3-10 腹ペコフェアリー
治療院に到着し、フェアリーが治療を受けている様子を見ながらミエリとビルセティは救出したフェアリーのことについて話し合っていた。
「この子、ここに来てから酷い目に遭ってばっかりだ、わたしはシャラムやビルセティに助けてもらったから無事だったけどもし会えなかったら……」
「ミエリ、不安を感じるようなことは考え無い方がよいと思います」
「うん……」
ミエリは力無く返事をしてフェアリーの方を見る。
「それよりこの子はわたしたちで保護しないといけないよね、でもそれだとダンジョンに行っている間はひとりぼっちになってしまう……」
「このフェアリーも一緒に連れて行けばいいのでは?」
「でもこの子はきっとトラウマを抱えてる、解明者にはならないほうがいいと思うな」
この世界は残酷だ、なにも知らない弱者は力あるものに蹂躙されてしまう、ミエリは今になって何故イサオが解明者になることに反対していたのかその気持ちが理解できた。
「それは本人の気持ち次第だと思います、私がミエリについて行くと決めたのは私の意志で、ミエリが戦うと決めたのも自分の意志のはずです」
それを聞いてミエリがハッとする。
「ならば、これからのことは彼女と話し合って決めるべきであって、私たちだけで勝手なことを言うのは良くありません」
「……そうだね、ちょっとあの子と話し合ってくるよ」
そう言ってそばを離れるミエリにビルセティは微笑みながら手を振った。
ちょうどミエリが近づいたタイミングで治療を終えたようで担当した治療士が立ち上がりミエリに喋りかけてきた。
「ふぅ、治療は終わりました、どうやらこのフェアリーには高い自然治癒力があるようで軽い傷は治っていましたよ」
「そうですか、ありがとうございます」
治療士は軽く礼をするとその場を立ち去る、それに入れ替わるようにミエリが籠に座り込むフェアリーの側に座って目線を同じにしながら話しかける。
「大変だったね、もう心配ないよ」
「うっさい……あーしに話かけないでよ」
「そうは言ってもこれから一緒に生活するんだから話さないわけにはいかないよ」
「一緒に……?ちょっと待ってよ!なんでそんな話になってんの!?」
「だってきみ、この世界のこと何も知らないでしょ、蘇生院での動揺の仕方がそうだってみんな言ってたよ?」
「蘇生?そうだ……あーしいきなり真っ暗闇の中で目が覚めて訳も分からず彷徨ってたら急に体が痛くなって、動かなくなって、それで……」
「あっごめん……嫌なこと思い出させちゃったね」
「…………もうほっといて、もう動きたくない」
「それはここの人が困るからダメだって」
「知らないそんなの、もう誰も構わないで」
「じゃあせめてわたしの部屋で寝ようか、それなら誰も何も言わないから」
「……わかった」
「よし決まり!この籠って貰っていっても大丈夫かな……すみませーん!!」
ミエリが大声で係員を呼ぶとよくカウンターにいるエルフの女性が声を聞いてミエリのところまで来た。
「なんでしょうか?」
「すみませんこの籠ってもらえますか?なるべくなら中の毛布も含めてなんですけど」
「分かりました、それなら360SFcになりますね」
「お金取るの!?しかも高い!」
「備品を譲るんですから補填はしてもらうのは当たり前ですよ、こちらも商売なんで」
「うう……手持ちあったかなぁ」
「ミエリ、ここは私が払います」
そう言うとビルセティが端末を取り出してエルフの係員に渡す。
「え?でもビルセティはお金なんて持ってないでしょ」
「皆で倒したあのフェイクラムというグロブスタの報酬が入ってたのでお金に関しては問題ありません、使い道を聞く限り私には必要なさそうですし」
「え、そうなの?どれどれ……え!?ろ、ろくまん!!?」
そう言われてミエリも自分の端末を確認するとどうやらすでに報酬は振り込まれていたようで60000SFcという莫大な数字にミエリが驚愕する。
「そんなに驚くことですか?」
「いやだって露店の普通のキニャルが8SFcで宿の宿泊費が一週間分で300SFcってレベルなんだよ!?わたしにこんなに入っててみんなはちゃんと貰えたの!?というか宿屋より高い籠ってなに!?」
「籠だけでなく毛布も含めた値段です」
エルフの係員がビルセティから端末を受け取って手続きをしつつもミエリの言葉をすかさず訂正する、
「どっちにしろ高いよ!」
「落ち着いてください、私も同じ額が振り込まれてました、他の皆さんも同じ額をもらっているはずです」
「そ、そうなの?後からみんなに聞いておこう……」
「支払いを確認しました、ではまたの来院をお待ちしております」
「いや、ここは治療院なんだから治療終わった人に対してお待ちしておられないでくださいよ」
フェアリーの入った籠を抱えながら係員の言葉にツッコミを入れてミエリが立ち上がり、治療院を出た。
「じゃあ宿に戻ろう、シャラムなら出来上がった時に連絡してくるだろうし」
治療院を出て宿への道を行きながら独り言のように呟きフェアリーの様子を見る。
「そういえばあなたの名前を聞いてなかったね、わたしはハスハマ ミエリっていうの、あなたは?」
「……レガナ」
「レガナね、これからよろしくね」
「私はビルセティと言います、よろしくお願いします」
二人の自己紹介を俯きながら聞いていたレガナが籠の中で寝そべり毛布の中に潜り込んだ。
「話は済んだでしょ、もうひとりにして」
「つれないなぁ、あ!キニャル屋があるね!ちょっと寄ってかない?」
「私は今のところ空気中の魔素だけで事足りてますが、ミエリがそういうのならいただきたいです」
「こう来なくちゃね、すみませーんキニャル二つください、野菜入りで!」
「はいよ、二つで30SFcね」
ミエリが端末を取り出して支払いを行う、しばらくして出てきたキニャルは出来たてで良い香りを漂わせていた。
その香りを嗅いだのかレガナが空腹を知らせる音をお腹から発する。
「やっぱりお腹空いてたんじゃん、ほら食べて」
ミエリはそう言うと食べやすいように少し千切ったキニャルをレガナに差し出す。
最初は戸惑っていたレガナだが欲求には勝てず両手でキニャルを掴むと思いっきり頬張った。
「〜〜〜〜ッ!!美味しい……!」
目を輝かせて猛烈な勢いでキニャルを食べ切ると物欲しそうにミエリのキニャルを見る。
「まだ欲しいの?なら素直に言えばいいのに、欲しいならちゃんとお願いして?」
「……もうちょっとちょうだい」
「よくできました」
それを聞いて先ほどより大きくキニャルを千切ってレガナに差し出すとまた両手で掴んで食べ始める。
「随分と空腹だったようですね」
「そりゃあの日から何も食べてないなら丸二日ひもじい思いしてただろうし」
「ふぅ……お腹いっぱい」
キニャルを食べ終えたレガナはやや膨らんだお腹をさするとそのまま横になった。
「ふう、全く世話が焼けるね」
「愚痴を言うにしては、嬉しそうな顔をしますね」
うつらうつらとしているレガナの様子を優しい表情で見つめるミエリのため息をビルセティが微笑みながら指摘する。
その時、ミエリの端末が震えて連絡が来たことを伝える。
「あ、シャラムかな……もしもし?」
「ミエリ?もう完成したから試着してくれってさ」
「もう!?早くない!?まだ三時間くらいしか経ってないよ!?」
「ミエリはドワーフを舐めすぎだよ、まあ私もドワーフのことはよく知らないし、アルマニィが手抜きしたのかもしれないけど」
「おい聞こえているぞ、適当抜かすな」
シャラムの言葉に反応してアルマニィが遠くからツッコミを入れる。
「まあそんなわけだから早くきてよ!ミエリに似合うと思うよ!」
「……切られた、相変わらずだねシャラムは」
言いたいことだけ言うとシャラムが一方的に通話を切る、ミエリはそんなシャラムのマイペースさに呆れるが、その声色はどこか優しかった。
「では宿に戻らずそちらに向かいますか、レガナも寝てしまいましたし」
「そうだね、新しい洋服楽しみだな」
そう言うと軽やかな足取りでミエリはアルマニィの店へと向かった。
ちなみにSFcとはストレンジフィールドクレジットの略でこの世界の通貨の名称で尚且つ貨幣の単位のことです。




