3-11 変わり者のドワーフ
店の前に到着するとビルセティが再度ガラクタをモーゼの海割りの如くかき分け道を作り、そこをミエリが籠を抱えて通り抜ける。
「毎回毎回これは流石にしんどいね……こんな入り口を客に通らせるとか店として成り立ってないでしょ」
眠っているレガナを起こさないようなるべく籠を揺らさないように持っていたためか、ミエリは入り口から店に入ると籠を置いて労わるように腕をさすりながら真っ直ぐ腕を伸ばした。
「ふぁ〜キツかったぁ、この店に入るのもこれを最後にしたいね」
「入りずらい店で悪かったね」
ミエリが愚痴っているとそれに不機嫌そうに答えながらアルマニィが奥から出て来た。
「え、あ!いや〜そんなつもりで言ったわけじゃなくてですね〜……」
「まあ出入りしにくい店なのはわかってるさ、この建物はまだコロニーの建築物規定ができる前に自分達の世界の様式で家を建てていた連中から倉庫だったものを買い取って使っているからな」
説明をしている後ろアルマニィの背後からシャラムも出てくる。
「ギラッツが嗅ぎつけないよう石と木で囲うことという約束でギルドに黙認してもらっているのさ、まあ他の連中に鉄製の建築物があることを見せないようにするのが真意なのだろうが」
「他の人たちに見せないようにねぇ……それ、意味あるんですかね?」
「まあ裸で放置するよりはマシだろう、わざわざ吹聴するやつもいないしちょっと見られるくらい問題ない、実際ここまで何もなく営業できているしな、バリケードのお陰で客がこないレベルで何もないが」
「本末転倒ですね、あのような進行を邪魔するために置かれた数々のジャンク品はバリケードとしては優秀ですが、同時にお客の来店まで阻害してしまうという、これでは営業も大変でしょう」
「外のガラクタのこと?あれは店に置いとくと邪魔だから外に放り出しているだけだ」
「…………そうですか」
「……この赤毛、本気で店やってるの?」
ビルセティの理解しようとする意思を無碍にしてしまうアルマニィに二人が言葉を失う。
「まあ私みたいな物好きがたまに来るみたいだから営業はやっていけてるみたいだよ、でもここありえないくらい高いからねー」
「そういえば、わたしの服っていくらかかったんですか?」
「え、値段聞いちゃうの?大した額じゃないから気にしなくて良いよ」
「そ、そうなんだ……アルマニィさんいくらで作ったんですか?」
「ん?そんなに聞きたいのか、3万だぞ」
「さ、さんまん!?」
どうしても気になったのか失礼を承知で値段聞こうとするミエリは、はぐらかすシャラムからアルマニィに標的を変え、それに対してアルマニィもあっさりと答えた。
「ちょっと!なんで言うの!?」
「別に問題ないだろう?解明者なんて金持ちなんだし、値段を聞けばそれなりに大事に扱ってくれる」
「さ、3万って……ぼったくりもいいところじゃないですかぁ!!」
「む、失礼だな、これでもかなり奮発しているんだぞ、使ってる素材は特に貴重なものばかりで本来ならもっと天文学的な数字になってても良いほどだ」
「本当ですかぁ〜?むしろ説明でぼったくり感が増してますよ……」
「ん……?ふぁ〜……なにぃ……騒がしいって……」
ミエリの大声でレガナが起きる、背伸びと共に加護から光の粒子が弾けて広がり暗い店内に小さなイルミネーションを作り出す。
「ん?こいつはフェアリーか?初めて見るタイプだな、羽から出る粒子が空気より軽いとは」
「あーっ!!この子って私が回収したフェアリーじゃない!!!?」
「うるさっ!」
「ひう!?」
シャラムが自分の見つけたフェアリーと再会できた喜びから音量の調整出来ていない叫びをあげる。思わずミエリは反応して声を上げ、横にいたアルマニィが座った目で耳を塞ぎ、その声を向けられたレガナは酷く怯えた。
「いや!来ないで!」
レガナは素早く飛び上がるとミエリのうなじあたりに着地し、シャラムから隠れる。
「大丈夫だよ、このドラゴンは人を食べたりしないから」
自分の後ろに隠れるレガナを撫でながらミエリが落ち着かせる、当のシャラムはというと酷く怯えさせたことに申し訳なさとショックを感じたのか硬直している。
「ミエリ、ここには服を確認しに来たのですよ、いつまでもレガナを撫でていても仕方ないです」
優しい顔でレガナを撫でているミエリにビルセティが本来の目的を伝える、その口調はどこかムッとしていた。
「あ、そうだったね、そんなすごい服なら期待しちゃおうかなー」
「安心しろ、期待以上のものになってるから」
そんな他愛もない話をしながら奥へと向かう一同、その後には硬直したままのシャラムだけが残された。
「どうして……お金出したの私なのに……」