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ストレンジフィールド  作者: 大犬座
3章 ストレンジャー・サークルとコロニーの悪意
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3-7 中古物件のドワーフ

「それで、わたしはどんなところに連れていかれるの?まだなんにも聞かされてないんだけど」


ミエリがシャラムの背中を見ながらどこか皮肉っぽく言う。


「んー?良いところだよ、ていうかなんでそんなに不機嫌なの?」


軽やかに歩いていたシャラムがミエリの方を振り向き微笑みながらやはり濁した物言いをし、それが原因と分かっているのかいないのか不明な質問で返した。


「そりゃ流石に皆目見当もつかない場所に連れていかれても純粋に喜べないよ、というかなんでそんなにゴキゲンなの?」


「なんでかって……うーん私にも分かんないかな、でもミエリがこれから私たちと戦ってくれるなら色々用意してあげなきゃって思ってるからさ、ちょっと気合い入ってるかも」


「なにそれ、シャラムに用意してもらわなくてもわたしが自分で色々用意するって」


シャラムのおとぼけた答えにミエリが笑う、この四日間ずっと一緒にいる二人は既に腹を割って話せる関係になっており、そんな親しげな様子をビルセティが眉間にシワを寄せながら眺めている。


「変な見栄は張らなくていいよ、新人は貧乏なんだからこういう時は先輩に甘えなって」


「でも……」


「大丈夫、この間の沼地の報酬で結構懐もあったかいから、それにシャラムから借りっぱなしの服も返さないといけないから今日は装備を買いに行こうと思ってたんだよね」


二人がそんな会話を続けているとふとシャラムが目的の場所に到着したようでいきなり立ち止まった。


「ん?シャラム、ここが目的の場所……って!?」


シャラムの顔が向いている方にミエリが視線を移すとそこには異様な建物があった。


まず正面には木や石の廃材が積み上げられバリケードのようになっており、唯一入れそうな大きな隙間も間から覗くガラクタによって侵入が困難なことがゆうに想像できる。


見上げると「アルマニィワークス」と書かれた看板が掛けられており、外観はともかくここが何かしらの店であることがミエリにも理解できた。


「さ、着いたよ」


「つ、着いたって……なにこの廃墟、もしかしてお店なの?」


「そ、まあとりあえず立ち話もなんだし入ろっか」


そう言うとシャラムがガラクタを掻き分けて唯一の隙間の中に潜り込んでいく。


「えぇ……」


「ミエリ、嫌なら帰ったほうが良いのでは?」


拒否感を隠さない顔でドン引きするミエリにビルセティが心配そうに話しかける。


「いや、シャラムが躊躇なく入ってるなら死ぬことはないだろうし……とりあえず入ってみよう」


「分かりました、私がこの瓦礫を退かしますのでその間にお入りください」


そう言うとビルセティが先に入り全身から触手を出してガラクタの中に道を作る。


ミエリが入ると店の玄関こそ近かったが、その間を様々なものが積まれ立て掛けられ、そしてそれらが崩れのまるでここで戦闘でもあったかのような荒れ具合だった。


「こんなことまでさせて、一体シャラムはわたしに何を見せたいんだろう?」


出入り口と思しきところまでくると周辺はものが退けられてある程度空間になっておりミエリとビルセティが二人で扉の前に立つ。


「よく見たらこの建物、金属が使われてる……というかこれってわたしの世界のやつじゃ……」


ミエリが店の玄関を観察する。壁はセメントを塗り固めたものでくすんだ色をしており、玄関の扉もアルミサッシの引き戸で上部にだけ曇りガラスが張ってあるものだった。


(なんだろう……この古臭さは)


元の世界で築三十年以上経ってる建物が放つ、独特の寂れた感じを店から感じたミエリは不安な面持ちのまま引き戸に手をかけ恐る恐る開いた。


「あ、遅かったね!ほらこの子が私の後輩のミエリだよ!」


シャラムがテンション高めにミエリを掴んで引っ張りながら奥のテーブルに座っている何者かに紹介する。


「ん〜?どれどれ……随分と幼い子を後輩にしたんだな、まあお前と同じ体型だったら面白みがないから私としては有難いが」


奥に座っていたのは全身茶色の毛で覆われた獣のようにも見える小さな種族だった、毛先は長く人間と同じ位置にあるピンと伸びた獣耳も毛で覆われており、少なくともミエリのファンタジー知識では当てはまらない姿だった。


その人物が掛けているメガネの位置を修正し、足の届かない椅子から飛び降りると二人に近づきミエリをしげしげと見る。


「一応ミエリは私より成長年齢は年上だけどねー、でも先輩だから私の方が立場は上だよ」


シャラムがフフン、と鼻を鳴らして偉そうな態度をとる。


「ん?成長年齢って?」


「こいつは本当に新人なんだな、成長年齢とは他の種族がどれくらいの年齢かをヒューマンの最高寿命と言われる120歳を基準に換算したものだ」


「へー……よくわかんないけどつまりみんなの年齢を同じ数字で表そうとしてるんだね、じゃあシャラムは今何歳なの?」


「寿命は種族によってバラバラだからねー、混乱を招かないように1番人口の多いヒューマンを基準にこうしてるんだよ、私は今320歳だけど成長年齢で言うなら21歳くらいになるよ」


それを聞いてミエリに衝撃が走る、実年齢こそ年上だが精神年齢で5歳年下の彼女の方が立派に独り立ちしているという事実はミエリに少なからずショックを与えた。


「動揺しているところ悪いけど、ここは店であって談話室じゃないから続きは買い物しながらだ」 


「わ、分かった……ところでなんて呼べばいいの?」


「あたしはアルマニィだよ、ちなみに種族の系統はドワーフだ、もっと言うと成長年齢は18才だよ」


「18……?ええぇぇ!?」


ミエリが驚愕し動きを使った大げさなリアクションを取る。


「ふんっそんなことだろうと思った、ヒューマンからすると声が老けているからおばさんと思ったんだろう?」


「まあ種族間じゃ老若男女ってお互い分かりずらいからね、でもアルマニィって年相応の格好してるから分かる人には分かるんじゃない?私は分かんなかったけど」


「お前ら……はぁ〜、まあいい欲しいものがあるんだろう?三人ともこっちに来な」


そう言ってアルマニィが振り返り奥に先導する、前からだとエプロンで見えなかったが彼女の服装は短いプリーツスカートに袖の膨らんだゆるい印象シャツを着ており、足元も靴自体はこの世界じゃ一般的なそこの厚いブーツだが紋章ような柄のニーソックスを履いているという、シンプルながら店の雰囲気に合わないくらいのオシャレをしていた。


「あ、ちょっと可愛いかも……」


ミエリが思わず呟く、するとそれを聞いたシャラムがミエリに顔を近づけて話しかけてきた。


「でしょ?仕事柄派手なオシャレできないんだろうけどああやって仕事の邪魔にならない程度に着飾ってるみたいだよ、外出ないのにね」


「おいお前ら聞こえてるぞ」


「「は、はいぃ!!」」


アルマニィの地の底から聞こえるような低い声に二人が思わず姿勢を正して返事をした。


「全く……か、可愛いとかなんなんだ……そりゃ可愛いって言われたくないわけじゃないけどさ」


呆れるようにため息をついてアルマニィが歩き出すがその様子はどこか挙動不審で、可愛いと言われ慣れてないのかミエリの言葉に酷く動揺していた。


(不器用な人たちばかりですね)


そんな三人の様子を見ていたビルセティは一人そんなことを心の中で呟いた。

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