3-8 世話好きでドライな竜
二人がアルマニィの後をついていくと音の響きから広い場所に出たことが分かり、アルマニィが手探りで電気のスイッチを押すと十分な光量を得られていない薄暗い作業場が現れた。
「昔テレビで見た町工場みたい」
「そうか、お前はこのタイプの文化系統の世界から来たんだな、まあそんなやつは珍しくないが」
ミエリの独り言にアルマニィが反応しながら奥の作業台から巻尺を取り出すとミエリに腕を上げろとジェスチャーで指示をする。
「え?なに?」
「なにもヘチマもお前ら装備を買いに来たんだろ?だからサイズを測るんだよ、ほら腕あげて」
言われた通りに腕を上げたミエリの胴体に巻尺を回して胸下、ウエスト、ヒップの順に測っていく。
「うーむ、見事な幼児体型……」
「う、うるさい!」
「おいおい、ジッとしててくれ……よし、完了っと次はこっちだ」
「え、ち、ちょっと!」
そのまま腕、肩幅、脚など残りを測り終えるとミエリを半回転させ、隅に置いてある身長計まで押していく。
身長計はミエリが学校で見たことあるような見た目で、嘴のようなものが降りてきて頭に当たった位置で身長を測るアナログなものだった。
「ちゃんと靴は脱いでくれよ」
「分かってる」
ミエリが姿勢を正して立ったのを確認するとアルマニィが測定を開始した、意外とハイテクな機器だったようでセンサーの明かりが点った嘴が降りてきてミエリの頭に着地するとピーッという機械音が鳴り計測が終わった。
「155cm……小さいなぁ〜、あと体重は48kgか……」
「は!?」
「軽いねぇ〜、解明者は体力勝負だからヒューマンならもっと食べないとダメだぞ」
「なによこれ!?体重まで測れんの!?だったら先に言ってよ!というか測る意味ないでしょ!」
「確かに測る意味はあんまりないが……あたしの自己満足で毎回測ってるよ」
「……ねぇシャラム、この人ほんとに大丈夫?」
「このドワーフは私の鎧の修理も完璧にやってくれてるから大丈夫だよ〜……多分ね」
「お前ら本人の前で失礼だな、まあ何を言っても仕方ないからモノであたしの腕を証明してやる」
シャラムの無責任な発言になんとも言えない表情をするミエリにアルマニィが静かに憤慨するが、すぐに気を取り直し作業台に向かった。
「当たり前だけど、今から製作に入るから完成にはしばらく掛かるぞ」
「製作に入るって……どういったデザインにするとかなんか色々あるんじゃないの?」
「いや、注文内容は全部シャラムから聞いているが?」
「はい……?」
「えーと……ミエリが訓練で疲れて寝ちゃった日に既に頼んでおいたの、ミエリがここに来たときに着てたやつを見せてこれと同じようなやつ作ってって」
「えぇ……それならせめて一言くらいは言ってよ……」
「なんだトラブルか?それなら今からデザイン決め直すがどうする?」
二人の会話を聞いていたアルマニィがミエリの不満のこもった声に反応して振り返り、提案をする。
「え……もうデザイン決めてるの……?」
「今から作るんだから当たり前だろう?なるべく前の服を再現しているからそんなに違和感はないと思うぞ」
そう言ってアルマニィがデザイン画をミエリに見せる。
「わぁ……」
それは黒のレースをあしらったピンクのブラウスに黒のフレアスカートというミエリが着ていた地雷系ファッションをイメージしてより戦闘服寄りにリデザインされており、アルマニィのデザイナーとしての腕が活かされた素敵な軽装鎧だった。
「しかしこれが気に入らないとなるとまた一からになる、そうなるとお前と相談して書き直すからもう一日待ってもらうぞ」
「勝手なことしてごめんねミエリ、もし今出してる分の代金をオーバーしても追加で払うからそれで勘弁して?」
「え?もうシャラムが代金払っているの?」
「もちろん、もう全部済ませていたんだよ、ミエリへのサプライズプレゼントだと思ってさ」
「それならサプライズならこっそり採寸まで済ませて服を用意していた方が様になっただろうに、中途半端な奴だな」
シャラムの無計画な行動にアルマニィが呆れる。
「え、あ……すみませんこれでお願いします」
ミエリがかしこまってデザイン画を指差しながらお願いする。
「え?これでいいの?」
「はい、もうこんなにしてもらってるならワガママとか言えないです、はい」
注文も済ませ、代金まで先輩に払ってもらい、製作者にはデザイン画まで描いてもらっている以上なにも言えないとミエリが縮こまりペコペコと平謝りしながら肯定マシーンとなる。
「無理しなくていいんだぞ?これから長く付き合うやつなんだ、自分の納得する物になるよう頼むのは悪いことじゃない、まあ機能に問題ないレベルでだが」
「……いや、これでいいよ……普通に可愛いと思ったし、元々自分が着てたんだから気に入らないわけないでしょ」
アルマニィの気遣いを聞いたミエリが顔をあげてデザイン画を手に取り見つめる。
「これで戦えるならそれで十分、だからこのデザインで製作をお願いしてもいい?」
「よし、交渉成立だな、早速作業に取り掛かるから話しかけるんじゃないぞ」
そう言うとアルマニィ作業台に向かい黙々と製作に取り掛かり始めた。
「えっとぉ……わたしたちはどうすればいいの?」
「大人しくしてた方がいいかな、下手にちょっかいかけると怒号と共に道具が飛んでくるよ」
「お前がダル絡みしてくるからだろう?まあミエリもあまり話かけるのはやめてくれ、気が散ると作業が進まないから」
それを聞いたミエリはなるべく音を立てないように出口に向かい、
「そうなんだ、じゃあわたしはこのまま外を散歩してくるね、ビルセティ行くよ」
と言ってそそくさとその場から退散した。
「お前は行かないのか?」
大人しく出て行くミエリを見送るシャラムに振り向かないままアルマニィが問いかけた。
「んー?ビルセティがいるからチンピラに絡まれても大丈夫でしょ」
「いや、そうじゃなくて」
「わくわくでプレゼント用意しようとしてたのにあっさり別行動するとか、思ったより冷たいなとでも言いたいのかなぁ?」
アルマニィの言いたいことを先読みしたような言葉を語気強めにシャラムが発する。
「そんなことは言ってないぞ、それにずっと一緒にいる方が不気味だ、ただお前のミエリに対する態度にどこか違和感を感じただけだよ」
「へー、違和感ね……例えば?」
「ここに来たときのミエリの態度から無理矢理連れてきたんだだろう?それほど強引に連れ添ったのに去る時は一言も声をかけずあっさり見送った、お前はどこか彼女に対して淡白というかなんと言うか……ドライな印象を受けたんだ」
「…………」
そんな指摘に対してシャラムは沈黙を貫く。
「まあ大人しくしているならあたしはどっちでもいい、出来上がったらどうやってミエリにプレゼントするか考えておけ」
言いたい事を言い切ったアルマニィは黙って作業を再開する。
(ドライ……かぁ……)
作業場の隅に置かれた椅子の上で膝を抱えて座りながらシャラムは物思いに耽って大人しく待つことにした。