3-9 予想外の再会
「はぁ〜……なんかあの人やりずらいなー」
「ですが、悪い人には見えませんでしたよ」
「いや悪い人ではないんだよ、ただザ・職人って感じですごい気難しそうな感じがしてさ」
暗い通路を歩きながらミエリとビルセティがアルマニィの印象を語っていると、カウンター兼ガラクタ置き場と化している広い玄関にたどり着いた。
「あらためて見ると凄いねここ……これをお店だと判断できたシャラムはすごいよ」
そんなことを言いながらミエリが店の中を見渡していると、彼女たちの立っている作業場への入口から見て手前にあるカウンターより先の右側……つまり出入り口から見てすぐ左手に見える位置にショーケースのような物が置かれているのに気づき、そちらに歩を進めた。
「なんだろうこれ、ここだけ手入れされてるけど」
ミエリがショーケースの中を覗き込むとそこには、なにやら写真立てのようなケースに一枚のカードのような物が入れられて大事に置かれていた。
「これって……カードかな?なんか色々書いてある」
緑 一角兎霊神 アルテミサージュ 6
0/6 マイスター・ユニット 兎 女神
このカードが出た時、または攻撃を行う時にデッキチャージ+2してもよい。
このカードは戦闘中のみ+X/+0となる、このXの値はこのカードの現在のバイタルと同じである。
【降霊】GP6:(このカードがマイスターゾーンにある時、グロウゾーンのカードを六枚デッキの下に置くことでこのカードを【停滞】を付与して召喚できる。【降霊】の効果で出たこのカードはターン終了時にデフォルト状態でマイスターゾーンに戻る。)
「????…………なにこれ?もしかして魔法に使うカードなのかな?」
緑色を基調とした謎のカードに首を傾げながらその隣を見るとミエリの持っている銃と同じような、しかしどこか形の違う部品が並んでいた。
「うわぁ、ここって服以外にも銃とか扱ってるんだ……でもなんでバラバラなんだろう?壊れてるのかな」
壊れている……それにしては部品一つ一つが丁寧にショーケースの中に飾られていることに首を傾げながらミエリがその場を離れ店の出入り口に向かう。
「まあいいや、覚えていたらアルマニィさんに聞いてみよっと、ビルセティまたお願いね」
「了解しました」
そう言うとまたビルセティが触手を出してガラクタの森に道を作り、その中を通ってミエリが外に出る。
「ふぅ〜……さぁて、ちょっと街の中散策しようか、ビルセティもこのコロニーの中見てみたいでしょ?」
「ミエリが見たいものは私も見たいです、行きましょう」
ふたりは街の中を歩き出し、やっとミエリの望んだ休日が始まった。
「どこに行こうかなー、洋服とか見に行かない?今作ってもらってるのもいいけど普段着とか欲しいし、ビルセティもずっと同じメイド服じゃ嫌でしょ?」
「別に今のままでも構いませんが、ミエリが選んでくれる服なら喜んで袖を通します」
「そっか、じゃあ決まり!早速洋服屋を探そう!」
そう言ってミエリがビルセティの手を取って街の中を当てもなく駆け出す、ビルセティはそんなミエリの突発的な行動に顔を真っ赤にしていたが先を見ていた彼女にはビルセティの動揺は見えていなかった。
………………
「うーん……どこなんだろ、ここ」
「道に迷いましたね」
二人はいつのまにか人気のない寂れた居住区に迷い込んでいた。
「どう見ても楽しいショッピングが出来そうな感じじゃないし、戻った方がいいよね……うーん、どうしよう」
「ミエリ、端末で地図を開けばいいのでは?」
そう言うとビルセティが端末を開き地図を出した。
「え、ビルセティも端末貰ったんだね……そのチョーカーだけじゃなかったんだ」
「前にも言いましたが悪いようにはされてません、この端末の使い方も教えてもらっています」
「そうなんだね……って使い方分かってるなら地図機能あるって早く言ってよ!」
「あ、すみません、てっきりミエリは使い方を知っていて使うのを拒んでいたのかと思いまして……申し訳ございません」
「うぐっ……!ただ忘れていただけだよ……というかその考え方はおかしいって、何か疑問に思ったらガンガン言ってね」
「分かりました」
「よし!じゃあ戻ろうか……ん?」
不意にミエリが耳をすませる仕草を取る。
「どうしました?ああ、なにかいますね」
「コロニーの中だから何かいるのは当然だけど……これはトラブルの匂いがする」
そう言うとミエリは騒々しい声が聞こえる建物の隙間を除くと……
「ふぅ〜悪くないなぁ」
「あがっ……も、もうやめ……」
「うっ……ふぅ、まだ抵抗できる力があるのかぁ〜」
「ちょっと、あんたたち何やってるの」
二人の男が壁際で何を取り囲んでモゾモゾと動いている、そんな不審な動きの二人にミエリが声をかけた。
「あん?なんだてめぇは?」
「なんだガキじゃねえか!ふへへ……せっかくだしこいつもやっちまうかぁ!」
二人の男はそう言うと何かを地面に落としてミエリたちの方を向く、その落ちたものはミエリが見覚えがある人物だった。
「あ!あの時のフェアリー!こんなところにいたの!?」
それはシャラムが拾って蘇生させたフェアリーの女性だった、それが液体に塗れながら力無く壁際に寄りかかり、虚な目をしながら肩で息をしている。
「心配すんなお前も同じ目に遭うんだからな!」
迫り来る男たちに怯えたミエリは素早くビルセティの後ろに隠れる。
「ビ、ビルセティ!お願い!」
「了解しました、殺した方が良いですか?」
「いや!動けなくするだけでいいから!」
「分かりました」
命令を受けたビルセティが男たちの前に出る。
「なんだてめっ……うげぇ!」
「な、なんだこい……おぇ!?」
ビルセティは有無を言わさず触手を男たちの首に巻きつけて宙吊りにして四肢も別の触手で封じる、その動きには無駄が無く淡々と作業をするかのような無情さだった。
「ビ、ビルセティ!息止まっちゃう!」
「そうですか、では少し緩めましょう」
ミエリは男たちが少し呼吸しているのを確認すると素早く居住地の真ん中に出て人を呼ぼうと叫んだ。
「誰かー!!人が襲われてまーす!!早く助けてー!!」
少しの間叫んでいるとどこからかドラゴンマンの男が飛んできた。
「どうした?俺はコロニーガードのベリエットだ、襲われてるというのはどこだ?」
コロニーガードが来たことで安心したのかミエリの表情が僅かに緩む、がすぐに手を引いて現場へと急ぐ。
「なんだこいつは!?この化け物どこから!?」
「あ!違います!その子はわたしの仲間で襲ってた人たちを拘束しているだけです!」
「そ、そうなのか……?とりあえず拘束を解け!」
「ビルセティもういいよ!」
ミエリの指示を聞いてビルセティが男たちを降ろす、酸欠状態の男たちは朦朧としながら地面にへたり込む。
「この子が襲われていたの!ほらこんな……え?」
そこでミエリは初めてフェアリーの様子を良く見て何をされてのか理解した。
「ひっ……やめて……もう嫌……」
フェアリーは酷く怯えた目をしながら弱々しく後退る。
「怖かったね……もう大丈夫だよ」
ミエリは優しくフェアリーを抱えるとそっと抱きしめる、最初は震えていたフェアリーも少しずつ落ち着いていった。
「呼んでおいてお前たちだけで話を進めるな、とりあえずそのフェアリーを見せてみろ」
「あ、ごめんなさい……乱暴にはしないであげて」
「安心しろ、どれどれ……ん?なんだこの匂いは?これは……」
ベリエットがミエリの肩を叩きフェアリーを見せるよう仕草を含めて伝えるとミエリは手のひらにフェアリー乗せて身長の高い彼に良く見えるように自身の頭の位置まで掲げる。
ベリエットはフェアリーをまじまじと見ると次に匂いを嗅ぐような仕草をし始めた、ある程度匂いを理解したようで次に項垂れている男たちの方へ近寄ると、今度はそちらの匂いを嗅ぎ何かを理解したように「ほぉ〜」とだけ呟く。
「よし分かった、とりあえずお前らこっちに来い」
ベリエットは二人の男の首根っこを掴むと子猫でも持ち上げるように軽々と掲げて建物の隙間のさらに奥に進んでいく。
「あまり見せられるものじゃないからな」
とだけ言うと思いっきり男たちを振り上げて足元の地面へと顔面から叩きつけた。
ゴシャア!という聞いたことない音とベリエットの突然の行動にミエリが目を丸くして腰を抜かして動揺する。
「ち、ちょっと!何やってるんですか!?」
「なに、ちょっと折檻しているだけだ」
「折檻って……流石に死んじゃいますって!」
「安心しろ、死んだとしても蘇生院で生き返らせてからセキュリティに突き出せばいい」
そういって男たちを無理矢理引き起こして肩に背負うと通りへと出て行く、どうやら二人とも息はしており死んではいないようだ。
「あの、この子はどうしたら……」
「そのフェアリーについてだが……とりあえず治療院で診てもらう必要がある、すまないが俺はこいつらを突き出さなければならないから代わりに連れて行ってくれないか?」
「あ、はい分かりました」
「本当に申し訳ない、この埋め合わせは必ずする」
そう言うとベリエットは去って行った。
「じゃあ治療院に行こうか、ビルセティ道案内お願いできる?わたしはちょっと手を離せないから」
「了解しました……こちらですね」
ビルセティが端末を見て指差しでナビをする。
「だれ……?あんたもひどいことするの……?」
「そんなことしないよ、とりあえず治療しないといけないからそこまで行くんだよ」
そう言ってミエリはフェアリーを宥めながらなるべく人の少ない道を選んで治療院を目指した。