3-12 強引なドワーフ
遅くなりました……
実生活の都合と企画に参加する作品を執筆していたら一週間以上投稿してませんでした……
本当にごめんなさい
「ほら見てごらん、改心の出来だ」
「見てごらんと言われても……何も見えないんですけど」
薄暗い作業場の真ん中を指差すアルマニィの自信に溢れた態度に対して、何も見えないミエリは確認しようと目を細めるが結局はっきりとは分からず不満をこぼす。
「まあ見えなくてもしょうがない、ヒューマンはあたし達と違って暗闇での視界がきかないからね、今からライトアップするからそこで待っていろ」
(分かってたんなら先にやってよ……)
アルマニィが照明をつけようとウキウキで走り去る後ろ姿を見ながらミエリが心の中で文句を言った。
「よーし刮目せよ、これがあたしの作品第537号だ!」
それは、概ねデザイン画の通りの出来だったがいくつか手を加えられており、急所を守るプレートはレースのリボンで上手く隠していたり動きやすいように肩の部分が空いているほか、スカートにもスリットが入っている。
そして、その肌を晒している肩やスリット部分には網のような虹彩模様が反射し特殊な技術で保護しているのが遠目からでも分かった。
「わぁ……カワイイ……」
「だろう?私の作るものはいつも傑作だからな」
ミエリの声から感動が溢れる。そんな彼女のリアクションに満足したのかアルマニィがフフンと鼻を鳴らす。
「早速袖を通してみてくれ、キツイとか緩いとかの部分があるなら修正してやるからちゃんと言いな」
そう言ってアルマニィが自分たちが入ってきたのとは別の出入り口を指す。
「試着室はあっちだ」
「あ、ちゃんとあるんだね、それじゃあ行ってくるよ、レガナはここにいてね」
テンションが上がっているのか、ミエリは籠を地面に置くと若干早口でレガナに一言告げながら彼女の頭を撫でた。
「……わかった」
「ミエリ、私も手伝います」
「いや、ビルセティはここにいていいよ」
試着室へと向かうミエリについて行こうとビルセティが申し出るが、すかさずミエリが拒否する。
「どうしてだ?一人でも着ることが出来るように作ってはいるが、女の子同士なんだから手伝ってもらえばいいじゃないか」
「アルマニィさん、この世界で暮らしているのに同性だから安心なんてよく言えますね……これならイサオさんに手伝ってもらった方がまだ安心だよ……」
ミエリがビルセティの目を見ながらテンション低めにそんなことを言う、彼女を見るビルセティの目は獲物を見据える猫科の猛獣のようにギラついていた。
「……わかりました、ではここで皆さんと共にお待ちしております」
「聞き分けがよろしい、では行って参ります」
ビルセティが折れてミエリを見送る、その表情は少ししょんぼりしているがそんな彼女にふざけた軍人っぽい口調でミエリが敬礼をしながら返事をすると、踵を返して試着室の中へと消えていった。
「ミエリどこか楽しそうですね、私がいない方が嬉しいのでしょうか……」
「そんな訳ないだろ、多分お前が落ち込んでいたから戯けて見せただけだろう」
そういってアルマニィが項垂れるメイド人形の肩に手を置く。
「もっとも元気づけようとしているというより煽ってるようにあたしには見えたけどな、あいつは元の世界でも友達はいなかったろうな」
そう言ってケラケラ笑うアルマニィをレガナが籠から顔を半分だけ出して見つめる。
「ん?どうしたんだい妖精さん?そんな怖がらなくてもいいぞ」
「あんた一体何なのよ……こんな毛むくじゃらの化け物初めて見たわ」
「おや?もしかして新入りかい?結構傷つくからあたし以外の奴にそんなこと言ったらダメだぞ」
「ミエリから聞いたのですが、この子はまだこの世界に来たばかりのようで、何も知らずに蘇生院から飛び出したせいで大変な目に会ってしまったらしいのです。だから心開くまではそっとしておいてください」
そう言われたアルマニィは黙ってレガナから距離を取り、ビルセティが籠を抱える。
「おーい、みんな置いていくなんて酷いよー……」
今になってシャラムが力無い小走りでやってくる、悲しい表情をしているが誰もそれを気にする様子はない。
「げっ……あーしに近づかないでよ……」
「ごめんねー……テンション上がりすぎて大声出しちゃったよ、そんなに怖がらないで」
「あんたドラゴンなんでしょ……?ミエリが言ってたよ、それに姿形は人間だけどドラゴンの気配がするもん」
「ほお、ドワーフは知らないのにドラゴンのことは詳しいんだな、ということはそういう世界から来たのか」
レガナの発言からアルマニィがざっくりとした推測を立てる。
「へ?ドワーフなら知ってるよ?ここにドワーフなんていないのに勝手なこと言わないでよ」
「いや……あたしはドワーフなんだが」
「え……?冗談でしょ!?確かにドワーフはみんなもっさりしてたけどここまで化け物じゃなかったわ!まだ人間みたいな姿よ!」
「ちょっとアルマニィ、あんたみたいなタイプのドワーフは珍しいって散々言ってるじゃん、いい加減認めなよ」
「そんなわけないだろう、そもそもお前たちの話を聞くに他の世界のドワーフは髭面のオヤジなんだろう!?それでどうやって繁殖するんだね!?」
「おまたせー!って……どうしたのみんな?」
「いやアルマニィがさ、自分のようなドワーフが標準だって言い張ってレガナをびっくりさせたんだよ」
「あー……わたしもドワーフといえば小さいおじさんのイメージがあるかな、アルマニィさんみたいな獣人っぽい見た目のドワーフはわたしは初めて見ましたよ」
「むー……」
旗色が悪くなったせいか、アルマニィの態度が露骨に悪くなり小さく唸りだす。
「それよりもミエリ、その姿とても素敵です」
「うん、似合ってるじゃん、私はすごく好きだよ」
「うへへーやっぱり似合ってる?さっき鏡で見た時も最高じゃんって思ったんだよねー」
そういってミエリが背面をみんなに見せる、腰のあたりには大きなリボンが付いておりミエリが動くたびにそれがヒラヒラと揺れる。
その上辺りには何やらデバイスのようなものがついていてそれから服の中に補助骨格のような物が伸びており、それがミエリの姿勢を補正しているのが分かった。
「言っただろう会心の出来だって、もう用は済んだだろう?さ帰った帰った」
機嫌を悪くしたアルマニィはミエリ達のやりとりを雑に流して作業場から彼女達を追い出した。
「わわっ!ちょっと!」
「ごめんってアルマニィ、そんな拗ねないでよ」
「今から次の依頼の為にここを掃除するんだ、先ずは大きなものから片付けないとね」
アルマニィに押し出されるミエリとシャラムの後をビルセティが籠を持ってついていく、そしてカウンターまで着くとドワーフの少女は二人を蹴り倒す。
「痛った〜ちょっと!客に対してその態度はなに!?」
「もう店じまいだからな、今この時点で店にいるのは客じゃなくて冷やかしだ」
「性格悪いですね、この方も友達はいなさそうです」
「うう……あ!そういえばアルマニィさん、このショーケースの中って何ですか?」
倒れた際に顔を擦ったのか頬を撫でながら起き上がるミエリの視界に例のショーケースが入ってくる、機嫌を直す意味を含めてミエリがそれについてアルマニィに尋ねる。
「それか?それはカードプレイヤーという専門職の連中が使う『アルカネラ』って名前のカードだよ、それと同じようなカードで50枚の紙束……デッキというらしいが、それを作ってそれで戦うんだ」
「へー……なんか不思議な専門職ですね」
「ここじゃ人がいないから全く見ないが他のコロニーじゃカードプレイヤー同士の対決も盛んに行われているぞ、シヴィリアンはスポーツやエンタメが主な娯楽だが解明者連中の娯楽はアルカネラかブラストコンテナーかツインランかってくらいそればっかりだから覚えておいて損はないよ」
「へ、へぇ〜わかりました……」(ブラストコンテナー?ツインラン?)
「そういえばカードの横には銃の改造パーツが置いてあるね、これってどこで手に入れたの?」
「カードの横にあるやつか?これは解明者を引退した奴から買い取った物や自分で作ったやつだよ、ここじゃガンナーはやれないからショーケースのこやしになってるけどな」
「改造パーツ?よくわからないけどこれって銃をバラバラにしたものじゃないの?」
「全く、仕方ないとはいえ素人はこれだから困る、これはお前たちが使ってるハンドガン『α12』のカスタムパーツだ、これに変えるだけでお前の銃の威力も、貫通力も、取り扱いやすさも全部が桁違いに良くなるぞ」
「へー、わたしもこの銃にはお世話になってるから使いやすくなるなら改造しようかな」
それを聞いた瞬間、アルマニィの目が強く光った。
「そうか……なら全部つけていく事をお勧めするぞ!ここにあるものは一級品ばかりだ!きっとお前の生存率を大幅に上げてくれる!」
「わわ!え?え?」
いきなり凄まじい勢いで迫られ、ミエリがその勢いに気押される。
「あらら、ミエリが変な事言うから」
「変なことだったの!?多分違うと思うんだけど!?」
「まあいいじゃん、ここにあっても仕方ないものばかりだし、アルマニィは腕は確かだから良い感じに改造してくれるよ」
「そ、そうなの?じゃあお願いします……」
「よし来た!ここにあるの全部使って最高のカスタムをしてやる!さあお前の得物を出してくれ!」
勢いの落ちないアルマニィにビビりながらミエリが銃を取り出す、よく見ると破損がひどく銃は撃てる状態ではなかった。
「あれ?壊れてる……そういえばわたしってフェイクラムの時弾切れのこれを放り投げたんだっけ、どうして持ってるんだろう?」
「ああ、確かイサオが拾ってミエリのベッド横に置いてたね、多分朝になって無意識のうちに懐にしまったんだよ」
シャラムは自分たちの部屋に男が入っていたという事実をさらっと答える。
「知ってたんなら言ってよ!と言うかイサオさん勝手に部屋に入ったの!?」
「そんなことより壊れてるのに気づかなかったとか手入れ不足だよ、命預けてる物なんだからしっかり管理しないと……まあ私も見かけた時壊れてるのに気づかなかったけども」
「なんだそのハンドガン壊れてるのか?なら修理も兼ねてカスタムしといてやる、ちょうどよかったじゃないか」
アルマニィがミエリの銃を手に取って状態を見ながらそう伝える。
「あ、そうだ、ついでにそこのカードも持っていっていいぞ」
「え、この緑のカードですか?でも専門職じゃないと……」
「アルカネラはデッキを作らなければ誰でも持てるんだ、それにカードプレイヤーの教習を受ければカードプレイヤー同士の戦いの為のデッキ所持は許可される」
「随分と免除の多い専門職みたいですね」
「代わりに普通の専門職として使う際に必要な『タクティカルプレート』って道具の所持が制限される……まあ趣味で持つ分には問題と言うことだ」
「よくわからないけど貰えるなら貰っとけばいいじゃんミエリ」
「他人事だからって簡単に言わないでよ」
「それに……そいつは普通のカードじゃないらしい」
「普通じゃないって、どういうことですか?」
ずっと興味無さそうに聞いていたミエリにだが、アルマニィが突如神妙な顔で語りだしたことで思わず聞き返してしまった。
「なんでも戦いで使うにしても特殊なタイプのカードらしくてね、誰も扱えないからってことで最後の所持者はあたしの店に売りに来たんだ」
「誰にも扱えないってことなら多分持ってても安全だよ、お守り代わりに持っておけばいいんじゃない?」
「だからシャラムは他人事だからって簡単に捉えすぎ……ってレガナどうしたの?」
興味無いものを押し付けられまいと拒んでいたミエリだが、ふとショーケースに目をやるといつの間にかレガナがガラスに張り付いてカードを眺めていた。
「わぁ……きれい……」
「え?どうしたのレガナ?」
「ミエリ、これ貰えるの?」
「う、うんそうだけど」
「じゃあ、あーしの籠の中に入れて」
「え……?まあ分かったよ……」
「よし、交渉成立だな、はぁ〜これでやっと在庫処分出来る」
「あはは!アルマニィったら本音漏れてるよ」
(こいつら……)
好き勝手に言う二人にミエリが心の中で悪態をつく。
アルマニィがショーケースを開けてパーツとカードを取り出す、パーツはそのまま銃と共にトレイに入れ、カードはレガナの住処となった籠の中に入れられた。
「ふぅ〜……落ち着く……」
保護用のカードケースに入れられたそれに添い寝するようにレガナが横になるとそのままリラックスしていつのまにか寝息を立てていた。
「なんだろう、レガナが特殊なのかカードが特殊なのかわからないなぁ」
「今考えても仕方ないことだろ、さあもう帰った、今からカスタムするから明日の好きな時間に取りに来な」
「あのー支払いは?」
何も知らされずにことを進められるのは流石に認められず、さっさと追い出そうとするアルマニィにミエリが食い下がる。
「そんなの、取りに来た時でいいさ」
「それって拒否できないやつじゃないですかぁ!せめて値段くらい教えてください!」
「はぁ〜仕方ない、6000SFcだよ」
「服の代金に比べたら遥かに安いけど、それでも高いですね……」
「落ち着きなよミエリ、武器にここまで手を加えるなら値段としては適正だよ」
「そうなの?まあお金なら十分あるしお願いします」
「安心しな、ちゃんと命を預けられるものにしておくから」
「……そういえばアルマニィさんは先程次の依頼の為に作業場を掃除するとおっしゃいましたが、その「次の依頼」のことは大丈夫なんですか?」
ずっと黙って事の展開を見守っていたビルセティが思い出したように口を開く。
「ん?次の依頼?これが次の依頼だよ、いつか来る依頼の為にあの場所を掃除しようとしてただけで別に仕事なんて入ってなかったよ」
「……本当に暇なんだね、ここは」
言葉が出なくなったビルセティの代わりにミエリが呆れながら呟いた。
………………
「ふぅ、全くとんでもない所だったよ」
本日四度目のガラクタトンネルを潜って店を出たミエリが最初に放った言葉は愚痴だった。
「でも腕は確かだし大概の要望は聞いてくれるし、困ったことがあったらここに来ると解決してくれるしで便利ではあるんだよねー」
「あとは値段を抑えてくれるか出入り口をどうにかしてくれると通いたくなるんだけどね……初見の印象じゃ一回きりでいいかなって感じ」
ため息混じりにミエリがこの店の評価を口にする。
「そういえばミエリってアルマニィにはタメ口じゃなかったね、アマユさんには最初からタメ口だったのに」
「え、まあそうだね……だってあれはお店には見えないしあの人を店員と認識できないでしょ」
「あはは!それは確かに!」
「シャラムさん、もっと静かにしないと周りが見てます」
ミエリが性根の曲がったことを言い、それにシャラムが反応してビルセティが注意する。
そんな日常の一コマを演じながら三人は籠の中のフェアリーと共に夜の帰路についた。




