママ言わないの、一人で歩いてまたひどい目に遭いたくないでしょ?」
「うっ……」
トラウマを思い出しレガナが言葉を詰まらせる。
「何があったかは知らんがミエリはお前を心配してるんだ、そんな怯えるな……ん?」
そんな会話をしながら道を歩いていると、エンロニゼが突然立ち止まり路地の方を見る。
「どうしたの?って、あれは……」
不思議に思いミエリもそちらを向くとなにやら二人組の男がボロを纏った人物を鎖で繋いで引っ張りながら奥へと入って行くのが見えた。
「な、なによあれ……!?」
突然の非日常にレガナが動揺する。
「おそらく犯罪組織による人攫いだ、ミエリこの後に用事はあるのか?」
「無いけど……あの人を助けるの?」
「この世界は狂った価値観だが治安はしっかりしているからな、ああいう連中は野放しにはならないようセキュリティという部門がギルドに存在している、よく見かけるコロニーガードなどはセキュリティの管轄なんだ」
「治安はしっかりしてる?でも今目の前で人が連れ去れていたけど……」
「セキュリティの監視も全てに目が届くわけじゃない、それにコロニーガードにも真面目な者だけじゃなくロクデナシもいるからな、ワザと放置されている可能性がある」
「ふーん、どこも似たようなものね」
エンロニゼの説明を聞いていたレガナが座った目のまま口を開く。
「そんな時は我々解明者の出番だ、証拠を端末に記録し当事者を捕獲すれば多額の報奨金が貰える」
「そんなシステムがあるの?報奨金目当ての免罪とかありそうだけど」
「安心しろ、証拠に信憑性が無い場合は金は支払われないし間違っていた場合は罰則金を払わされるようになっている、ギルドがどれほどの技術で精査してるか分からないのにそんな危ない橋を渡る奴は少ない……はずだ」
「なんで最後で自信なくすの」
ミエリにツッコまれたエンロニゼが咳払いをして機を取り直す。
「ともかく、あれが犯罪組織だったならば現行犯で捕まえられる、私の懐事情的には見逃せないんだ」
「うーわ……でも犯罪者なら放って置けないね、わたしも酷い目にあったし、イサオさんやコロニーガードに連絡して捕まえよう」
正義感皆無で自分の都合を熱弁するエンロニゼにミエリは軽蔑の眼差しを向けつつも、自身やレガナの被害を思い出しエンロニゼの提案に乗った。
「まあ待て、人が増えたら私の取り分が減ってしまう、それに善は急げだすぐに行くぞ!」
そう言って男たちが消えた路地裏へと駆け出し隙間を覗いてそのまま中に入って行く。
「あ!待ってよ!せめてイサオさんに……」
ミエリは端末を取り出しイサオに連絡する。
「もしもし?」
「イサオさん?ちょっと大変なの!」
「なんだ?一体何があった?」
「さっき路地裏に入っていく怪しい人たちを見つけたんだけど、人攫いだと言ってエンロニゼが捕まえるために一人で突っ走って行ったの!」
「なに!?場所はどこだ!すぐに行く!」
イサオに現在地を知らせるためにミエリが周囲を見渡す。
「えーと、西の商業地区って地図に書いてある!そこの三階建の武具屋とアクセサリーショップの間!」
「分かった!こっちでコロニーガードを呼ぶからその場に待機しろ!すぐ行くからな!」
「切られた……よし、わたしたちもエンロニゼを追おう」
「え?おじさんを待たなくていいの?」
通話を一方的に切られたミエリはすぐにエンロニゼの消えた裏路地を見つめて追跡しようとするがそれにレガナが疑問を呈する。
「そうは言ってもエンロニゼ一人じゃヤバいだろうしせめて様子見くらいはしないと」
そう言ってミエリも裏路地に消えて行った。
………………
一方、沼地を行くシャラム一行はジェインズ達から離れ三人で鎧と盾の捜索をしていた。
「なあシャラム、あとどれくらい歩きゃあいいんだろうな」
「私が知るわけないでしょ、ただでさえ緊急事態で急いでいたのにそれに加えて迷っていたんだから」
そんなことを言いながら当てもなく彷徨っている二人をビルセティが後ろから追従する。
シャラム達もある程度脱出した時の方向を覚えてはいるがそれも大体の目星にしかならず、結局足で探すしか方法がないのだ。
「まあ退屈な時間も続きそうだし、ビルセティちょっといいか?」
「はい、なんですか?」
「お前、なんであんな嘘をついた」
「……嘘とはなんのことでしょうか?」
「しらばっくれてもバレバレだよ、あんたあんなにミエリにベッタリだったのにいきなり忘れ物したって別行動し始めたら怪しいって」
「アタシたちみたいに三日も忘れ物を放置するほど抜けてるようには見えないからな、別の目的があるんだろ?ミエリに内緒にしたい目的がな」
「やはりバレましたか」
「当たり前だろ、なんで洞察力のあるミエリが気づかないのか不思議なくらいだったぜ」
「あの子って時々抜けてるからね、それにビルセティの事を本気で信用してるのかも」
「それで?あっさり白状するってことは大した用事じゃないんだろ?話してみろよ」
「すぐに白状したのはもうシラを切れないと思ったからです、信用も失いたくないですし……私は今カデヌラーデという謎の物質を探しています、お二人はご存じですか?」
ビルセティの言葉に二人が一瞬固まる。
「……それ、あの少年からの頼みなの?」
「詳しくことは話せません、ですがその態度……やはり特別な物のようですね」
「はっきり言ってお前の探し物はかなりヤバいもんだ、アタシたちは手伝えねえ」
「大丈夫です、やはりおいそれと手に入れるのは危険なようですね、これは私が一人でやるべきことだと思ってますのでお二人は手出し無用です」
「言われなくてもそんな明らかにやべえ話に首突っ込まねえよ、見つけてもお前には言わねえ、ずっと探してろ」
「一つだけ聞かせて?それってミエリのためなんでしょ?あんたが必死になるのはあの子関連だけだからね」
「まあ……その通りです、色々察していただくのはありがたいですがこの事はミエリには内密にお願いします」
「はいはい、まあみんなに言ってもややこしくなるだけだから私たちからは口火を切らないよ」
「仕方ねえな、今んところお前は信用できるから今は黙っててやるけどあんまり怪しいことはすんなよ?」
それだけ言ってシャラムとアフタレアが歩き出し小声で話し始める。
「何探してんのか気になってはいたが……よりにもよってカデヌラーデかよ、あんまりアイツのこと嫌いじゃねえんだけどギルドにいたガキが関わってるなら手伝えねえな」
「どう考えてもヤバいからね、私の鎧にも使われてるって事は黙っておくに越したことはないね」
そう話ながら先を急ぐ二人の後ろをビルセティが周囲を見渡しながらゆったりとついて行く。
コロニーではミエリ達に危険が迫っていることも知らずに……
名称だけ登場している謎物質「カデヌラーデ」に関しては別で書いている作品『カデヌラーデの隷たち』にてある程度説明されているので気になった方はそちらもお読みいただけると幸いです。




