3-14 落ち着かない仲間たち
「ん……あ、朝だ……」
ミエリが目覚めると既に日が昇り、明るい日差しが窓からミエリの顔を照らしていた。
「おはよう御座います、ミエリ」
声のする方を見るとビルセティが椅子に座ってこちらを見ていた、どうやら真横に立っている事を禁じたため座って遠くから眺めるにとどめているようだった。
「……何してたの?」
「ミエリの様子をずっと確認していました、大丈夫です、ここから近づいていませんので」
ビルセティにとって何もしないというのは自分の時間を持つということではなく、ミエリの側でいつ命令されても動けるように待機するということのようだ。
彼女なりに何がいけなかったのか考えて気を配っていたのだろうが、力無く椅子に座りいつもより生気のない目でこちらを見られるのは側に立たれる以上に怖いとミエリは思った。
(何かわたしたちが寝ている間この子が暇を潰せるものがあればいいんだけどな……)
「ふわぁ〜……もう朝ぁ〜?……ひっ!?ビ、ビルセティ……?もう驚かさないでよ!」
二人の声でレガナも目を覚まし大きく背伸びをする、そして暗闇に座るビルセティを見て悲鳴を上げた。
「なに〜?どうしたの〜……うわー!?ビ、ビルセティ!?」
「いやコントかい……」
今度はその声に目を覚ましたシャラムがビルセティを見て仰天し、思わずミエリがツッコミを入れた。
「なんだ……?お前達静かにしろ……」
「何やってんだよ……エンロニゼが起きちまうだろ……」
そして、またもや両隣の部屋から壁越しにイサオとアフタレアのクレームが入った。
………………
「全く、昨日の今日で騒がしいヤツらだな」
「えへへ、ごめんなさい」
「いえ、ミエリは悪くありません、今回は私の責任です」
場面は変わり宿の食堂、今回はビルセティも椅子に座っており六人が一つのテーブルを囲っている。
「え〜〜!何このキニャル!野菜が全然入ってないんだけど!?」
一番小さい体格でテーブルをちょこまかと動いているレガナが周りに響く音量で叫ぶ。
「ちょっと!静かにして」
「でも、これはミエリがくれたキニャルと違ってお肉だけで味気ない!」
「ワガママなヤツだなぁ、これがあのビビりまくってたフェアリーなのかよ」
朝から大皿に盛られた山のような朝食をかき込みながらアフタレアが呆れたように言う。
「昨日紹介した時はレガナも頭ぼんやりだったから結構大人しく見えただろうけど、基本この子はうるさくて自分勝手で人見知りだよ」
「それはあんたが驚かせたからじゃないの!ミエリ〜また野菜入りのやつが食べたい」
「はいはい、分かったよ」
「ミエリ、レガナに甘すぎますよ」
レガナのねだりにミエリが母性のある声で反応すると、すかさずビルセティの指摘が入った。
「となるとミエリたちはお出かけか、気をつけて行ってこいよ、アタシたちはちょっと野暮用を済ませてくるぜ」
「え?アタシたち……?誰とどこに行くの?」
「実はさーコイツが沼地に鎧と盾を忘れててな、今日ジェインズたちが沼地の回収任務に行くらしいからそれについて行って回収して来ようと思ってな」
「それはあんたを乗せるために置いて行ったものなんだけど?それに昨日の夜までアンタも忘れてたじゃない」
調子のいい事を言って指差すアフタレアに真横にいるシャラムは指を跳ね除けながら不機嫌さを隠さず言い返す。
「うぇへへ……まあそうなんだけどな、だからアタシのために一肌ならぬ一着脱いでくれたコイツについて行って手伝おうと思っているんだ」
「別にあんたがいなくてもいいんだけど、その心意気は買ってあげる」
「……その回収任務、私もついて行って良いですか?」
舌を出して笑うアフタレアとそれにつっけんどんな返しをするシャラムの会話を黙って聞いていたビルセティが急に意外な申し出をする。
「え?ビルセティなんで?」
「いえ、ちょっと落とし物をしていたようで昨日探しに出かけたのですが見当たらず、もしかしたら沼地に忘れてしまったのかもしれません」
ビルセティの思わぬ発言にミエリが驚き問いかけるがビルセティの返答に「ほぉ〜ん」と言いながら納得したように頷く。
(そういえば、昨日もそんな感じのこと言ってたな……)
そう思いミエリが昨日の夜のことを思い出す、それは宿に戻った直後のことだった。
………………
「お、お前ら遅かったじゃねえか」
ミエリたちが宿に到着しロビーに入るとアフタレアがソファーに座って端末を弄っていた。
「何やってんのトカゲ女、ここはみんなの場所だよ」
「ん〜……っと、休憩用のソファーに座ってるだけなのに酷い言いようだな、それよりミエリのその一張羅似合ってるぜ」
端末をしまい飛び上がるように立ち上がって背伸びをした後、アフタレアはシャラムの言葉に反論し、ついでにミエリの服のことを褒めた。
「ありがとうね、というかなんでアフタレアだけここにいるの?他の二人は?」
「エンロニゼもおっさんも部屋にいるぞ、アタシはここでなんとなくくつろいでただけだ」
「やっぱり公共の場を独占してたんじゃない、よく反論できたわね」
アフタレアが悪びれもせず言った言葉にシャラムが機嫌を悪くしているとカウンター横の階段からイサオとエンロニゼの二人がタイミングよく降りてきた。
「ん?お前達なんでここにたむろしているんだ?」
「あ、イサオさん!いやその……わたしたち今帰ってきたんですけどアフタレアがここにいて立ち話してたんだよ」
「何をやっているんだ、こんな場所でたむろっていたら他の人の迷惑だろう?」
ミエリの話を聞いたエンロニゼが呆れたように言う。
「そうは言ってもエンロニゼちゃんの邪魔にならないように席を外してたんだせ?すごい盛り上がってたからな」
「そういえば……エンロニゼ、お前なんであんなに叫んでいたんだ?そこだー!とか嘘だろう!?とか、流石に迷惑だったぞ?」
「ギクゥ!?……そ、それは今は関係ないだろう!?それにアフタレア!お前は何も言わずに勝手にどっか行ったんだからな!」
二人の証言は本当のことだったようでエンロニゼがひどく焦りながら話を逸らす。
「う、ううん……今度はなにぃ〜?」
「あ、エンロニゼが叫ぶから起きちゃったじゃん」
「なんだ?それはフェアリーか?」
「おい!これってあの時蘇生したフェアリーじゃないか!?」
「ひぅ!?」
エンロニゼの叫びに目を覚ましたレガナが起き上がりそれにイサオとアフタレアが反応するが、アフタレアが発した大声に怯えてまたもやミエリのうなじに隠れる。
「ちょっと、この子は大声を怖がるんだから無闇に騒がないでよね」
「そ、そうなのか……すまなかったな」
「あ、あんたも大声出してたでしょ!あーし覚えてるんだからね!」
シャラムが上から目線で注意をし、それについてアフタレアが謝罪するがレガナがすかさず初めてあった時のことを暴露する。
「チッ……」
「おいシャラム、アタシが大声出したことは事実だからなにも怒ってねえけどよ、その舌打ちはちょっと良くないぞ」
「まあまあ、それよりこの子はアフタレアの言ったとおりあの時のフェアリーだよ、名前はレガナ」
「ほぉ〜……お前たちフェアリーなんか見つけていたのか、しかも見たことのないタイプだ」
「俺と共にブラックゾーンに入った時にシャラムが見つけたんだ、まさかお前達が見つけてくるなんてな」
皆がフェアリーを興味深そうに見つめるがそれが怖いようで、レガナがさらにミエリの首から服の中に入り隠れようとする。
「あんまり見ないであげて、それにちょっと今は弱ってるみたいだからもう寝かせるね」
そう言ってミエリはレガナを摘み上げ手のひらに乗せると頭を優しく撫でる。それが気持ちいいようでレガナはすぐに表情がうつらうつらとなり眠ってしまった。
「よし、とりあえずわたしとシャラムの部屋に置いてくるね」
「そうしてくれ、そういえば今朝言ってたポーターの件はもういいぞ、こっちで情報を掴めたからな」
「あ!ごめん、すっかり忘れてた……」
「そんなことだろうとは思っていた、もう終わったことだから気にするな」
「ごめんなさい……」
「じゃあ俺たちは先に食堂に行ってるぞ、もう飯の時間だからな」
「はいはーい、じゃあ後から行くね」
そう言ってメンバーを見送るミエリの様子を側からビルセティが見つめている。
「ミエリ、一つお願いがあるのですが」
「え?どうしたのビルセティ?」
「実は忘れ物をしてきたようなので取りに行ってきてもよろしいでしょうか?」
「え!?それならすぐに取りに行った方がいいよ!大丈夫、みんなにはわたしから言っておくから!」
「ありがとうございますミエリ、すぐに戻ってきます」
そう言ってビルセティはすぐに宿の出口へと走り出した。
………………
「結局あれから見つからなかったんだね〜……でもそれならわたしも一緒に探してあげるよ、どんな物なの?」
「えっと、金属製のブレスレットなんですが……その、お気遣いは結構です私一人で探せますので」
「えー……みんなで探した方が効率いい気がするけどなー」
「まあいいじゃねえか、アタシたちがいれば十分だよ」
「こっちとしてはビルセティが来てくれるならスライムとかの心配しなくていいからありがたいし、何も文句無いよ」
「お二人もこう言ってますし、ミエリはレガナと一緒に買い物を楽しんで来てください」
シャラムとアフタレアの後押しもあってここで捏ねる意味もないと察したミエリは渋々頷いた。
「どうやら話は固まったようだな、俺は組合に行くから先に失礼するぞ」
「え?イサオさんも何かしに行くの?
」
早々に立ち上がるイサオにミエリが意外そうに問いかけた。
「お前達にも昨日話しただろう、例のポーターのやつだ」
「ああ、蘇生院から勝手に抜け出していちゃついたポーターの話か、おっさんも朴念仁のふりしてやり手だなぁ」
「不愉快なことを言うな、それより何故治療院の前で会った事を知っているんだ」
「いや、あの時以外一緒にいたでしょ、その次の日にそんな話が出るなら誰でもわかるよ」
イサオの驚く様子に対しシャラムが呆れるように言うが、ミエリには分からなかったようで一人目を丸くしていた。
「それにしてもあの時は何故一人で出て行ったのだ?私に自己紹介をしてくれなかったのは寂しかったぞ」
「いや……女同士で和気藹々としている中に入るのはしのびないと思ったんだ」
「……?何を言ってるんだ……?」
イサオの掴みどころのない言葉にエンロニゼが首を傾げる。
「あー……エンロニゼ、このおっさんこういう変なところあるからあんまり真剣に考えなくていいぜ」
「イサオさん、あの場面はそういう性癖を出していい場面じゃなかったよ……」
「そんなことはどうでもいいの!ミエリ早く食べに行こ!」
食器が空になっているのに会話を続けるメンバーに痺れを切らしたレガナが大声を出す、どうやら本当に野菜入りのキニャル以外口にしたくないようでミエリのスープをスプーン一杯飲むだけしか彼女は朝食を食べなかった。
「はいはい、みんなも予定が決まったしわたしも銃を取りに行くついでに買い物してくるね」
「えーとミエリ、私の予定はまだ決まってないのだが……その、ついて行ってもいいか?」
「え?エンロニゼついてくるの?」
「まあ、その……金がないからな、昼食を奢ってくれないか?」
「お前って見た目の割に結構図々しいよな、アタシの部屋の棚ももうお前の物で制圧されてるし」
「お前が使ってなかったのだから別にいいだろう!?すまないミエリ!今回だけでいいんだ!」
アフタレアの指摘に動揺しつつもエンロニゼはミエリに手を合わせて懇願する。
「貧乏人は辛いねー、まあビルセティは今日私達と一緒だし守ってくれる人は必要なんじゃない?」
「あ、そういえば……エンロニゼ、昼食奢るから今日はわたしの用心棒してくれないかな?」
「そんなのお安い御用だ!よし早速行くぞ!」
そう言ってミエリを掴むと足早に宿の出口へとエンロニゼが向かう。
「え、あ、ちょっ!そんな急がなくても!」
「キニャル屋さんへれっつごー!」
困惑するとミエリとノリノリのレガナの声が外へと消えて行く。
「全く、忙しねえな」
「ふっ、新メンバーとリーダーが交友を深める機会と考えればいいだろう、さて俺も行ってくる」
そう言ってイサオも立ち上がり、ミエリ達の分の食器までカウンターへと持って行ってそのまま出口から出て行った。
「リーダーねぇ……このパーティもどんどん膨れ上がっていくな、アタシもまだ抜ける気はないからこれ以上取り分が減るのは勘弁だな」
「まあまだ七人だしこのコロニーは人が少ないから食い扶持なら困らないでしょ、たまたま入りたいって人が立て続けに来たからここまで増えただけだし」
「でもよぉ〜、十人以上になったらクソ面倒な手続きがあるし急に増えたから正直不安だぜ」
「まあね、十人になったならクランとして登録しなきゃならないし、これ以上メンバーは増えて欲しくはないね」
「抜けてくれ、なんてそんなこと言えねえしよ、どうなっちまうのかなぁ……」
「もしもの時は私が抜けますので心配は要りませんよ」
いつの間にかアフタレアの横にいるビルセティがいきなり話に入ってきた。
「うおわ!?いきなり近づいてくんなよ!というか、お前はミエリのお気に入りだろうが、お前が抜けるのが一番あり得ねえっての」
「もういいじゃん、それよりジェインズ達を待たせる訳にはいかないからさっさと出よう」
「おいおい、さっさと行くなよ」
そう言って立ち上がるシャラムをアフタレアが急いで追いかけ、その後ろをビルセティが静かについていく。
(このタイミングでダンジョンに行く話が出たのは幸運でした、私が沼地を彷徨っていた時はあのような石は見かけませんでしたが、なるべく可能性がある所は調べに行った方が良いでしょう)
そんな事を考えながら宿を出た彼女に黒い雲から顔を出した陽の光が降り注いだ。




